市川紗椰が太陽系の惑星の名前の由来について解説「法則に当てはまらない惑星が、われらが地球」
1964年4月から翌年10月まで開催された「ニューヨーク万国博覧会」のシンボル的な巨大オブジェ「ユニスフィア」
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、市川紗椰が「太陽系の惑星の名前」について語る。
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英語など、多くのヨーロッパの言語における太陽系の惑星の名前は、ローマ神話に由来しています。例えば水星(Mercury)は、ローマ神話の商業と盗賊の神メルクリウスにちなんだ名前。水星は天空を素早く移動することから名づけられたといわれています。
同じように、天空で最も明るく輝く金星(Venus)は、美と愛の女神ビーナスから名づけられました。この命名の法則は、1846年に発見された海王星や、1930年に発見された冥王星など、近現代でも継承されています。しかし、この法則に当てはまらない惑星がひとつあります。それが、われらが地球。
「地」の「球」で地球。ある意味、単純でそのままのネーミング。でもいつから、誰がそう呼び始めたのでしょうか? 日本語の「地球」という名前は、私たちが立っているこの場所が「大地」であり「球体」であることを前提にしているから、地球が丸いと証明された後に命名されたの? ほかの惑星の名前はカッコ良かったりロマンにあふれていたりするのに、「地球」とか「Earth」なんて地味な名前にしたやつ、誰なんだ。
英語の「Earth」は、地球という意味と共に、大地、地面という意味もあります。古英語の「eorte」に由来した言葉ですが、これをさらにさかのぼると、アングロサクソン語の「ertha」やゲルマン祖語の「ertō」という言葉に関連しているそうで、それらは地面や土壌、土地を表す意味があったといわれています。ドイツ語の「Erde」やオランダ語の「Aarde」も、「Earth」と同様、地面自体を指すことも、地面でできた惑星を指すこともあるという、二重の意味を持っています。
ラテン語の「Terra」を語源とするフランス語の「Terre」や、スペイン語の「Tierra」も、大地と地球、どっちも指す単語です。"素材"で呼ぼう、という発想はある意味わかりやすいけど、誰が言い出したのか調べても、どの言語でもわかりません。私が調べた限り、日本語の「地球」という言葉は、16世紀頃の中国で、西洋の言葉を「地球」と翻訳したのが最初とされていますが、誰が言い始めたかはっきりしない。
地球やEarth。よく考えたら、素材で呼んでいるのって少し不思議な気がします。SFの作品には、「Earth」という単語に戸惑う宇宙人がたまに出てきます。宇宙人たちの母星の名前は、「家」「居場所」「home」に当たる言葉であるのに対して、なぜ「Earth」は、「地」という素材の名前で呼んでいるのか、と。例えば、猫の名前を「猫」にしているような感じ? 業者向けのスーパーを「業務スーパー」と名づけるような効率性を考えてなのでしょうか。
Earth系もTerra系の語源も、特に球体という意味は含まれていないから、本当にシンプル。『Star Control Ⅱ』というゲームの世界では、ほかにも「アース」と名乗っている惑星がありました。素材オンリーの名前だと、やがて地球人が宇宙に出たとき、同じような事態も起こりえるかもしれません。
と、今週はまったく結論もまとまりもない話でした。
●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。『Dr.スランプ アラレちゃん』に出てくる異星人が、地球を見て「あれがチタマか......」と言う場面が好き。公式Instagram【@sayaichikawa.official】
記事提供元:週プレNEWS
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