米価をつり上げる"犯人"は誰なのか!? 価格高騰で列島騒然「令和の米騒動」はまだまだ続く!
コメ5kgのスーパー店頭価格は、昨年2月は2018円だったのに今年2月初旬には3829円と2倍弱に上がった。コメが店頭に置かれていないこともある(写真/イメージマート)
青天井の値上げが続くコメの価格。品薄に窮した卸売業者がスーパーに値上げを求める事態になっている。農水省は備蓄米放出を決めたが、卸売業者によると量が足りず、高値が続く可能性も高いという。今後コメの価格はどうなるのか?
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■スーパーに販売量を抑えるように要請!?「1月からスーパーに(販売する量を)前年の実績のだいたい7割から8割にとどめております。ですから、2、3割カットしてくれ、売らないでくれということになっています。どういうことをやってるかといいますと、スーパーの店頭価格を大幅に値上げしてもらっています」
スーパーに対してコメの価格を上げて販売量を抑えるよう要請している――。こう明らかにしたのは、米卸大手・神明ホールディングスの藤尾益雄社長だ。備蓄米を放出するという農林水産省の方針にお墨付きを与える、1月31日に開かれた農水大臣の諮問機関「食料・農業・農村政策審議会」の食糧部会でのことだ。
神明といえば、米卸としては国内最大手。そんな同社のトップが「令和6年産(2024年産米)はすでに供給が非常に難しい状態」と吐露するほど、コメは足りていない。原因は昨夏、スーパーの棚からコメが消えた「令和の米騒動」である。
「例えば宮崎とかもそうですけど、もう草刈り場のように集荷業者、また一部の卸が産地に入って......。極早生、早生を中心に6年産が前倒しで買われていった」(藤尾社長)
不足している供給を賄うべく、早く収穫できる九州の大産地を皮切りに、激しい集荷競争が繰り広げられた。例年より速いペースで新米が消費されていく「先食い」が今も続く。過去最低の水準にあるコメの民間在庫量は、一貫して例年より約40万t少ない。
中でも集荷に苦戦しているのが、農業界の巨人・JAグループだ。22年産米を例にとると、JAを経由して流通するコメの割合は39%だった(農水省「米の流通経路別流通量の状況(令和4年産米)」から算出)。
それが24年産は関係者が「コメが全然集まらない。どこにあるかわからない」とボヤくほど集荷できていない。理由は、商系と呼ばれるJA以外の民間業者のほうが高値を提示したから。
加えて、ある大規模稲作の経営者が「うちはJAには出荷していない。民間の米価と開きがあって、JAに出したら経営が成り立たない」と話すように、生産の規模が大きくなるほど商系の業者に売る傾向がある。
零細な生産者が離農し大規模な経営に集約されていくトレンドの中、JAの集荷率が下がるのは避けがたい流れだ。それだけにこの経営者は、農水省による備蓄米の放出を「JAのためにやるんだろう」と冷ややかに見ている。
2021年以降、絶壁のように値上がりしている(相対取引価格は当該年産の出回りから翌年10月までの通年平均価格で、運賃、包装代、消費税相当額が含まれる)
農水省の調査によると、JAも含めた集荷業者の集荷量は、24年12月末時点で前年に比べ約21万t少なかった。同省が主張したのが、集荷業者や卸が米価が上がるのを見越して、21万t分を在庫として抱え込んでいるという〝卸悪玉論〟だ。
「需要に見合うだけのコメの量は、確実にこの日本の中にはあります。しかし、流通がスタックしていて、消費者の方々に高いお値段でしか提供できていない。流通に問題があるということです」
江藤拓農水大臣は、2月14日の会見でこう主張。農水省の調査で24年産米の収穫量は前年比18万t増加しているので、足りないはずはない。入札の形で初回は15万t、2回目に6万tの計21万tの備蓄米を放出することで、流通の滞りを解消する――と説明した。だがこの主張に、少なくない業界関係者が疑問を感じている。
「21万tは、そもそもないんです。農水省が収穫量を調べる方法に問題があります」
とある米卸の役員はこう指摘する。同省が発表した24年産の主食用米の収穫量は約679万tだった。この算出に当たって採用している「ふるい目」の大きさが現実と異なるというのだ。
ふるいは、粒の小さいコメをはじくのに使う。農水省の調査によると、24年産で最もよく生産者に使われたふるい目の幅は1.85~1.9㎜だった。それに対して農水省が収穫量の算出に使ったのは、1.7㎜。しかし、1.7㎜以上1.75㎜未満のふるい目を使う生産者の割合は0.1%。つまり、ほとんどいない。
ふるいから落ちた「ふるい下米(くず米)」は米菓や味噌といった加工用に回る。これを収穫量に含めているので、農水省の出す数字は割り引いて考える必要があるのだ。
近年各地で発生する高温障害も、正確な収穫量の推計を難しくしている。ひどいと10アール(1000㎡)当たりの収穫量が何割も下がる上、地域や田んぼによって大きな差が出る。特に24年産ではコメの主産地である北関東の生産者から「全然取れていない」などと不作を嘆く声がよく聞かれた。
農水省の調査手法では、もはや正確な収穫量を把握できない。業界関係者から信用を置かれていない数字で農水省がコメの需給を計算するから話がおかしくなる。
令和の米騒動に端を発する米価の高騰の元凶は、いわゆる「減反政策」の失敗だ。表向きには18年をもってコメの生産を抑制する減反政策は終わったことになっているが、現実には続いている。
政策の目的は、需要と供給をギリギリで均衡させて米価を高く保つこと。農水省はここ2年、際どいラインを攻めるつもりで計算を誤り、コメ不足を招いている。
■備蓄米に高値がつく可能性もスーパーの店頭価格はもともと5㎏当たり2000円ほどだったのが、今年2月初旬は3829円(農水省調べ)と、前年比で倍近くまで上がってしまった。備蓄米が放出されると、価格は下がるのだろうか。先の米卸の役員は、そうはなりにくいと予測する。
「コメ業界は今、高い米価にヒートアップしている。備蓄米は入札になるので、高値がつく可能性は高い。放出する量も21万tではまだ足りなくて、40万tは必要」
農水省は備蓄米がスーパーなどの店頭に並ぶのは3月下旬としている。一般に広く流通するのは、4月になってからだろう。それまでは、卸や米穀店がすでに高値で買いつけたコメをスーパーに卸すので、店頭価格が下がるとは考えにくい。
放出される備蓄米が現状の一般的な販売方法と異なる場合、消費者に抵抗感を持たれないかという問題もある。スーパーのコメは通常、産年と「新潟県産コシヒカリ」「秋田県産あきたこまち」といった産地品種銘柄を表示するが、備蓄米ではそれが難しいこともありえる。
「落札できたコメが複数の年にまたがったり、単一の銘柄を確保できずに銘柄をうたえなくなったりする可能性がある。ブレンド米が消費者に受け入れられるかがポイント」(米卸役員)
毎月農水省が公表している民間在庫量は500t以上の集荷業者と4000t以上の卸売業者を対象に調査している。上下を繰り返しながら右肩下がりになっていることから集荷が少なくなっていることがわかる。農水省「令和6年12月末民間在庫量のポイント」の表から在庫量の棒グラフを抜粋し、和暦を西暦にして作成
なお、4月というのは、たとえ備蓄米の放出がなくても米価が下がりやすいタイミングだ。
というのも、コメの品質を保つには低温で貯蔵する必要がある。冬場は常温で保管できても春以降は厳しい。「常温だと長く持ってもゴールデンウイーク前が限度」(業界関係者)なので、低温倉庫を持たない生産者や集荷業者がコメを手放すことになる。
また、コメを売買した額を年度末に清算する業者が多く、それ以降は在庫を手元にとどめず売り急ぐ傾向がある。
だから、このタイミングでの備蓄米の放出は「米価が自然と下がる分まで含めて、政府が自分の手柄にしたいんじゃないか」(米卸役員)ともとらえられる。農水省からすれば、備蓄米の販売収益で収支はむしろプラスになり、懐を痛めることはない。価格が多少なりとも下がれば、しめたものだ。
■高騰は備蓄米のせいという皮肉国民が待ち望んだ備蓄米の放出だが、実は備蓄米制度があるがゆえに価格がつり上がっている面もある。同制度は、冷夏でコメが不足した1993年の「平成の米騒動」をきっかけに、95年に生まれた。常に100万t程度を備蓄するよう、毎年コメを20万tほど買いつけて保管している。これは10年に1度の不作が来ても供給できる量との触れ込みだ。
5年保管した備蓄米はこれまで、米価に影響しないよう家畜のエサ用として販売されてきた。表向きは災害といった非常時のための備蓄ながら、実際には大量のコメを市場から隔離し、米価を高止まりさせる手段のひとつになっている。災害に備える必要性は否定しないが、今の制度は米価のつり上げが主目的で、合理性を欠いている。
備蓄米制度の運用には年間500億円ほどかかる。農水省は減反政策に年間3500億円を投じてきた。消費者は米価を高くするために税金を払い、コメを高値で買わされる。二重に負担を強いられた状態だ。
災害に備えるはずの備蓄米制度で、コメ不足に拍車がかかる。そんな〝人災〟は今年で最後にしてほしい。
●山口亮子(やまぐち・りょうこ)
愛媛県出身。2010年、京都大学文学部卒業。13年、中国・北京大学歴史学系大学院修了。時事通信社を経てフリーになり、農業や中国について執筆。著書に『日本一の農業県はどこか―農業の通信簿―』(新潮新書)、共著に『誰が農業を殺すのか』(新潮新書)、『人口減少時代の農業と食』(ちくま新書)など。株式会社ウロ代表取締役
取材・文/山口亮子
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