爆破に落書き、わずか11歳の殺し屋まで! ヤバすぎる海外版「闇バイト」の最新事情
《本記事における「闇バイト」の定義》主としてSNSなどインターネット上で、高額報酬をうたって募集した者に詐欺や強盗・殺人などの実行役をさせる犯罪行為。※画像はイメージです(画像/h9images/PIXTA)
日本で大きな社会問題となっている「闇バイト」。しかし、日本で起きていることは、もちろん世界でも起きている! アジア、ヨーロッパ、ラテンアメリカでの「闇バイト」について取材したところ、その壮絶な実態が明らかに......!
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■宣伝目的で名所に落書き!昨年12月、いわゆる「闇バイト」の実行役として来日した台湾籍の男ら2人が詐欺未遂容疑で逮捕された。
彼らはフェイスブックで、「外国で手早くお金が稼げる」と勧誘されて来日。何者かの指示により、都内在住の70代男性と60代女性に「あなたの携帯電話が詐欺に使われ逮捕状が出ており、国税局に金塊を渡せば疑いが晴れる」などと嘘の電話をかけて財産をだまし取ろうとした事件に加担したという(その後別の詐欺事件で再逮捕)。
このように今や日本の「闇バイト」の勧誘は海を越えている。ただ、甘い言葉に乗せられ、不法な行為に手を染める......というタイプの犯罪は、日本だけで急増しているわけではない。お隣の韓国でも若者への犯罪行為の勧誘は大きな社会問題となっている。
「こちらでは『不法アルバイト』と呼ばれていますが、その内容の多くは振り込め詐欺です。2022年には振り込め詐欺事件の容疑者として20代以下だけで9149人も検挙されたことから、韓国の警察庁が世間に注意喚起する事態となっています」
そう語るのは、朝鮮半島地域研究を専門とするジャーナリストの吉崎エイジーニョ氏。韓国の「不法アルバイト」には、日本の「闇バイト」との共通点が多いと話す。
「ネットで『高額アルバイト』をうたった求人広告をクリックすると、『節税』を名目に『資金移動の手伝い』や『現金運搬の手伝い』といった仕事を紹介されます。
しかし、実際の内容は犯罪行為の手伝いであり、振り込め詐欺の受け子(現金回収役)であることがほとんど。主に若者がリクルートされる点も似ており、日本の『闇バイト』と関連づけて報じられる事件まで発生しています」
それは2023年12月にソウル市内で起こった。
「景福宮という朝鮮王朝時代に建築された王宮の外壁に、『映画無料』という文字と違法動画共有サイトのURLがスプレーで落書きされているのが発見されました。
実行犯として逮捕されたのは10代の男女で、この違法サイトの運営者を名乗る人物から『景福宮などの名所に宣伝を書けば300万ウォン(約34万円)を払うと言われた』と供述しました」
2023年12月、朝鮮時代の正宮である景福宮の塀に描かれた落書き。実行犯である10代の男女ふたりはSNSを通じて身元不明の人物から依頼を受けたという。韓国において「闇バイト」という言葉が広まるきっかけになった事件(写真/Yonhap News Agency/共同通信イメージズ)
後に指示役の違法サイト運営者も逮捕されたが、実行役の男女が受け取ったのは結局、先払い分の10万ウォン(約1万1000円)に過ぎず、高額報酬に釣られた若者が使い捨てにされる様も韓国社会に衝撃を与えた。
「同時期に日本で『闇バイト』が問題になっていたこともあり、『このままでは日本のように凶悪な犯罪が起きるかもしれない』『社会全体で若者の問題を考えていくきっかけにすべきだ』といった報じられ方をしていました。
これ以降、『ナムウィキ』という韓国のネット百科事典にも『闇バイト』という言葉が登録されています。まだ日本のような強盗事件などは起こっていませんが、もし凶悪犯罪が増えれば、韓国でも『闇バイト』という言葉が一般化する可能性はあるでしょう」
■低年齢化する麻薬の運び屋「闇バイト」はアジア以外にも広がっている。
近年、治安の悪化が著しいスウェーデンでは、刑事責任を問われない15歳未満の子供を犯罪組織が殺し屋として雇う事件が急増しており、2024年には11歳を含む未成年の少年4人が犯行前に逮捕された。
彼らを雇ったのは19歳の男で、メッセージアプリを使って実行犯を募り、殺しの報酬として15万クローナ(約200万円)を提示したとされている。このような事件はデンマークやノルウェーでも発生しているというから驚きだ。
ヨーロッパにおける若年層の犯罪の増加はオランダでも深刻だ。現地在住のライター、福成海央氏は語る。
「EU最大の港があるオランダ南部のロッテルダムは違法ドラッグ流通の中心地となっており、若者による『コカインの運び屋』が問題となっています。コンテナ船に忍び込ませたコカインを港から運び出す役割として、若者が雇われています。
その募集はSNSや友達からの口コミで行なわれ、犯行の指示には『スナップチャット』というメッセージアプリがよく使われています。
2022年の逮捕者数は251人でしたが、2023年には452人が逮捕されました。特に未成年者の増加が顕著で前年の6倍、18~25歳も2倍となっており、昨年1月に4人の運び屋が逮捕されたときは、14歳や15歳の少年までいました。彼らはコカインの運び屋をするため、わざわざ隣国のベルギーからやって来たそうです」
ヨーロッパ最大のオランダ・ロッテルダムの港、通称「ユーロポート」。世界中から届くコンテナの中には、もちろん違法薬物も潜んでいる。コンテナから薬物を運び出す「運び屋」は、SNSを通じて雇われることが多いそうだ(写真/intrepix/PIXTA)
なぜ、この若者たちは運び屋という危険な「闇バイト」に手を出してしまうのか。
「ロッテルダムはもともと貧困層が多く、あまり治安が良くないエリアもあります。それでも、これだけ犯罪が低年齢化した背景には、ロシアのウクライナ侵攻戦争以来の物価高があると思います。冬の暖房費が払えない家庭が増え、政府がガス価格に介入するほどです。
これだけ経済状況が厳しい中で、若者が普通のアルバイトをしても大した稼ぎにはなりません。しかも、周辺には悪いことをして稼いでいる友達や先輩も多い。『それなら自分も......』となるのは、彼らにとってはある意味、自然な選択なのでしょう」
そのため、日本の「闇バイト」のように知らないうちに犯罪行為に巻き込まれていたといったことは、オランダの若者にはあまりないという。
「ほとんどの若者が犯罪だと認識した上でやっていると思います。オランダでは未成年者が逮捕されると保護観察のためにGPS付きのアンクレット装着を義務づけられることもありますが、それを装着したまま再び運び屋をする少年までいるほどです」
■就職面接のつもりが拉致され殺し屋に!?オランダで急増する犯罪は麻薬密輸だけではない。なんと「住宅や企業の爆破事件」まで頻発している。
「未遂を含めれば、昨年だけで1100件もあったそうです。オランダには独特の花火文化があり、大晦日の夜は各家庭が打ち上げ花火や爆竹に火をつけるのが慣習となっています。しかも、その威力は日本の家庭用花火の比ではなく、明らかに危険だと感じるものまで使われています。
特に『コブラ』という人気の爆竹は業務用で一般には購入できないのですが、犯罪組織が仲介して個人間で取引されており、中高生が売人をするケースもあります。このコブラを改造した爆破事件が、オランダの各地で起こっています」
2024年12月、オランダのハーグで起きた爆破事件の現場。少なくとも6人の死亡が確認されている。目撃者の証言によれば、爆発音が聞こえた直後に、現場から高速で走り去る車両が確認されている。事件は現在も捜査中とのことだが、実行犯が「闇バイト」で雇われた可能性も......?(写真/James Petermeier/ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ)
ロッテルダムでは麻薬取引に関連した揉め事による爆破事件が多く、逮捕されるのは犯罪組織に1000ユーロ(約16万円)ほどで雇われた若者ばかりだという。
「貧困家庭で育ったオランダの若者にとって、『闇バイト』は『割のいいバイト』という認識でしかないでしょうね。これらの犯罪は貧困という社会問題と結びついているだけに、厳罰化だけでは対処できない難しさがあります」
貧困にあえぐ若者が増えると、「闇バイト」もまた増えるという構図が見えてきた。では、これが行き着く先はどうなるのだろうか。
殺人や誘拐などの重大犯罪が日々横行するメキシコ。現地在住で、『マジカル・ラテンアメリカ・ツアー 妖精とワニと、移民にギャング』という著書もある映像作家・嘉山正太氏は語る。
「メキシコの『闇バイト』は日本とはレベルが違います。昨年、メキシコのユーチューバーのチャンネルに出演した男性は、SNSで就職を打診された会社の面接に行ったら、『ハリスコ新世代カルテル』という非常に凶悪な麻薬カルテル(暴力組織)の殺し屋として育成するために拉致されたという驚きの告白をしました。
また、カルテルの勧誘手段も多様化しており、オンラインゲームを利用したケースもあります。『GTA Online』や『Garena Free Fire』といった人気ゲームで知り合い、相手が心を許したところで犯罪行為に誘うといったものです。仕事は麻薬取引現場の見張りや麻薬の運び屋で、11歳や14歳の少年までもリクルートされていました」
治安悪化に伴い、メキシコでは大量の行方不明者が発生している。各地では写真のように行方不明者の家族が捜索願いの用紙を張っている様子が見られる(写真/ObturadorMX/Getty Images)
しかし、こうした衝撃的なニュースもメキシコでは氷山の一角に過ぎないという。
「メキシコは今、歴史上でも最悪といわれるほど治安が悪化しています。麻薬カルテルが勢力を伸ばしているだけでなく、名前のない半グレ組織も各地に増え、どこも若者を常に募集しています。
メキシコは貧しく、学歴のない若者がとても多い。まともな仕事では稼げないため、45万~50万人の若者がなんらかの犯罪組織に雇用されているというデータがあるほどです。メキシコの人口は日本と同じくらいですから、その異常さがわかるでしょう」
また、メキシコでは「闇バイト」のような犯罪が「闇」というほど隠されておらず、むしろ社会の隅々に入り込んでしまっているという。
「これだけ犯罪組織に関わっている人が多いと、親戚や友達などに組織の人間がいる場合もあるので、犯罪行為に対する善悪の感覚がまひします。それを象徴するのが、『impunidad(インプニダ=無処罰)』というスペイン語です。現地で取材をしているとよく耳にする言葉です。
これは『悪いことをしても捕まらないから問題ない』ということ。メキシコはカルテルの力が強く、大きな組織に所属していれば人を殺しても処罰されない、警察の汚職もひどいから賄賂で解決できるといった現実があります。だから、若者も犯罪をリスクだと感じにくいのです」
■日本の治安崩壊は間近に迫っている?しかも、近年は「犯罪組織での成り上がり」が若者の憧れにもなってきているという。
「メキシコの伝統的な音楽ジャンルに『コリード』があります。その中でも麻薬カルテルを賛美するような歌を『ナルココリード』といい、これが最近、ヒップホップなどと結びついて再ブームとなっています。
代表的歌手のペソ・プルマは、アメリカでもブレイクするほどの人気ですが、その歌詞には著名な麻薬王に言及したものもあり、メキシコでも批判を受けています。
しかし、若者にはその不良な感じこそがカッコよく見えるのでしょう。彼らにとってはペソ・プルマもカルテルも、貧困からの一発逆転の夢を見せてくれる存在なのです。
実際、カルテルの一員のように銃を持って派手な車に乗った姿をSNSに投稿する若者も増えています。『生活のために仕方なく』だけでなく、単純にカッコいいから犯罪組織に憧れる若者も多いのがメキシコの特徴です」
メキシコの犯罪率は悪化する一方であり、いまだ改善の兆しすら見えていない。では反対に、そのような国から日本における「闇バイト」の拡大は、どう見えているのか。
「日本は世界で最も治安の良い国のひとつでしょうが、徐々に世界の平均に近づいている感じがしています。若者がお金に困って犯罪行為に走り、強盗を警戒して戸締まりを強化するのが当たり前になる。それは日本では異常かもしれませんが、海外では珍しいことではないでしょう。
だから、日本で『闇バイト』が登場したのは、日本が〝海外化〟していく序章なのかもしれませんね。これがピークなのではなく、これからますます悪化していく兆しともいえるでしょう。
私もメキシコに住み始めたときは、この国でここまで治安が悪化するとは思っていませんでした。でも、悪くなるときはあっという間に悪くなるのです」
日本の「安全神話」が崩壊しつつある中、もはやこうした海外の事例も人ごとではなくなるかもしれない。
取材・文/小山田裕哉
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