現役JKプロレスラー山岡聖怜(やまおか・せり)「私、メンタル、強いと思います」
かれんな姿と見事な腹筋、レスリングの実力で注目を集める女子プロレス団体・マリーゴールドの新人・山岡聖怜。
デビュー戦までを密着し、その素顔に迫った!
■プレッシャーがあればその分、頑張れる運命か宿命か―。山岡聖怜(せり)は、女子プロレス団体「マリーゴールド」の練習生となった2024年8月から、さかんにネットニュースで取り上げられた。福岡県出身、当時17歳の現役女子高校生。目力の強い九州美人で、今どきの高校生らしく、インスタグラムほかSNSを駆使した自己プロデュース力が抜群。何げない日常さえ業界関係者の目に留まった。
「プレッシャーはすごく感じていました。押し潰されそうになったこともあります。でも負けちゃいけないし、むしろ感謝しなきゃいけない。プレッシャーがあればその分、人はさらに頑張れますから。話題にしていただき、練習を重ねるにつれ、それがだんだんとわかってきました」
選手全員が終始、明るく声をかけ、伸び伸びと士気を高め合う。令和生まれの新団体・マリーゴールドの合同練習の現場は、程よい緊張感があふれている
公開スパーでは、デビュー戦で対戦する先輩・MIRAIを相手に新人離れした動きを堂々披露。大器の片鱗を報道陣に見せつけた
その力強い言葉はまさにスターの証!? 高校生と思えないほど大人びた雰囲気と恵まれた容貌。デビュー前の聖怜が脚光を浴びたきっかけはそれだけにとどまらない。家族の存在も大きい。
2歳上の姉、山岡雅弥(みやび)は中学生時代、レスリング全国選抜ベスト8、九州チャンピオンにも輝いた経歴を持ちながら「ミスマガジン2021」でミスヤングマガジン賞を受賞したグラビアアイドル。そんな人気者の姉との仲むつまじい様子も注目される一因となった。
「兄、姉、弟のいる6人家族で、誕生日やクリスマスなどイベントでは全員でパーティをするんです。今は姉とこちら(東京)にいるので、なかなか集まれないですけど仲はいいです。きょうだいみんながレスリング経験者で、両親も含め全員が自分をよく理解してくれます。家族の存在が大きな力になっていますね」
レスリング出身らしく、キレのあるタックルや寝技、組み技を見せつける。しっかりパワーもある。底知れぬポテンシャルに期待は高まるばかりだ
聖怜がレスリングに興味を持ったのは小学4年生の頃だ。
「兄が、子供同士の相撲大会に出たら100㎏の人を投げたんです。それを見た人たちに『レスリングをすれば』と勧められたので一緒に練習を見学に行ったら、面白くて。姉と一緒に私も始めました。それからはオリンピックを目指しました。私の夢でしたね」
全国中学選抜選手権・54㎏級で2位。22年にはジュニアクイーンズカップU17の49㎏級で4位。全日本ビーチレスリング(高校生)軽量級で優勝も。将来を嘱望されたが、16歳の1年間で2度、大きなケガに泣かされた。
「最初は肩の脱臼で、それが治った頃に前十字靱帯(じんたい)断裂。手術して1年間、何もできなくなってしまった。レスリングって1日練習しないと取り返すのに3日かかるもの。マイナス思考になりレスリングをやめる選択をしたんです」
このタイミングで出会ったのが、女子プロレスだ。姉の雅弥がかつてプロレス解説の仕事をした縁で、スターダムの試合会場に足を運んだ。
「初めて生で観戦して、これが女子プロレス!? こんな世界があるんだ! と驚きました。プロレスラーに興味が湧いて、リングに上がる自分を思い浮かべました。特に憧れたのはジュリアさん。登場するだけで、会場の空気がガラッと変わる。見た目もカッコいいし、自分もああなりたいと思いました」
ジュリアは日本ナンバーワンの座に輝いたスター選手。昨春は5年間所属したスターダムを退団し、新団体マリーゴールドのスタートメンバーに。現在は米・WWE傘下を主戦場としている。聖怜はそんなジュリアの後を追いマリーゴールドの練習生となった。
「自分がジュリアさんを目指していることは、ご本人も周りも知ってます。何回かごはんをご一緒させていただいていますし、めっちゃ写真も撮らせてもらいました。『自分を信じて頑張って』とか、アドバイスもいろいろもらってます。練習ではうまくできずに悔しいことも多いんですけど、その都度、ジュリアさんを思い出し、自分を奮い立たせています」
2025年1月3日のデビュー戦。対戦相手のMIRAIは試合前「プロの厳しさを教える」と語り、言葉どおりの激しい攻撃を何度も仕掛けた
2025年1月3日、18歳になった聖怜は東京・大田区総合体育館で待望のプロレスデビューを果たす。対戦相手はMIRAI。7つ年上の先輩で、かつてスターダムに所属し、シングルトーナメントで2連覇したほどの実力者だ。
試合前には姉の雅弥さんが花束を贈呈。そのまま試合解説を務め、妹を見守った。姉の愛情がエネルギーとなる
聖怜は、レスリングベースのタックルや関節技でMIRAIを攻め立て、終盤ではジャーマン・スープレックス・ホールドで投げてみせた。15分のフルタイムを戦い抜くも結果はドロー。しかし負けん気の強さを見せ、「引き分けで終われるわけねぇだろ! 延長だ!」とリマッチを要求。計22分間を戦い抜き、惜しくも敗退した。MIRAIは「おまえ、本当にデビュー戦か?」と称賛。バックステージで聖怜は「負けて悔しいです」と涙を流し、「これからもっともっと強くなってこの借りを返したいと思います」と雪辱を誓った。
試合ではレスリングで培われたスープレックスが何度も炸裂。終了目前、得意のジャーマンを見せると、会場は歓声に包まれた
ゴングが鳴り、ふたりの死闘は引き分けに。この後、聖怜はマイクを要求し「引き分けで終われるわけねぇだろ!」と延長戦を要求した
聖怜は自らをこう語る。
「ずっと負けず嫌いだなって思うことだらけです。それこそ運動会の駆けっこでも絶対に負けたくなくて、勝たないと泣いちゃいます。まぁ、負けなかったんで実際には泣いたことないけど(笑)。運動神経はいいほうで、スポーツで負けたことはほとんどありません。自分でなんでもできるって思ってる。だから(プロレスでも)負けるとめっちゃつらいです」
試合終了後は「デビュー戦、負けちゃった。でもプロレスもっともっと好きになっちゃう」と涙声でファンへ熱い思いを語った
デビュー戦で引き分ける新人レスラーは、過去をひもといてもほぼいない。また先輩を前にして、自ら延長戦を堂々と申し出る新人もいない。前評判とたがわぬ聖怜はまさしく大物、「スーパールーキー」と呼ぶに値するJKレスラーに違いない。彼女は、自分の長所をハートの強さだと語る。
「私、メンタル、強いと思います。あと感情が激しい。うれしくても楽しくてもすぐ泣いちゃう。泣き虫です。でも、すぐ立ち直ります。最初はマイナス思考なんだけど、最終的には必ずプラス思考になります」
人生訓めいたことをさらりと言うのは長年、スポーツで培ったたまものか。今回、撮影と取材では時に憂いあふれる表情も見せ、言葉にはえも言われぬ強さを感じさせた。今18歳の美少女は、想像を絶する速さで成長している。
MIRAIから、強烈な逆片エビ固めを決められ、懸命に耐える聖怜。アリーナからは盛大な「聖怜コール」が起きた
敗戦し、ひたすら泣き崩れる聖怜に、MIRAIは「プロレスってのは負けから始まるんだ。その悔しい気持ちをもとに、もっともっと強くなれ!」とエールを送った
「プラス思考になるにはどうすればいいか、ですか? 第三者の目で自分を見ることじゃないですか。落ち込んでばかりじゃ上なんて見られない。だから、そんなの考えてる暇ないって考える。応援してくれる人がいるから、落ち込むより上向いてたほうがいい。ただ、周りから『(聖怜は)プラス思考すぎて怖い』ってたまに言われますけど最初からそうだったわけじゃないです。最近やっとそうなったんですけどね」
女子プロレスは、ベテランが新人へバトンを手渡し、時代を次代の色で創り上げていくエンターテインメントスポーツだ。聖怜は、18歳ながらも試合経験と大会経歴が豊富で、〝リング映え〟するビジュアルも兼ね備えている。若さゆえのがむしゃらさもある。令和の女子プロレスを担うに十分な逸材といえるだろう。
「スター選手にはなりたいですけど、それだけではなくプロレス界全体を大きくできるような選手になりたいです。女子プロレスは生きがい、ようやく見つけた私の新しい夢なんです」
ニーパッドには、レスリングのピクトグラムが刻まれている。コスチュームは、「カラフルで元気があふれて、夢を追って夢を持つというイメージ」で自らデザインした。前面には、「Chase Dreams」という文字が赤色で書かれている。
"夢追い人"山岡聖怜の旅路は、今、始まったばかりだ。
「プロレス界を大きくできるような、広げられる選手になりたいです。女子プロレスは私の生きがいですから」
■山岡聖怜(Seri YAMAOKA)
2006年11月13日生まれ 福岡県出身
◯マリーゴールド所属の女子プロレスラー。小4でレスリングを始め、2022年ジュニアクイーンズカップU17フリースタイル49kg級4位、全日本ビーチレスリング(高校生)軽量級1位。しかし、ケガでレスリングを断念。2025年1月3日、MIRAIとのシングルマッチでリングデビュー。
公式Instagram【@yamaoka.seri.1113_pw_mg】
公式X【@y_seri_1113】
取材・文/伊藤雅奈子 撮影/後野順也 協力/マリーゴールド
記事提供元:週プレNEWS
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。