Jホラーの枠を飛び越えた必見の秀作「サユリ」
押切蓮介の人気ホラー漫画を、Jホラー映画の旗手・白石晃士監督が実写化した「サユリ」のBlu-ray&DVDが、3月19日に発売となった。作品は前半の正統派ホラー映画のテイストから一転、後半にはパワフルなアクションエンターテイメントへと転調する、まるで二部構成のような娯楽作。ホラーが苦手という人も、見終われば必ずその面白さに満足する、新感覚の1本だ。
幸せな家族が次々と死んでいく、ある家にかけられた呪い!
ある一軒家に神木家が引っ越してくる。家族構成は両親(梶原善・占部房子)と長女の径子(森田想)、長男の則雄(南出凌嘉)、次男の俊(猪俣怜生)、そして祖父(きたろう)と認知症を患っている祖母(根岸季衣)の7人。仲のいい一家だったが、まず父親が怪死を遂げ、続いて祖父、長女と次男、母親が相次いで亡くなる。中学生の則雄は、霊感の強い同級生・住田(近藤華)から、少女に呪われているからすぐに家を出るべきだと忠告を受けた。祖母と二人だけになった則雄は心細さを隠せなくなるが、そのとき事態を一変させる状況が生まれる。
オープニングでは中古の一軒家で、新生活を始める神木家の人々の幸せそうな姿が映し出される。だが幼い俊はこの家に何か恐ろしい者がいると感じ、通常はボケている祖母も邪悪な存在を感じ取っていた。それを裏付けるように父親が死に、祖父はいきなり裏庭を掘り返そうとし始める。家族に異変が起こって子供たちも薄気味悪さを覚えるが、やっと手に入れたマイホームを母親は手放そうとしない。徐々に不気味な雰囲気を醸し出し、住人の精神がむしばまれていく様を、白石監督は手際よく見せていく。径子、俊、母親が亡くなるところで怖さは最高潮に達するが、このホラータッチの部分はプロローグ。映画の見せ場はここからだ。
祖母が復讐の鬼として覚醒、パワフルなキャラが魅力的
則雄と二人だけになった祖母は、「すっかり目が覚めてしもうたわい」と言って覚醒。認知症の症状は姿を消し、家族を死に追いやった霊に敢然と戦いを挑む、バイタリティ溢れる復讐の鬼となる。最初は祖母の豹変ぶりに驚く則雄も、『儚い霊など、わしらの生命力の強さには敵わない』と祖母に言われて、体を鍛えて、がむしゃらに食事をし、生命力を高めていく。祖母は太極拳の達人で、精神力と中国拳法で霊に対抗していく様が痛快だ。
則雄と祖母は、祖父が掘り返そうとしていた裏庭で、ある少女の遺品を見つける。これが家にとりついた霊のサユリの物で、倒す相手がわかった祖母は、サユリの怨念の元凶が彼女の家族にあると察知し、サユリの家族全員を拉致してくる。
ベテラン女優・根岸季衣の快演が見どころのひとつ!
ここから一大バトルが展開するが、何といっても祖母を演じた根岸季衣の快演が光る。冒頭のボケた感じと、覚醒してからではまるで別人。タバコをすぱすぱ吸い、髪形をロックンローラー風にして、則雄に檄を飛ばすスーパーウーマン振りが面白い。また復讐のためなら常識にとらわれず、サユリの家族に暴力をふるうこともいとわない、パッション溢れるアウトロー的なキャラクターが魅力的。口うるさいおばさん役も多く演じてきた根岸季衣だが、今回の祖母役は則雄をサユリとの戦いへと導く導師のような一面もあり、近年では最大の当たり役だろう。
則雄を演じるのは、NHKドラマ『宙わたる教室』(2024)での好演も印象的だった南出凌嘉。ここでは祖母に鍛えられて、サユリを怖がらないようになっていく、メンタルの変化を巧みに演じている。家族の復讐劇というメインストーリーのほかに、則雄と住田のラブストーリーがサブエピソードとして綴られるが、学校での二人の場面はまるで青春映画の1ページ。則雄の住田への愛が試されるクライマックスも、作品の大きな見どころだ。他にも梶原善、きたろうといったベテランや、テレビドラマ『3000万』(2024)や映画「辰巳」(2024)のヒロイン役で注目を浴びた森田想など、個性的なキャストが映画に厚みを加えている。
監督の白石晃士は「ノロイ」(2005)を皮切りに、「オカルト」(2009)、「貞子VS伽椰子」(2016)、『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズなどで、Jホラーの監督として独自の道を歩んできた。今回はいつも人間が霊にやられっぱなしなJホラーの定番を変えたかったと言っているが、祖母を中心にした人間側の霊への逆襲を描き出して、新境地を開いている。
撮影の裏側がわかる、興味深い特典映像!
今回リリースされるBlu-rayには約50分の〈メイキング映像〉と、作品の完成披露舞台挨拶、公開記念初日舞台挨拶の模様を収めた〈イベント集〉を特典映像として収録。
〈メイキング映像〉では2023年10月から3週間にわたって行われた撮影現場に密着し、白石監督や主要キャストのコメントを織り込みながら、ホラー映画の舞台裏に迫っている。根岸季衣は覚醒した祖母のイメージを、自分から『ジャニス・ジョプリンのような感じで行きたい』と監督に言ったそうで、彼女のアイデアが全面的に活かされている。南出凌嘉は主役としてのプレッシャーを抱えながらも、ホラー映画とは思えない和やかな現場の雰囲気に溶け込んでいった。神木家の家族全員の楽しそうな感じから、チームワークの良さがメイキングから窺える。南出と根岸は、2カ月かけて太極拳の練習をしたそうで、そのトレーニングの成果は映画からも見て取れ、勿論、白石監督の本道である怖がらせる演出、モンスターと化した、サユリの3時間かけた特殊メイクの工程など、映画作りの秘密がわかる見どころも満載。
〈イベント集〉では完成披露舞台挨拶に監督、原作者、南出、根岸が登壇。公開記念初日舞台挨拶にはこのメンバーに近藤華も加わって、撮影中の裏話や作品の魅力を語っている。監督は南出、近藤をオーディションで選んだ理由も披露。また出演者たちが語る『もし幽霊に遭遇したら?』という問いに対する回答も面白い。
導入部こそホラーだが、アクション、青春映画、笑い、ホームドラマと様々な映画の要素をこれでもかと詰め込んだ、もはや一つのジャンルにはくくれないエンタテインメント作品。韓国のプチョン国際ファンタスティック映画祭や、カナダ・モントリオールのファンタジア国際映画祭でも絶賛を浴びた、Jホラーの枠を飛び越えた秀作を、多くの人に観てもらいたい。
文=金澤誠 制作=キネマ旬報社
「サユリ」
●3月19日(水)Blu-ray&DVD発売(レンタルDVD先行リリース中)
Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら
●Blu-ray 価格:7,480円(税込)
【ディスク】<1枚>※本編+映像特典
★映像特典★
・メイキング
・イベント集
★封入特典★
・押切蓮介先生描き下ろし!オリジナル四コマしおり
★音声特典★
・オーディオコメンタリー(監督:白石晃士×脚本:安里麻里×企画プロデュース:田坂公章)
★パッケージ仕様★
・押切蓮介先生 描き下ろしイラスト三方背BOX
●通常版DVD 価格:4,620円(税込)
【ディスク】<1枚>※本編
●2024年/日本/本編108分
●監督:白石晃士
●原作:押切蓮介『サユリ 完全版』(幻冬舎コミックス刊)
●脚本:安里麻里、白石晃士
●出演:南出凌嘉、根岸季衣、近藤 華、梶原 善、占部房子、きたろう、森田 想、猪股怜生
●発売元:「サユリ」製作委員会 販売元:VAP
©2024「サユリ」製作委員会/押切蓮介/幻冬舎コミックス
記事提供元:キネマ旬報WEB
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