【2025 JリーグYBCルヴァンカップ開幕】苦境の前年度王者・名古屋グランパスが全力で臨む1回戦。長谷川健太監督と稲垣祥が語る初勝利への想い

昨シーズンから大会形式が変わり、全60クラブによる一発勝負のトーナメント戦となったJリーグYBCルヴァンカップ。その“初代”カップウィナーとなった名古屋グランパスもまた、3月20日の初戦から連覇への戦いがスタートする。前年度優勝チームですら1回戦からの参加となるフラットなバトルだ。
リーグ戦との兼ね合いで様々な選手起用が各クラブによって見られる中、ディフェンディングチャンピオンの名古屋にとっては気が抜けないどころか、全力で勝ちに行くべき重要な一戦となった。
2月に開幕した明治安田J1リーグでここまで6試合未勝利。2分4敗の最下位に沈んでいるのだ。昨シーズンも開幕3試合で無得点での3連敗という苦境を経験したが、今シーズンは得点こそ取れているがとにかく勝てない。昨年度のルヴァンカップでは1stラウンドで当時J3の大宮アルディージャ、同じくJ2だった横浜FCと対戦し、若手中心のメンバーで勝負して勝ち上がったが、1回戦でJ3のテゲバジャーロ宮崎と対戦する今年に関しては、長谷川健太監督が「しっかりと戦えるメンバーをそろえて臨んでいきたい」と主力の投入を示唆している。
ここまで公式戦未勝利という状況だけに、とにかく勝利を挙げてチームに自信を取り戻させたいというのは選手、スタッフの総意だろう。また、宮崎戦との1回戦では注目の新加入選手ながら開幕前に負傷離脱していた元日本代表GKシュミット・ダニエルが復帰の見込み。その点でもベストメンバーを並べてシュミットとの連係を深めたい狙いが出るのは当然だろう。前週のトレーニングからフルメニューを消化している新守護神について、指揮官は「トレーニングして問題なければルヴァンカップはシュミットで行きたい」とゴーサインを出している。名古屋のゴールマウスは歴代の名手が立ってきた場所。そこを託される男の移籍後初出場というのは、この1回戦の大きな見どころだ。

チームは先週末、J1第6節東京ヴェルディ戦で先制点を奪う幸先の良いスタートを切りながら、後半に失速して逆転負け。試合後、攻守の中心を担うボランチの稲垣祥は次戦となった宮崎戦に向けて「やられる可能性は全然ある。ここで『ルヴァンで弾みをつけて』とかそんな悠長なことは言っていられない。しっかりと危機感を持って、死に物狂いで1勝をつかみにいく」と現状に警鐘を鳴らす。プレシーズンにこの大会について聞かれた際には「昨シーズンのルヴァンカップで結果を出せたことが、自分たちを肯定させてくれているところもある」と答えており、今シーズンもここで勝利を手にすることでベースとなる“自己肯定感”を手にしたいところだ。決して試合内容は悪くないだけに、あとは勝利をもぎ取る作業をどれだけ詰めきれるかという段階。「やっぱり後半、60~70分からのゲーム運びと、そこでチームとしてどうパワーアップしていけるか。そこが間違いなく課題です」と試合のラスト3分の1の戦い方に目を凝らした。
チームを見守るサポーターも、もちろんクラブ全体としても、この大会に期待する部分は大きい。単純に別の戦いとなったことによる心機一転感、下位カテゴリーとの戦いとなる新鮮さ、そして何より前年度覇者としての立場が何かを変えるきっかけになるのではという期待感がそこにはある。
長谷川監督はルヴァンカップについて「選手たちにはいつも言っているんです。『たすきをつなごう』と。ルヴァンカップはみんなでたすきをつなぎながら、頂点を目指そうと」と話し、昨シーズンの優勝も「自信になった。選手も勝てないと疑心暗鬼になってくるので」と勝利の持つ“効能”について触れている。“勝てないと疑心暗鬼”とはまさに現状にも当てはまることだけに、相手がどこであろうとまずは目の前の公式戦に勝つことで、3月29日に再開するリーグ戦での巻き返しにつなげたいはずだ。

「前回は優勝したけど、結局は今年も目の前の試合で勝っていかないともう一回タイトルは取れないし、本当の意味で自分たちの実力がないと優勝できないということは、昨シーズンの大会で思い知った部分もある」と話す稲垣は、今年で34歳を迎えるベテラン。名古屋で2度のルヴァンカップ制覇の経験があってなお、1勝ずつの積み重ねが成功につながると強調する。リーグ戦でいまだ勝てていない状況はその想いを倍増させており、「この試合で何となく『弾みをつけてリーグ戦に行こう』という感じだと、足をすくわれる。そんなプライドも何もなく、死に物狂いでつかみ取りに行く」と全身全霊を懸けてこの初戦に挑みかかる覚悟を見せる。

監督として史上最多となる3度のルヴァンカップ優勝という実績を持つ長谷川監督も、「あくまでもポジティブに1勝を目指して戦っていきたい。その1勝がチームに自信を与えてくれると思うし、活路を見いだすきっかけになる」と、厳しい現状に真正面から向かい合う。名古屋にとって宮崎との対戦は初めてで、いちご新富サッカー場も初体験のスタジアムとなる。ジャイアントキリングが起こりやすい一発勝負のトーナメント戦において未知の要素が戦いを難しくする可能性はあるが、今の名古屋にはもはや失うものなど存在しない。むしろこのどん底から這い上がる第一歩として、名古屋らしい熱く激しいサッカーをこれでもかと表現するべき場となる。そして90分間を戦い続けた先に1回戦、さらには苦しい現状打破のきっかけとなる公式戦初勝利が待っているはずだ。
文=今井雄一朗
写真=青山知雄、徳丸篤史
【制作・編集:Blue Star Productions】
記事提供元:Lemino ニュース
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