【#佐藤優のシン世界地図探索94】石破内閣は長期政権に!?
石破首相、長期政権に向けてスタートか!?(写真:首相官邸HP)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
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――石破茂首相、頑張っているじゃないですか!
佐藤 そう思います。石破さんは持ちますよ。長期政権になる可能性も十分あります。
――えっ!? 巷では「最速短期政権」とかなんとか言われ続けていますが......。
佐藤 なぜ持つかと言うと、まずは構造です。
予算委員会の委員長は立憲民主党の安住淳氏だから、予算は通さざるを得ないんですよ。それから、議員運営の委員長は自民党なので、いつでも解散できるカードがあります。さらに党候補の公認権は総裁の石破さんが持っているので、造反なんか怖くて誰もできません。
それからもうひとつは日中関係です。石破政権になってから、急速に中国との関係が改善しましたよね?
――はい、もう急展開です。
佐藤 これは岸田政権の時から仕込んであったもので、その時は始動させませんでした。なぜなら自民党内の右派、反中派が騒げば、岸田さんの勢力基盤が落ちるからです。
ところが石破さんに関しては、党内右派からは早くいなくなることを望まれています。なので、中国に手をかけても支持基盤がこれ以上落ちることはありません。
――元からないも同然の党内支持基盤でありますからして。
佐藤 だから、中国に手をかけられるわけです。
そして、今回の対中国交渉では秋葉剛男国家安全保障局局長が11月に訪中して王毅外相と会談しました。しかし、王毅外相は外相ではなく、党中央外事工作会弁公室主任として会っています。
――要するに、中国共産党と話し合いに行っている。
佐藤 そうです。これは変則です。両国の外務省による通常の外交ルートではありません。首相官邸と中国共産党という特別のルートを用いています。だから、動き出したんです。
朝日新聞は「両手握手」と揶揄していましたが、その結果は、中国が一方的に日本に対してビザの免除を再開させたうえ、その期間も15日から30日まで延長されました。それを受けて、日本も中国に対して10年ビザの新設などを決めましたが、中国は何の引換材料も求めずにビザ免除を再開したわけです。
これは極めて良い兆候ですよね。経団連は中国とビジネスがしたいわけです。だから、経団連が石破さんの味方になります。石破政権が一番弱いのは、財界との繋がりです。ずっと権力から離れていましたからね。
一方で、岸田さんはエネルギーを重視したから強かったんです。なので、石破首相が中国とのビジネスを築くことに加えて、エネルギーをちゃんと取れる対策を行なえば、政権基盤は盤石になります。
――それにしても、予算委員会での一幕には驚きました。一国の首相であるはずの石破首相に対して、「むにゃむにゃしゃべるなー!!」とか、野党のヤジがすごかったです。
佐藤 ただし、以前に比べると実質的な質疑応答がなされるようになりました。国民としては、最初からポジショントークでやっているプロレスより、ああいう形で審理を尽くして均衡点を求めていく方が国会が機能している感じがしますね。
それから国民民主のみならず、日本維新の会も現実的な形で予算賛成に回りました。だから、強行採決ではなくコンセンサス主導で進んでいるのは、決して悪いことではありません。
――すると、石破首相の顔つきはそんな場合、有利でありますね。
佐藤 だから、面白いと思いますよ。
■トランプ・石破会談――それで、故安倍晋三首相の夫人・昭恵さんがトランプ大統領と会い、石破首相からの本を送りました。それに対してトランプは、自分の写真集に"PIECE"と書いて石破首相に託しました。
石破首相は「同じプロテスタントのカルヴァン派です」と言えば、もう大丈夫ですか?
佐藤 宗派名は必要ないでしょう。「われわれは共に神から与えられた使命があることを自覚している」と言えばいいと思います。
ところで、日本の論壇の一部に、「トランプは長老派(カルヴァン派)をやめた」と言っている人がいますが、これは全然わかっていない人の話ですね。彼がある時期からクリスチャンと言っているのは、米国内の宗教右派を票として捕まえるためです。
だから、創価学会員が「自分は仏教徒です」と言っていても、創価学会をやめたわけじゃないのと一緒です。
――なるほど。
佐藤 トランプは宗教的な要素があったから勝ったんですよ。
エマニュエル・トッドは、信仰はなくとも価値観として残っている現在の宗教を「ゾンビ化している宗教」と表現しています。ゾンビ化まではいいんですが、ゼロになってしまうと何でもありになってしまいます。
――ですね。
佐藤 講談社現代新書から「アナルコ・キャピタリズム(無政府資本主義)」に関する本が出ていますけど、あれは面白いですよ。
――『あぶない法哲学――常識に楯突く思考のレッスン』(著:住吉雅美)ですね。これまで国家が行なってきた警察・裁判・調停・国防などの全ての業務を民間企業に委ねる、つまり民営化するという話ですよね。
佐藤 そうそう、警察も軍事も全てです。すでにアメリカはそれになりつつあります。
――そうなったほうが幸せなんでしょうか?
佐藤 幸せじゃないですよ。そこには人間がいませんから。資本が自己増殖するための環境が良くなるって話です。
――人がいないならば、幸せも何もないではないですか。
佐藤 これは、イギリスやアメリカなど、アングロサクソンの限界ですよね。
――日本の限界にもなるんですか?
佐藤 そうはならないでしょう。日本は西洋に学んできました。ずっとついていきました。しかし、特に日本の国際政治学者や経済学者もそうですが、西洋の敗北にまで付き合う必要はありません。
だから、ここらで体を躱(かわ)して逃げなければなりません。このまま「何でもアメリカと一緒」というような付き合いをしていると、「負け」まで付き合わざるを得なくなります。
その限界が露見したのがロシア・ウクライナ戦争だったわけです。その時、日本以外のG7はアメリカについていきました。日本はG7中、ウクライナに殺傷能力を持つ武器を送らなかった唯一の国です。思えば日本は、賢明な選択をしたんですよ。
次回へ続く。次回の配信は2025年2月7日(金)予定です。
取材・文/小峯隆生
記事提供元:週プレNEWS
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