映倫 次世代への映画推薦委員会推薦作品 —「Playground/校庭」
学校という社会の現実を少女の視点から描く
「ひとつの世界」という原題を持つこの映画は、小学校という〝社会〞に足を踏み入れたばかりの少女の視点から、その社会を規定する過酷なルールを生々しく見せる。周りと同じペースで行動することを要求される授業、友だちができなければ、ただ苦痛なばかりの休み時間や昼食の時間。とっくの昔に大人になってしまった人たちにとっても胸が苦しくなるほどおなじみの光景が、リアルに描かれている。本作で長篇デビューを果たしたローラ・ワンデル監督は、主人公ノラと観客を一体化させるため、終始、彼女の目の高さから撮影。さらに、彼女に対して関心を払わない周囲の人たちにはカメラのフォーカスを合わせず、ノイズのように聞こえる生徒たちの話し声でノラを取り囲み、不安を高めていく。
同じベルギー出身のダルデンヌ兄弟の作品と同様に、自分が撮るべきものを撮り、装飾なしにまっすぐ観客に伝えるこの作品はカンヌ国際映画祭の「ある視点」部門に出品され、国際批評家連盟賞を受賞。また、濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」(21)が受賞した第94回アカデミー賞の国際長篇映画賞でショートリストに残るなど、国際的にも高く評価された。子どもたちが安全に教育を受けられるはずの学校という場所で、なぜ日常的に暴力が起きてしまうのかという問いは、日本に住む私たちにとっても切実に響く。
不安と恐怖に押しつぶされそうなノラの顔のアップで始まるこの作品では、主演のマヤ・ヴァンダービークのすばらしい演技も強く心に残る。誰にも頼れずたったひとりで震えるように立っていた彼女は、徐々に成長し、なんとか兄を救おうとする。何度か登場する抱擁が、冷たい社会のなかでわずかに光る希望のように見える。
文=佐藤結 制作=キネマ旬報社(「キネマ旬報」2025年3月号より転載)
「Playground/校庭」
【あらすじ】
兄アベルの通う小学校に入学したノラ。自分から話しかけるのが苦手な彼女は同級生と親しくなることができず、頼りにしていた兄も彼女を遠ざける。やがて兄がアントワンという少年にいじめられていると気付いたノラは悩んだ末にそのことを父に話す。しかし、アントワンたちの行動は徐々にエスカレートし、ノラに対する友人たちの視線も変わってくる。
【STAFF & CAST】
監督:ローラ・ワンデル
出演:マヤ・ヴァンダービーク、ガンター・デュレ、カリム・ルクルー、ローラ・ファーリンデンほか
配給:アルバトロス・フィルム
2021年/ベルギー/72分/Gマーク
3月7日より全国にて順次公開
©2021 Dragons Films/ Lunanime
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記事提供元:キネマ旬報WEB
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