トランプ新大統領、ウクライナ戦争の停戦目標を「24時間以内」から「6か月以内」へ修正変更。その思惑と最前線で起きうる変化とは?
露軍陣地に砲撃を浴びせるウクライナ軍(写真:Sputnik/共同通信イメージズ)
米大統領に就任したドナルド・トランプ氏は今月7日、ウクライナへの軍事侵攻について「6ヵ月以内」の停戦目標を明かした。大統領選の際には「私ならば24時間で停戦させる」と言っていたのだが、その目標は大幅に後退する見立てとなった。
米国在住で、欧州各地でミリタリービジネスを行なっている元米陸軍情報将校の飯柴智亮氏は、昨年12月の週プレNEWSの記事(参照:元・米陸軍情報将校が緊急提言。「ウクライナ戦争の本当の"出口"はここにある!!)でこう発言していた。
<停戦の鍵を握るのはトランプとプーチンです。しかし、1月21日に即時停戦となるかというと、実際は難しいと思います。
トランプはある条件を付けて、プーチンにディール(取引)を持ちかけているかもしれません。それは『あと2ヵ月はウクライナ支援を続けるが、その間にロシア軍(以下、露軍)はやれるだけやったらどうだ? ただしその後、すぐに停戦するのが条件だ』というものです>
2か月と6ヵ月では期間は違うものの、飯柴氏は停戦の後退を予測していたのだ。飯柴氏の推測が当たっているとすると、すでにトランプとプーチンのディールは開始されている。「半年はウクライナ支援を続けるが、その間に露軍はやれるだけやったらどうだ?」となる。飯柴氏はこう話す。
「戦争がどうなるかを予測するのは難しいですが、ひとつ言えるのは、その半年の間にトランプ政権がウクライナ支援をどうするのかが鍵になる、ということです。
1.今までと同じレベルの援助を継続する
2.今までより少ない援助をする
3.まったく援助をしない
トランプの性格からして、おそらく2または3になると私はみています。この減額された援助、または無援助でウクライナ軍がどこまで持つかという話になってくると思います」(飯柴氏)
では、その6ヵ月間で、露軍はどう戦うのだろうか。
最近の露軍兵士の損害はすさまじい。当初は月5000人程度だった兵員損失が、昨年11月、12月では月4.7万人超と激増しているという調査もある。もし6ヵ月延長となれば、さらに約28万人の兵士が犠牲になる。また飯柴氏も先の記事で、戦死傷者は一日平均2000人に増加し、一週間で150㎢以上の領土を奪っていると指摘していた。
今、この一日2000人の戦死傷者数はどう変化しているのだろうか。
「最新の情報では明確な数字は判明していません。しかし、バフムト、ドネツクでは『継続的に進撃中』です。変わらず一週間で50~150㎢の領土を奪っています」(飯柴氏)
すると6ヵ月で1200~3600㎢を奪取できる計算となる。ウクライナ全土の最大28%を掌握することになるのだ。
「露軍の兵力はさらに増強できます。北朝鮮軍からさらに1、2個師団、ベラルーシ軍、沿ドニエストル軍なども加わり、各方面から進撃してくる可能性があります。
また、これまで露軍は5名の分隊サイズで攻撃を仕掛けていたようですが、現在は20名の小隊サイズの攻撃が目立っています。これにより、ウクライナ軍(以下、ウ軍)の損害も増えてきています。なので、自分は露軍の損害の多さよりも、ウ軍を心配しています」(飯柴氏)
トランプは一日で停戦させるつもりだったが、「6ヵ月後に終結」に目標を変更した(写真:AFP=時事)
飯柴氏は先の記事で、首都キーウが陥落すれば一気にケリがつく可能性があることを指摘していた。この6ヵ月の延長戦でウ軍の戦線が崩壊して、首都キーウ陥落に至ってしまうのだろうか。
「そうなりますね。崩壊が始まったら崩れるのは早いです。自分が得ているとあるリポートからの情報では、その可能性は10%と出ていました」(飯柴氏)
さらに、ウ軍最前線の兵力が不足しているとの報道もある。
「ウ軍の人員不足はヤバいです。自分が最近ウクライナに行った際には、首都キーウにほとんど男性はいませんでした。負傷兵が迷彩服で歩いているのをチラホラ見かけましたが、回復したらすぐに前線に戻るのでしょう。兵士に就ける適齢期の男性が枯渇しています」(飯柴氏)
ウクライナでは25歳から60歳の男性が動員法により、前線に投入されている。ただし、ウクライナでは大学生はその対象外であり、徴兵されない。さらに、ウクライナからルーマニアへ川を渡り、開戦から2万人が徴兵逃れで脱出している。
「無駄死にしたくないというのが本音でしょうね。
自分が首都キーウの大学に行った時の話ですが、女子大かと思うほど男子学生はいませんでした。大学生なら徴兵されないのでしょうけど、おそらくよほどのコネを持っているか、裏で金を払わないと国内の大学には行けないのでしょう。
詳しい名称は伏せますが、ウクライナにはいくつかの準軍事組織的な政府機関があります。しかし、そこの人員は動員されていません。
彼らが動員されたら、もう最後の最後でしょう。ゼレンスキー大統領が決めていることだとは思いますが、おそらく動員すると徴兵制度そのものを維持できなくなるからだと思われます。やはり旧ソ連の国なのです」(飯柴氏)
首都キーウが陥落して、一気に戦争の勝敗が決着するかも知れない。
「バイデン政権でなければ、ウクライナ戦争は始まらなかったかもしれませんし、もっと小規模で早期終結していたかもしれません。元米軍人としては非常に心が痛いです」(飯柴氏)
繰り返しにはなるが、戦争の行く末がどうなるのかの鍵はやはり、トランプとプーチンのふたりが握っている。そして、米露の戦いは地球レベルになっている。
プーチン露大統領は、トランプと会談する意向だ(写真:Sputnik/共同通信イメージズ 「スプートニク」)
トランプがグリーンランド支配への意欲を高めている。トランプは大統領1期目からグリーンランド購入の意向を示していたが、年明けにもその関心を再び表明しているのだ。なぜトランプは極寒の地・グリーンランドが欲しがるのか。
「ここを米国が抑えれば、米中露のパワーバランス的に非常に大きな一手を打てます。ロシアと中国にとってこんな嫌な手はありません。
ロシアは北からの攻撃に無防備になります。頭の上から短剣を突き付けられた状況に等しいです。そして、海上の覇権を狙う中国にとっても、北大西洋一帯及び北極海が完全に米国の制海圏・制空圏となるわけです。
グリーンランドを買えないにしても、中国の"中華覇権"の度が過ぎた場合、イギリスがアイスランドを侵攻したのと同じ要領で、米国がグリーンランドに侵攻する可能性は大いにあると自分は考えます。これは、プーチンを揺さぶるトランプのテクニックのひとつかもしれませんが、非常に有効です。また、裏で動いている中国に対する牽制球という見方もできます」(飯柴氏)
ロシア側はトランプの発言を受け、1月10日に「北極圏はロシアの国益と戦略的利益の領域だ」と反応。そして翌日にはトランプとプーチンとの会談準備を認め、歓迎の意思を明らかにした。その成果は出て来たのだ。
プーチンはトランプとの会談に臨む。では、ウクライナはどうなる?
「どんな形にせよ、ウクライナは領土を失うことになります。自分がゼレンスキーなら早急に手を打ちますが、長引けば失う領土が大きくなるだけです。
ただ、プーチンとのこの会談で停戦にもちこめるかどうかは交渉次第です。ひとことで言うと、トランプはウクライナがどうなろうと知ったこっちゃありません。米国の国益にはほとんど影響が無いからです。
それよりも、ウクライナへの援助が米国経済を圧迫し、米軍の弾薬庫を空にしている。そちらのほうが問題です。それを前提に事態を見ないと大きな判断ミスをすることになるでしょう」(飯柴氏)
取材・文/小峯隆生
記事提供元:週プレNEWS
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