森保ジャパンの「W杯優勝」は夢幻。今こそ必要な"もうひとつの代表"
W杯出場を決めた森保監督だが、メンバーは固定的。本番を勝ち抜くには、メンバーを大量に入れ替えても戦える戦術が不可欠だ
今年3月、森保一監督が率いるサッカー日本代表は、8大会連続のW杯出場を〝史上最速&世界最速〟で決めた。それに浮かれたのか、慎重な森保監督が「W杯優勝」という目標をぶち上げた。
ただ、3月はバーレーン、サウジアラビアと1勝1分け。世界のトップと比べたら〝弱小〟と言える相手に大苦戦を強いられた。率直に言って、今のチームでは「W杯優勝」などかなわぬ夢で、ベスト8に向けても抜本的改革が急務だ。
「史上最強」とうたわれるだけの選手は擁しているが、代表では所属クラブ以上のパフォーマンスを出せていない。
例えば、ブンデスリーガ(ドイツ)の強豪バイエルン・ミュンヘン所属の伊藤洋輝もまるで別人。多くの選手が所属クラブと違うポジションで〝不具合〟を起こしている。森保監督はあらためて選手の適性を理解し、戦術に適応させるべきだろう。
「2、3チーム分くらいつくれるように選手層を厚くしていきたいと思います」
森保監督はそう言うが、1チーム分も完成には程遠い。3月の2試合も固定メンバーにこだわり、無理に招集した守田英正、上田綺世らが負傷するありさまだ。
W杯は出場国枠が32から48に拡大され、決勝まで8試合を戦う必要がある(前回までは7試合)。過去、日本はベスト16が最高で、その壁に4度も阻まれた。4試合で力尽きているが、今回はベスト8に進出するまでにも5試合を戦わなくてはいけない。
固定メンバーでは勝ち抜けない。今こそ、総入れ替えに近い布陣、〝もうひとつの代表〟を探るときだ。
まず、アジア最終予選を勝ち抜いた「3-4-2-1」のフォーメーションはひとつのオプションとして格納し、新たな戦い方を見つけるべきだろう。なぜなら、三笘 薫や堂安 律、中村敬斗を「ウイングバック」で起用するのは本末転倒だからだ。
彼らのように、高い位置で仕掛けて得点を生み出せるサイドアタッカーの人材こそ、日本の最大の武器。それをバックラインまで下げては攻撃に転じにくく、守備も弱くなる。もはや自滅に等しい。
何より、世界の強豪で3バックを採用している国は少ない。さらに、「右のウイングバックには右利き、左には左利き」が原則で、ピッチの〝大外〟を駆け回るタフネスを持ち、利き足でクロスを入れるのが基本だ。
今の代表では、右利きの三笘と中村が左ウイングバック、左利きの堂安は右で起用されている。彼らは所属クラブでも同サイドでプレーすることが多いが、それは得意のカットインが生きる「ウイング」での話。唯一、右利きの伊東純也が爆走からのクロスを見せるなど、右ウイングバックへの適性を示している。ただ、その場合も高さを誇るFWが不可欠だ。
端的に言えば、森保ジャパンは4バックに戻すべきだろう。その際のサイドバックの人材は、左に関しては38歳の長友佑都を招集するほど乏しい。しかし、今回はケガで未招集の町田浩樹、伊藤、中山雄太に加えて、新人発掘に力を入れることで問題は解消できる。
右では菅原由勢が、サウジアラビア戦では右ウイングバックで不発だったものの、彼の適性はサイドバック。ほかにも、関根大輝がフランスで経験を積んでいる。
欧州の主要クラブの標準は4バックであり、久保建英をはじめとしたサイドアタッカーたちの〝崩す力〟を最大限に生かすべきだろう。堂安や伊東もそれぞれのリーグで攻撃を牽引し、三笘や中村も単騎でも仕掛け、得点を増やしつつある。
とにかく日本はサイドアタッカーの人材に恵まれ、すぐにでも2チーム分以上をつくれるだけに、彼らをウイングバックで起用する戦術は筋が通らない。
そして森保監督は、早急に遠藤航の代役を探すべきだろう。アジア最終予選で、連戦で起用している場合ではない。前回のW杯でも、遠藤の疲労蓄積に比例してチーム力が低下するのを目の当たりにしてきたはずだ。
守田は有力な代役オプションだが、遠藤と組むことも多いだけに除外か。田中 碧も候補だが、ひとつ前の攻撃的ポジションに適性がある。その点は旗手怜央も同じだ。
そこで推したいのが佐野海舟である。私生活の不祥事もあり、直近の代表メンバーから外れていたが、ブンデスリーガでのプレーは攻守両面で力強く、その場を制することができる。遠藤の代わりにふさわしいMFだ。
また、一時は遠藤からポジションを奪っていた橋本拳人も候補に推す。中盤で人と渡り合う、という駆け引きはスペイン挑戦でレベルアップ。復帰したFC東京でも馬力を感じさせるプレーは異彩を放っている。
サウジアラビア戦で無得点だった古橋。本来は得点能力が高いFWだけに、周囲との連携も考えた起用法を試してほしい
トップは上田がファーストチョイスだが、ほかのFW陣が最高値を叩き出せていない。例えば、古橋亨梧の使い方は気の毒なほど雑だ。
サウジアラビア戦では、どのように点を取るのか、周りとの関係性も含めて見えなかった。マンチェスター・シティも食指を動かした点取り屋を生かすすべはあるはず。セルティック時代の同僚、前田大然と組ませるのもひとつだろう。
前田はポストプレーを得意とせず、1トップには適さない。しかしスピードと献身性で〝事故〟を起こし、スペースもつくれるだけに、古橋とセットにすべきだ。
アメリカのMLSで、キャプテンとしてチームを優勝に導いた吉田。今こそ、彼の統率力や戦術眼が必要かもしれない
バックラインは板倉 滉が中心だが、キャプテンとしてMLSのロサンゼルス・ギャラクシーを優勝に導いた吉田麻也は、主力を大幅に入れ替えてもチームを束ねられるセンターバックだ。
士気を高めるゲキを飛ばせるし、ピッチの中で臨機応変に対応できる戦術眼もある。高井幸大のような若手を叱咤して力を引き出すこともできるはずで、W杯の1試合や〝クローザー〟を任せられる。
3バックから4バックにするだけでも、編成は正常化し、選択肢は一気に広がる。特に佐野、古橋、吉田は、〝もうひとつの代表〟の中核を担えるだろう。また、欧州で結果を残す〝旬の選手〟を積極的に起用し、その勢いでチームを活性化すべきだ。
変革がなければ、W杯優勝など遠い幻である。
取材・文/小宮良之 撮影/佐野美樹 写真/アフロ
記事提供元:週プレNEWS
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