POPとは 【岡嶋教授のデジタル指南】
今回はPOPのお話です。
J-POPとかK-POPではなく、SMTP(Simple Mail Transfer Protocol)と対になるメールの受信プロトコルの方です。SMTPは別の機会にお話をしましたので、そちらもあわせてご参照ください。一人一人が端末を持つようになった結果、インターネット上のコンピューターは24時間電源が入っているというわけではなくなりました。みんなが自分の生活スタイルでオン、オフを繰り返すからです。
するとメール送信が面倒なことになります。相手の都合を読んでメールを送るのではメールのメリットが台無しです。そこでSMTPを使って送信先ドメインのメールサーバーまで配送し、そこのメールボックスにメールを蓄積する形式が発達しました。現在まで続く、インターネットのメールの利用形態です。
メールを受信する各自は、自分の都合のいいタイミングで端末を起動させ、自分が所属しているドメインのメールサーバーにメールがないか確認しに行きます。
この「自分の都合のいいタイミングで」「自分のメールボックスにメールが届いていないか確認し」「メールが来ていたらメールを読み出し」「読んだ分のメールは、メールボックスがいっぱいにならないように消すなどの後始末をする」ために開発されたプロトコルがPOP(Post Office Protocol)です。SMTPもそうですが、インターネットのメールは郵便のメタファー(隠喩)が随所に使われています。
実際、両者の動作の仕組みはとてもよく似ています。郵便を出すといくつかの郵便局を経由して、相手の家の郵便受けまで配送されます。郵便屋さんが届けてくれるのはここまでで、郵便受けに蓄積された郵便物をチェックしたり、読んだりするかは相手の人次第です。無防備な形で(例えばハガキで)メッセージを送れば、配達中に他人の目に留まる可能性があるようなところまでそっくりです。
この、メール配送の最終工程(メール受信者が、自分のメールが蓄積されたメールサーバーにメールを読みに行く)を担うのがPOPというわけです。SMTPはメールの送信でしたが、POPは反対にメールの受信のみが仕事です。
仕事内容は「自分のメールを受け取るだけ」なので、POPは極めてシンプルな作りになっています。自分の端末(パソコンやスマホ)からメールサーバーに問い合わせを行い、返事をもらうのが基本動作ですが、そのためのコマンドはほんの少ししか用意されていません。「いまどんな状態?」「何通メール来てる?」「x番のメールをダウンロード」「x番のメールを消す」などです。サーバーから端末への返事に至っては、「+OK(正常)」「-ERR(異常)」の2種類しかありません。
SMTPがメール送信に際して受信者を指定したり、送信者を明記したり、メールがどのような状態が通知するメッセージを決めていたのと比べると、極小の決め事で成り立っています。
一つ特徴的なのは、POPにはもともとのSMTPにはないパスワード認証の仕組みがあることです。他人にメールボックスを読まれたら気分がよくないですから、そりゃあパスワードを設定しますよね。納得の機能です。もちろん、今ではメール送信時にもパスワード認証を行うのが一般的です。でも、登場時点でのインターネットは牧歌的だったので、メール送信時にはパスワード認証が要求されなかったんです。特に差出人を明記しなくても、郵便ポストに郵便物を投函できるように。
それが迷惑メールの温床になってしまったので、現在ではSMTPに追加機能を足すことで、送信時にも「誰がメールを送ろうとしているのか?」をチェックしています。
【著者略歴】
岡嶋 裕史(おかじま ゆうし) 中央大学国際情報学部教授/中央大学政策文化総合研究所所長。富士総合研究所、関東学院大学情報科学センター所長を経て現職。著書多数。近著に「思考からの逃走」「プログラミング/システム」(日本経済新聞出版)、「インターネットというリアル」(ミネルヴァ書房)、「メタバースとは何か」「Web3とは何か」(光文社新書)など。
記事提供元:オーヴォ(OvO)
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