Jリーグが目指すAPTの増加はどうすればいい? 福西崇史が考える問題点「レフェリーへの抗議と痛がる選手が多すぎる」
APTと判定についてフカボリ!
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。
そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!
第120回のテーマは、Jリーグのアクチュアルプレーイングタイム(APT)と判定基準について。
今季からAPT(ボールがラインをわったり、反則でプレーが止まった時間を除いた実際のプレー時間)の増加と、レフェリーの判定基準を世界トップレベルに近づけることを目指すJリーグ。シーズンが始まり、改めてAPTと判定について福西崇史が解説する。
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■APTを伸ばすためにはレフェリー、選手双方の理解と協力が必要――今シーズンのJリーグはアクチュアルプレーイングタイム(APT)を伸ばすこと、判定基準を世界基準までプレー強度を近づけるために、球際の競り合いなどで安易にファールを取らず、プレー続行を促す方針を示しています。第2節まで終えて(取材日2月25日)ここまでで何か変化や感じることはありますか?
福西 判定基準に関しては、まだレフェリーや選手がちょっと過敏になっている気はします。ここらへんは双方が慣れるまでにもう少し時間がかかると思います。
プレミアリーグの基準に近づけていくということですけど、そこを目指すのであれば、プレー強度を近づけることを意識しながら取るべきファールはしっかりと取る。
そこをちゃんとしないと、レフェリーによって判定に差がありすぎたり、ケガにつながるファールが増えてしまうというのが選手に取って一番困ってしまいます。
――選手もその基準によって試合ごとにプレーが変わってしまいますよね。
福西 選手によっては、その判定基準を見極めてファールをもらいにいくということも駆け引きの一つとしてやります。それをやる気持ちはすごくわかるんですけど、そこを我慢することも必要だと思うんですよね。
ちょっと蹴られたからといっていちいち相手選手やレフェリーに抗議して騒ぎになってしまうと、余計にプレーが止まる時間が長くなります。そこはある程度理解した上で、速やかに次のプレーに移ることを意識することが必要だと思います。
――確かに、そういったところもAPTが短くなってしまう要因の一つだと思います。
福西 やっぱり良いチームというのはリスタートが早いですよね。本当に痛いのなら仕方ないと思いますが、本当はそれほど痛くないのに、痛がって休むということもあるので、基本的にはそういうことを減らしていくということをリーグ全体で意識していかなければいけないと思います。
■Jリーグはレフェリーへの抗議が多すぎる――Jリーグはレフェリーへの抗議の回数や時間が多い気がしますね。
福西 多いと思いますね。APTを伸ばすということもそうですが、単純にお客さんはサッカーを観に来ているのに、選手のそういう姿というのは観ていて気持ちがいいものではないと思います。例えばプレミアリーグだと、そうした選手の抗議をシャットアウトしますよね。ああいったレフェリーの強さはJリーグも持った方がいいと思います。
――プレミアリーグはレフェリーに対しての抗議にはイエローカードが出ますし、選手が執拗に抗議したり、選手たちがレフェリーを囲んだりすると、クラブが選手たちをコントロールできなかったということで、リーグからクラブに罰金が発生するんですよね。
福西 そういうことはJリーグもやったほうがいいと思います。昔はレフェリーを選手たちで囲んで圧力をかけて、少しでも自分たちに優位な判定にしようとしていました。そういう駆け引きも今の時代にはそぐわないし、当然ですけどお金を払って観に来てくれているお客さんに見せるものではないと思います。
――レフェリーの判定に任せたり、選手に協力を仰ぐだけではなくて、リーグとしてちゃんと取り締まることも必要ですね。
福西 APTを伸ばすというのであればルールで規制をかけて、そのための環境を整備することは必要だと思います。抗議の回数、時間を減らすことで、APTはだいぶ違ってくると思いますね。
■Jリーグはすぐ痛がる選手も多すぎる――先ほど選手が痛がることも減らしていく必要があるという話もありました。
福西 当然ですけど、大前提として本当に痛めていたり、頭部へのダメージなど、絶対に止めなければいけない場面はあります。一方で、選手によってはそれほど痛くないのに痛いふりをして休む時間を作ったり、悪い流れを切ろうとしたり、駆け引きのために痛がるということもやります。
――APTを伸ばすことを目指すのであれば、その時間もどんどんカットしていく必要がありますよね。
福西 本当に痛いのであれば治療するなり、担架を呼んで出すなりしなければいけないけど、意識的に痛がることを減らしていく環境整備も必要だと思います。例えば痛がって倒れたなら強制的にピッチの外に出すとか。
――例えばプレミアリーグとかは一度ピッチの外に出すと、すぐには入れなかったりしますよね。
福西 簡単には入れなかったりしますね。やっぱりすぐに入れてしまうから、選手はちょっと痛がって外に出されてもいいかとなってしまう。アメフトのように数分間、中に入れないという感じになれば、数的不利になってチームがピンチになってしまうとなれば、選手は多少痛くても立ちますよ。
もちろん、それがケガに繋がってしまうことはよくないけど、簡単に戻れることをいいことに、それを利用しようとする選手を規制するルールというのも必要だと思います。
――まだ取り組みは始まったばかりですが、今後も課題は色々と出てきそうですね。
福西 リーグが本気でAPTや判定基準を世界のトップに近づけようと思うのなら、レフェリーの判定や選手の意識に訴えかけるだけではなく、リーグとして環境整備が必要だと思いますね。
構成/篠 幸彦 撮影/鈴木大喜
記事提供元:週プレNEWS
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