介護事業所の倒産件数が過去最多 若手ヘルパーが営業“稼げる訪問介護”の舞台裏:ガイアの夜明け
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イチオシスト:イチオシ編集部 旬ニュース担当
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2月14日(金)に放送した「ガイアの夜明け」(毎週金曜夜10時)のテーマは、シリーズ2025①「理想の介護社会へ」。
今年、団塊の世代が75歳以上になり、日本は「超高齢化社会」を迎える。介護が必要な人が急増する一方、ヘルパーなどの人材不足が加速。さらに、2024年の介護保険制度改定により、訪問介護の報酬が引き下げられた。介護事業所の倒産件数は172件で過去最多となり、介護の「2025年問題」が叫ばれている。
一方、新たな動きも。投資ファンドが参入し、介護大手を買収したのだ。続々と集められた新人たちが目指す新たな“訪問介護ビジネス”とは。今、現場で何が起きているのか…舞台裏に密着した。
【動画】介護事業所の倒産件数が過去最多 若手ヘルパーが営業“稼げる訪問介護”の舞台裏
ヘルパーと利用者を守りたい…閉鎖を決めた小規模事業所

東京・世田谷区。「NPOわかば」ヘルパーの磯崎泉美さんは、一人暮らしの男性(89)の家を訪問した。訪問介護は、原則、要介護認定を受けている高齢者が対象の介護保険サービス。1~3割を利用者が負担し、残りは税金と40歳以上の国民が納める介護保険料で賄われている。利用者は「施設に入るより気は楽。ちょっと手伝ってもらえれば生きていける」と話す。

磯崎さんが所属する訪問介護事業所「NPOわかば」は、約20年活動を続け、600人以上の介護に携わってきた。代表を務めるのは、辻本きく夫さん(74)と共同経営者の山岡美知子さん。公務員だった辻本さんは、早期退職後、山岡さんを手伝う形でこの世界へ。長年にわたり、世田谷区内の介護事業者を取りまとめるリーダーも務めた。
しかし辻本さんは、去年「わかば」を閉鎖することを決断。その背景には厳しい現実があった。

これは、「わかば」の訪問介護の売上推移を表したグラフ。2015年から落ち込みが激しくなり、売り上げはピーク時の約4分の1まで落ち込むことも。国の社会保障費が膨らむ中、3年ごとに見直される介護保険制度の改定が大きな要因の一つだった。

訪問介護は、ケア時間や報酬が制度によって事細かに決められている。例えば「わかば」では、2006年まで1回3時間のケアを提供していたが、制度改定後は、1度のケア時間が段階的に短縮され、ヘルパーがより多くの利用者へ効率的にサービスを提供することに。サービスが細切れになることで報酬につながらない移動時間が増え、時間当たりの報酬も引き下げられてしまった。
「平均すると40分(のサービス)。これをつなぎ合わせて月に20万円稼ぐのは、ものすごく大変。こっちも(給料を)出したいが、入ってくるものがなければ出せない」(辻本さん)。
訪問介護は“稼げない仕組み”に。これまで辻本さんと共同経営者の山岡さんが、自分たちの給与を抑えて常勤職員の年収300万円以上を維持してきたが、それも限界に。閉鎖を決めた辻本さんは、「わかば」を引き継いでくれる別の事業所を探していた。

5年前から「わかば」で働くヘルパーの小河大介さんは、糖尿病が悪化し、目が見えない佐藤さん(50)のことを気にかけていた。佐藤さんのように特定の疾病で要介護認定を受ければ、40歳以上から介護保険が使える。
1年程前、同居していた母親が亡くなり「わかば」を頼った佐藤さん。ヘルパーがケアに入るのは週5日で8時間以上だが、「わかば」が自治体などから受け取る報酬は月10万円程だ。
佐藤さんの部屋は、「わかば」が入る前は物であふれ、生活することも困難な状態だった。しかし介護保険では、日常の掃除を超える大掃除は認められていない。「わかば」は保険外のサービスとして、無償で掃除を引き受けた。あくまでも特例だ。
「全て介護保険でできるわけではない。でもそこが、逆に『わかば』ができるところでもある。代表(辻本さん)がそういうところにうるさくないので」(小河さん)。
長く関係を築いてきた佐藤さんと小河さんは、共通の趣味の話で盛り上がることも。しかし今後、小河さんが佐藤さんのケアを続けられるかは、事業所の引き継ぎ交渉次第だ。

「わかば」の利用者一人一人に寄り添ってきたヘルパーたち。辻本さんは最後の大仕事として、彼らの思いを大切にしてくれる事業所を探している。
実は辻本さん、去年6月の閉鎖を予定していたが、交渉相手と決裂していた。利用者へのサービス方針や従業員の雇用条件などで折り合いがつかなかったのだ。
「一番やりたくないのは、利用者と従業者をバラバラにして、利用者は他の事業所に引き受けてもらうこと」。

去年10月、辻本さんは新たな相手との交渉に向かった。相手は訪問介護ではなく、長年障がい福祉事業を行ってきたNPO法人。新たに訪問介護事業を請け負うことは相手にとってもリスクを伴う決断となるが、地域を支える者同士、志は同じだ。
「仕事の内容が『わかば』のままで利用者とスタッフが生きていければ」(山岡さん)
交渉はどうなるのか…辻本さんはヘルパーと利用者を守ることができるのか――。
「若手」で「稼ぐ」介護へ!業界大手、攻めの一手

一方、介護業界に新たな動きも。今、介護業界には、市場拡大を見込んだ投資ファンドや異業種からの参入が相次いでいる。2021年、「MBKパートナーズ」が40年以上前から日本の介護業界をけん引してきた「ツクイ」(横浜市)を買収。過去には、「ユニバーサルスタジオジャパン」などに出資、他にも物流やゴルフ場などを次々と買収したアジア系投資ファンドだ。「MBK」は少子高齢化が進む中、介護は安定的で社会的意義の大きな市場と捉え、買収を決めた。

「ツクイ」高畠毅社長は、「(介護事業に)対価をもらう、いただく意味をもっと考えた方がいいと言われ、ハッと気付いた。働く人が減っていく中、介護という仕事を持続させないと。日本にとってはものすごく大きな課題だと思っている」と話す。

人材不足が続く中、介護する側の高齢化も大きな課題になっていた。
若手が希望を持って働ける業界に変えるため、新たな取り組みを始めたのは「ツクイ」の子会社「アカリエ」。若手の人材を集め、新たな訪問介護「A–Smile」をスタートさせた。
介護業界の正社員の平均給与は月28万円ほどだが、「アカリエ」はそれを大きく上回る額を提示。服装も髪色も自由でSNSの発信にも力を入れ、明るい職場の雰囲気をアピールしている。

この新事業を率いるのが、25年前、ヘルパーとして「ツクイ」に入社し、現場を熟知している山根大志さん(46)だ。待遇面やSNSを活用したイメージ戦略で、20~40代の人材を確保することに成功した。
新入社員たちは、事業リーダーの山根さんからこんな命を受けていた。
「実際に目指すのは、1年後に(月額)430万円売り上げる営業所になること。毎月150件営業展開すれば、15件は問い合わせが来るだろうと。15件問い合わせが来れば、6、7人は新規のお客様として利用してもらえる」。
「A–Smile」各拠点のオープン初月の目標は、15人の顧客獲得と売り上げ49万円。ヘルパーたちには、そのための営業展開が課せられていた。
3年目で売上高10億円、4年目で黒字化を目指す「A-Smile」。いかに“稼げる介護”を実現するのか――。
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記事提供元:テレ東プラス
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