イスラエルによる退去命令や破壊行為 抵抗しようとする住民の抗議 「ノー・アザー・ランド」本編映像
2025年2月21日より劇場公開される、本年度のアカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞にノミネートされている、パレスチナ人とイスラエル人の若手監督によるドキュメンタリー映画「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」の、本編映像の一部が公開された。
公開された映像は、2020年にマサーフェル・ヤッタで起こったある事件の一端を捉えている。イスラエル軍と入植者による不条理な退去命令や破壊行為に抵抗しようと、夜中のうちに家屋の建設を進めていた住民たちだったが、イスラエル側に見つかってしまう。事態を聞きつけたバーセルが現場に向かうと、兵士たちが大工道具を没収しようとしていた。ユヴァルもカメラを手に「国の暴挙を見逃せない」などと抗議する。
そうしているうちに、すぐそばで住民が所有する発電機を巡ってトラブルが発生。双方による激しいもみ合いが続く中で、イスラエル側による一発の銃声が鳴り響く。この一部始終を記録していたカメラの不調も重なり、当事者だからこそ捉えることができた緊迫感のみなぎる映像となっている。
「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」は、イスラエル軍による破壊行為と占領が進行している、ヨルダン川西岸のパレスチナ人居住地区マサーフェル・ヤッタを舞台に、2023年10月までの4年間に渡り記録したドキュメンタリー。現状をカメラに収めて世界に発信することで占領を停止させ、故郷の村を守ろうとするパレスチナ人青年バゼル・エイドラと、彼に協力しようとその地にやってきたイスラエル人青年ユーバール・アブラハムの2人による決死の活動が収められている。
監督は、彼ら自身を含むパレスチナ人2人とイスラエル人2人による若き映像作家兼活動家たち4人が共同で務めた。スマートフォンや手持ちカメラを使用し、そこで暮らす当事者だからこそ捉えることのできた至近距離からの緊迫感みなぎる映像で、家や小学校、ライフラインをマサーフェル・ヤッタの住民たちの目の前で破壊され、強制的に追放されていく様子などをあぶりだしていく。同時に、バゼルとユーバールが、パレスチナ人とイスラエル人という立場を越えて対話を重ね理解し合うことで生まれる奇跡的な友情と、故郷の自由を願い強大な力に立ち向かい続ける人々の姿も映し出される。

一足先に本作を鑑賞した著名人によるコメントが公開された。コメントは以下の通り。
【コメント】
■仲野太賀(俳優)
知識や情報だけで人の痛みなどわかるはずがない。この映画に少しでも興味を持った人がいるのなら、迷わずに見てほしい。
パレスチナの現状を決死の覚悟で届けようとした、命懸けの記録をどうか心に留めてほしい。
■奈良美智(美術作家)
当たり前だがリハーサルも撮り直しも無いドキュメンタリーだ。スクリーンに映し出されるのは、常に直面する余地の無い選択の数々と厳しい現実。観る者の心に葛藤や希望が乱雑に入り込んできて息が苦しくなるだろう。しかし、それは彼らの「故郷」における現実に違いないのだ。
■有働由美子(アナウンサー)
2018年夏私はイスラエル兵から銃口を向けられた。立ち退きを迫られたパレスチナ側で撮影していた。それだけの理由で。この映像に映る全てをしっかり受け止めたい。
■空音央(映画監督)
映画は教えてくれる。イスラエルの暴力の本質は占領だ。私達も無関係ではない。実際、私達の年金もイスラエルに投資されている。怒りを感じたら行動しよう。映画でバーセルが言う「水1滴ではダメでもしずくが続けば変わる」私達もしずくになろう。パレスチナが解放されるまで。
■岩井俊二
住居を破壊し、井戸にセメントを流し込む入植者達の理不尽。
観る側にも相当な苦痛を強いる。だからこそ観るべき映画だ。
■森達也(映画監督)
理不尽で無慈悲な虐殺や戦争はガザだけではない。パレスチナの民の受難と絶望。僕たちは目撃し続けている。それなのに状況はもう何十年も変わらない。この映画は告発であると同時に希望も示す。一人でも多くの人に観てもらいたい。そして声をあげてほしい。
■想田和弘(映画作家)
余計な装飾や解説を排した、無骨ともいえる生の映像。
そこに映し出された、パレスチナのあまりにも過酷な現実。
あの「10月7日」以前にして、このありさまだ。
何とかしなくてはいけない。
しかしいったい何ができるのか。
パレスチナ人とイスラエル人の映画作家の間に芽生えた友情と理解と信頼だけが、一筋の光のように思える。
■奇妙礼太郎(ミュージシャン)
僕は彼らをあっという間に忘れて暮らす。
そういう残酷さがこの映画のすぐそばにある。
そこから先を委ねられている。
■安田菜津紀(メディアNPO Dialogue for People副代表/フォトジャーナリスト)
パレスチナの人々の土地を、尊厳を、そして命を、根こそぎ奪い去る、占領の不条理が、この映画に凝縮されている。
これを民族浄化と呼ばず、なんと呼べるだろう。そして、問われる。この悲鳴に、無視を決め込む世界でいいのか――。
■金平茂紀(ジャーナリスト)
イスラエル軍のブルドーザーが人々の営みを容赦なく破壊していく。ここまで人間は非道になれるのか。と同時に、それに抗う彼我の友情がある。私たちはただの観客か? 黙っていていいはずはない。
■増田ユリヤ(ジャーナリスト)
パレスチナとイスラエルの和平は実現不可能なのか。幾度となく潰えた希望を、今だからこそバーセルとユヴァルの友情に託したい。
■ISO(ライター)
報道で見かける「占領」という言葉の向こうに存在する、生存権を剥奪される人々の姿を知る。その第一歩のための命懸けの襷。エンドロールの先で、更に悪化する占領と虐殺に世界はどのような態度を取るのか。監督たちの眼差しはこちら側に向けられている。どうか、知ってほしい。
■町山智浩(映画評論家)
ヨルダン川西岸で暮らすパレスチナの人々の家を破壊するイスラエル軍。子どもが泣こうと容赦せず、抵抗する者を銃撃する。あまりに絶望的な状況を撮り続ける監督とユダヤ人ジャーナリストの友情に小さな希望が。
【作品情報】
ノー・アザー・ランド 故郷は他にない
2025年2月21日(金)TOHOシネマズ シャンテ、シネ・リーブル池袋 ほか全国公開
配給:トランスフォーマー
©2024 ANTIPODE FILMS. YABAYAY MEDIA
記事提供元:映画スクエア
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