『映像の原則 改訂二版』、ガンダム放映開始記念日の4月7日に重版出来!
富野由悠季監督による映像演出技術書の最新版『映像の原則 改訂二版』が、『機動戦士ガンダム』放映開始記念日である本日4月7日に重版出来となった。
『映像の原則』初版は2002年に発行。その後2011年に富野監督が全面的な加筆・修正を行い、『改訂版』として生まれ変わった。そして昨年、13年ぶりに富野監督による手直しや新規原稿を加えた『改訂二版』が富野監督の誕生日である11月5日に発売された。
20年以上にわたり、プロ・アマ問わず映像制作に携わる多くの方々はもちろん、映像制作を学ぶ学校の教科書としても活用され、高い評価を受けている本書。そんな本書から富野監督の演出指南の一部を抜粋して紹介しよう。
■映像には原則がある
実際に映像を撮影して、それを再生してみると“思ったように撮れていない”それでも、撮影したものを編集して、より見やすくしたつもりが、なぜか“なんとなく変だ” “思っているほど映画っぽくない” と感じるケースが多いと思います。
ぎゃくに、思った以上に“うまくいった” “テレビっぽく見られる” “映画になっている” と思うこともあるでしょう。
なにごとも、偶然にうまくいくことはあるものですし、映像は“撮ったもの” そのものに力があるために“見られる” というケースもありますから、初めての方でも“けっこう見られる” ものが撮影できて、編集してまとめられることもできます。
しかし、映像を編集することを一度でもやったことがある方なら、十数カットの画像を“つながるよう” につなぎあわせたつもりでも、“つながっているように見えない” “つながりはしたがおもしろくない” “むしろ分かりにくくなった” というような経験をされていると思います。
偶然にうまくいくことなどは、二度三度とおこることではありません。まして、作品化しようとすれば、ますますよく分からない、どのように撮影したらいいのか、どのような順列で並べればいいのか、と考えるようになります。
■感性で映像は撮れない
どのようなジャンルの作品であれ、それを創作するためには、まず創り手の感性が要求されます。とはいうものの、映像は感性だけでは撮れませんし、作画もできません。
なぜなら、映像というのは“見た目” で分かるように見えますが、じつは、かなり複合的な要素が重層的につまっているために、“なんとなく見た目のとおり”に制作して作品にしたつもりになっても“思ったように他人に伝わらない” ことがおこるのです。
ホーム・ビデオ・レベルのものが、関係者にはおもしろいのは“関係者” だからなのです。が、一人でも関係者以外の人におもしろがらせ、メッセージを伝えようとする作品をつくるためには、まったく違った“仕事の技”が必要になるのです。
感性というのは、映像作品の企画の段階での“ひらめき=思いつき” と最終的に作品をまとめる段階で“直感” を働かせるものであって、映像制作プロセスの途上では、かなり論理的な作業に終始すべきもので“理詰めの仕事” に終始せざるを得ないのです。
そのための基礎になるものが“映像の原則” なのです。
■アングルと方向性
映像の視覚的な印象の強弱は、生理的物理的なモメントから発生するものですから、映像の力学というものがあるのです。
アングル、サイズ、動きの方向性、動きの速度が、その主要要素です。
アングル(被写体に対する撮影角度)
俯瞰(フカン)のアングル=弱い印象。総論的印象。
呷り(アオリ)のアングル=強い印象。怖い印象。
人間の平均的な目の位置のアングル=安定感、自然感覚。ふつう感覚。
動きの方向性
右から来るものは強い(左に向うもの)= ふつう。当たり前。自然的に強い印象。
左から右に向くもの = 逆行する印象があるために、そのものが強いという印象。
しかし、左にあるだけのものは、安定と下位の印象。
正面から向うに行く = 当たり前で、弱い印象。状況論、総論的印象。
正面からこちらに来る = 訴え印象。自己主張。動きに強制感がある。
下から上に行く = 極度の逆行だから強い印象。下にあるままのものは下位。
上から下に行く = 自然的に強い。怖い。圧倒的印象。
■イマジナリィ・ライン
これは現場で演出をするうえで、大変便利な考え方なのです。同時に、演技者や撮影、照明、美術、重機(クレーンなどの特機の事)操作マンなどのスタッフに、または助監督、アニメーターたちに、カットごとの処理を考えてもらうときにも大変便利な考え方ですので、きっちりと覚えなければならないものです。
イマジナリィ・ライン = 想像線(味も素っ気もない訳なので、カタカナで通しています)
具体的には、一連のシーンのなかで、いくつものカットに分けて撮影する場合、カメラが乗り越えることのできない線だと考えてください。“被写体とカメラの関係から発生する線” と覚えてもらっても結構です。
コンテ作業でも、被写体をとらえた画面を描いた瞬間にこのラインは発生しますから、次のカットを作画するために絶対的に必要なもので、コンテの段階からこのイマジナリィ・ラインは狂ってはならないものなのです。
なお、富野監督は3月1日付で日本芸術院の会員に就任されているが、2月20日に出された日本芸術院のプレスリリースにおいて、「数多くのヒット作を手掛けるとともに、演出術を解説した著作などによっても、後進に絶大な影響を及ぼしている」と本書のことが触れられている。
演出術に加え、富野監督が考える映像作品・エンタテインメントの本質についての原稿も収録しているので、映像制作に携わる人だけでなく、映像作品に興味を持つすべての人に薦めたい。
記事提供元:キネマ旬報WEB
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