災害や遭難時に強い! 専用端末やアンテナも不要! 今年は「スマホと衛星の直接通信」元年だ!!
アメリカのスペースX社の低軌道衛星はスマホとの直接通信を可能とする基地局を搭載。同社は昨年、300基以上の低軌道衛星を打ち上げるほど超ハイペース進行
能登半島地震から1年。あのときは衛星通信を活用したシステムが情報収集において大活躍したが、今年はより実用的な衛星との直接通信システムが登場するという。その最新事情を解説します!
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■今年は衛星通信がもっと身近になります!1年前に発生した能登半島地震において、救助活動や被災者たちの情報収集に活用されたアメリカ・スペースX社の衛星通信システム「Starlink」。国内のキャリアはこれを被災地に搬入し、車両や船舶に搭載した移動基地局、そして一部損壊した基地局に接続することで、被災した通信インフラを補った。
今年は、そんな衛星通信システムを誰もが使える環境が整うという。スマホと人工衛星とが直接通信を行なう新システムについて、ITジャーナリストの法林岳之さんにお聞きします。
――最近話題のスマホと衛星の直接通信とは、どういった特徴があるのですか?
法林 これまでのStarlinkを活用した衛星通信は、衛星からの電波を受信するアンテナや端末、電源などの専用機器が必要でした。そして、行政や企業側はこれらの専用機器を事前に準備し、災害時には現場への搬入作業の必要もありました。
一方、スマホと人工衛星との直接通信の場合は、一般的なスマホがあり、それこそ空が見える地域ならどこでもSMSの送受信が可能です。つまり、専用機器は必要なく誰でも使えることから、災害や遭難に強いのが特徴なのです。
――これはどういったシステムを利用しているのですか?
法林 KDDIと、StarlinkのスペースX社が共同開発した通信システムになります。まず、このシステムに必要なのは高度340㎞ほどを飛行する低軌道衛星です。これまでのStarlink用の衛星は高度約550㎞を飛行していましたが、これではスマホとの直接通信ができません。
スペースX社は昨年1月に6基、約1年後となる昨年末には300基以上の低軌道衛星を打ち上げ、これによりシステム的には世界中で空が目視できるエリアならオール圏内という通信環境が整いました。日本国内でも昨年10月に実証試験が完了しており、海外では特例的に災害で活用されたケースもあります。
昨年10月23日、KDDIはStarlinkの低軌道衛星と一般的なスマホとの直接通信に成功。これにより震災などで基地局が倒壊した場合でもSMSの送受信ができ、効率の良い救助活動が期待できる画期的なシステムとなっている。世界中どこでも利用できるのもメリットだ
――特例とはどういったケースなのでしょう。
法林 昨年9月と10月、アメリカのフロリダ半島に大型ハリケーンが上陸しました。この時点で、アメリカではスマホと衛星の直接通信システムは完成していましたが、電波自体の送受信に関する法律面が〝未整備〟の状態でした。
しかし、アメリカ政府は大規模災害ということで特例的に認可し、通信インフラが遮断された被災地からは救助要請や安否確認に関する12万件にも及ぶSMSがやりとりされ、スマホと衛星の直接通信が災害時には大いに活用できることが確認されました。
昨年、馳浩石川県知事に通信関連の災害対策について取材したとき、「被災された方々は情報発信できないこと、情報の収集をできないことが恐怖であり、ストレスになります」という発言をしていました。
なので、専用機器を必要とせず、一般的なスマホを使用して衛星経由でSMSを送受信し、被災・遭難状況や位置情報を発信できるシステムは心強いと考えています。
――ところで、「一般的なスマホ」とはどのような端末になるのでしょうか?
法林 KDDIとスペースX社のシステムの場合は、OSがAndroid 15を搭載し、その新機能である「サテライトモード」を利用できる端末となります。Android 15は最新のOSですが、今年は国内・海外メーカーの既存端末も順次アップデートされていくので、直接通信を利用できるユーザーは増えるでしょう。
――このシステムは国内だとauやUQモバイル、その他KDDI系の回線を使用するMVNOでないと利用できないのでしょうか?
法林 現状ではauのみのサービスとなります。ただし、本システムは「Band 1」という世界的に最も普及した周波数帯を利用しています。国内ではNTTドコモとソフトバンクも採用しており、両社も周波数の一部を直接通信に対応できるようにするかもしれません。
そして、昨年12月18日に国内4キャリアが大規模災害時の新協力体制に関する発表を行ないました。能登半島地震での経験から事業者間の協力が不可欠となり、今後は災害発生時の復旧活動での連携をより強化するという内容です。なので、各携帯電話会社が連携しながら、衛星通信を活用することも考えられます。
昨年7月に日本でも提供が開始されたiPhoneの「衛星経由の緊急SOS」。iPhone 14以降のモデルで利用できるが、対応する地域は17ヵ国と少ないのが現状。また、メッセージの送信時間も15秒ほどかかる
――衛星との直接通信というと、昨年7月からAppleのiPhoneシリーズも「衛星経由の緊急SOS」が国内でも利用できるようになりました。これとの違いは?
法林 AppleのサービスはiPhone 14以降のモデルで利用できます。同社の衛星中継センターの専門スタッフとメッセージでやりとりし、位置情報の共有などを行なう独自のシステムです。
こちらも海外では災害・遭難時の実績があります。課題としては、同システム専用の低軌道衛星の数が少ないことから、対応する地域は17ヵ国。メッセージの送信時は、かなり空が開けているロケーションが必要となり、その送信に15秒ほどかかることも課題となっています。
楽天モバイルはアメリカのAST SpaceMobile社と共同で衛星通信システムを開発中。23年4月、他社に先駆けて人工衛星BlueWalker3(写真)を介した音声通話実験に成功。2026年の一般提供を目指している
――これ以外にもスマホと衛星の直接通信に積極的なメーカーやキャリアは?
法林 国内だと楽天モバイルです。同社はアメリカのAST SpaceMobile社と提携して、衛星との直接通信技術を開発しています。こちらはSMSだけでなく、音声通話、さらにデータ通信も行なえるのが特徴です。
例えば、被災状況をSNSに配信して情報共有することもできます。こちらは2026年からサービスが開始される予定です。
こういった新技術の災害時の活用方法を4キャリアで共有していくことも、今後の大規模災害時の効率の良い救助・援助活動に結びつくのではと考えています。
写真/AST SpaceMobile Apple KDDI SpaceX 法林岳之
記事提供元:週プレNEWS
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