オモコロ編集長・原宿「ネットにはフェイクしかない。世の中が方向性を見失っている」映画「カウンセラー」「フィクショナル」【ネタバレ】
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イチオシスト:イチオシ編集部 旬ニュース担当
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「行方不明展」、「イシナガキクエを探しています」を手掛けた大森時生プロデューサー(テレビ東京)が酒井善三監督とタッグを組み、初プロデュースした新感覚BLドラマ「フィクショナル」、酒井善三監督の前作「カウンセラー」を「シモキタ - エキマエ - シネマ『K2』」他で上映中!
※「フィクショナル」は、U-NEXTでは観られない完全版
【動画】「フィクショナル」
劇場公開を記念して11月15日(金)にトークイベントが開催され、オモコロ編集長・原宿、酒井善三監督、大森時生が登壇。
「テレ東プラス」は、満員御礼となったアフタートークの模様をリポートする。
【カウンセラー】
ある心理相談室に勤める心理カウンセラーの倉田真美(鈴木睦海)は妊娠6カ月で、産休前最後の出勤日だった。予定していた最後の相談者を見送った真美の前に、予約のなかった吉高アケミ(西山真来)という女性がやってくる。
やむなく相談内容だけでも聞くことにした真美に対し、アケミは「妖怪が見える」と語り始める。謎めいたアケミの口から語られる昏い物語は、聞いている真美の妄想を駆り立て、真美は次第に不安の渦に飲み込まれていく。
時間の経過とともに真美と同化し、観ている側の不安は増幅。ラストを迎えた後も頭の中で限りない物語が広がっていき、登場人物の心理的側面を分析せずにはいられない――。
「カウンセラー」は“嫌なもの大喜利”
![フィクショナル](https://ix.aacdn.jp/ichioshi/cp_articles/img/IoFt93rbzU/content_3_20241124120022.jpg)
蛾、ベロ、揺れ動くワカメ…「カウンセラー」には嫌なものが積み重なっており、まるで“嫌なもの大喜利”のようだった(笑)と語る原宿。大森が酒井に「“嫌なもののストック”は存在するんですか?」とたずねると、エッセイが好きだという酒井は、「これは嫌だな」「これは使える」と思ったものをメモした“嫌なものリスト”が存在することを明らかにした。
原宿と大森は「女性のベロ」「浴槽に広がる髪の毛とボウル内で増えていくワカメの対比」「蓋がついた熱いハーブティーを一気に飲む干す」など、劇中、印象的だった“嫌なシーン”を挙げ、独自の視点を織り交ぜながらトークを展開。
象徴的な存在として登場する「蛾」については、酒井が江戸川乱歩のイメージでシナリオを書いた際、蛾を捕獲するため、群馬県まで足を運んだという苦労話も。「虫は犬や猫より演技をしてくれる可能性が低いので、もうやめました」と話し、笑いに昇華させる場面があった。
そもそも酒井と大森の出会いは、「カウンセラー」が上映された池袋の劇場だったそう。大森が声をかけ、連絡先を交換した2人は、後にタッグを組み、「テレビ放送開始69年 このテープもってないですか?」、「Aマッソ単独ライブ『滑稽』」「SIX HACK 検証」などを経て、「フィクショナル」で初のドラマを制作。
そして、「このテープもってないですか」の設定は、原宿がYouTubeの企画「咎人の雛(とがびとのひな)」で演じた“支離滅裂な会話を繰り広げるキャラクター”にインスパイアを受けたと明かした。
【フィクショナル】
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うだつの上がらない映像制作業者・神保(清水尚弥)のもとに、ある日、大学時代の先輩・及川(木村文)から連絡がくる。
憧れの先輩との共同業務に、気分が湧き立つ神保だったが、その仕事は怪しいディープフェイク映像制作の下請けであった。やがて迫りくる自身の「仕事」の影響と責任…神保は、徐々にリアルとフェイクの境目に堕ちていくのだった…。
誰にでも起こりうる現代社会の縮図とも言える作品。借金に追われ、何の映像を作らされているのかも知らず、組織の末端として働く神保の姿は、今話題の“闇バイト”そのもの。不穏が保たれた状態で緊張は加速し、驚嘆に値するラストが待ち構える。
![フィクショナル](https://ix.aacdn.jp/ichioshi/cp_articles/img/IoFt93rbzU/content_5_20241124120022.jpg)
「『フィクショナル』と現実の接続点」
原宿「フィクショナル、とても面白かったです。すごいものを見たという感覚があります。フィクショナルを見て、改めて、こんなに世の中の方向性がなくなるのかっていうのを感じますよね。どっちを向いて生きていけばいいのかを本当に見失っているような」
大森「現実はフィクショナルよりさらに悪化しているような感覚すらあるというか。最近だと、アメリカ大統領選でフェイク動画が出回りまくって、お互いの支持者がお互いのフェイクを作って、もう本当にどっちも信用ならないみたいな。
Xとかに上がる短尺動画は、それこそ『フィクショナル』じゃないですけど、もう見ても、どれが本当かもよく分からないし、みんなシャットアウトしちゃう。方向性も見えなくなる。」
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原宿「闇バイトも最近、熱いトピックになりましたけど。自分がやっていることが何かよく分からないけど、目先の金がもらえるから、別になんでもいいからやるみたいな感覚。分断されまくっている時代で、下請けの下請けみたいなことが現実でも存在する。誰も全体像は知らないけど、“まぁなんか生きてけるし、いっか”みたいな感覚なのかもしれない。
1年を通して農作物を育てるしかないのかな?みたいなところにきちゃいましたよね。身体をもって、何かと接続するしかないというか。
大森「作中で描かれるフェイク動画のひとつに、在日外国人へのヘイト動画もありますよね?これもまたタイムリーというか。」
酒井「今ほどじゃないですけど、(脚本を書いたのは)クルド人へのヘイト動画がインターネットで増えてきた時です。クルド人が“日本人死ね”と言っている、動画も大きく拡散されましたよね。でもそれも実際に作られた音声?聞き間違い?とも思える非常に不確かなものでした。そこに真実は関係なく、ヘイトが拡散していく。」
原宿「そういうものが普通にSNSの“おすすめ”で流れてきちゃうんですよね。誰の何のおすすめなの?と思うんですけど」
大森「フェイクと断定するまでのカロリーと、フェイクを作るカロリーが見合っていなさすぎる。フェイクは一瞬で量産されていくわけじゃないですか。そうなると、それは追いつけないよなっていう気持ちにはなりますよね」
「原宿お気に入りのキャラクター『柴田』」
原宿「この映画を観て、面白い!と思った瞬間があって…柴田が出てきた瞬間、あーいい映画だと思いました。黒幕がおばあちゃんというあの面白さ。あれ、最高!と思ったんですけど、あれはなんでおばあちゃんに?」
酒井「一番苦労したんですよ、誰にしようかと。僕、脚本書く時、性別も年齢が書かないことがあるんですよ。で、まぁやって、キャスティング担当の方に“誰か良い人いないですか?”と聞いて。その中で、にしだまちこさんが挙がって来まして、これだ!となりました。」
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原宿「先ほど黒幕と言いましたが、柴田すら末端の可能性があるみたいなのが面白いですよね。彼女に思想があるかどうかもわからない。現実の闇バイトの話にもつながってきますよね」
大森「フィクショナルは、大きな陰謀論の話ではなく、小さな世界で話が進んでいきますよね。ただ、最後一気にツイストされて、急に大きな世界に接続する」
原宿「あれが面白いですよね。こういう規模の話だったの?みたいな。黒沢清監督『回路』のラストでも思いますけど、この規模の話だったんだみたいな。ああいう面白さはやっぱり最高。」
大森「ラストまでは、割とディープフェイク制作者の末端の話。柴田も下請けの下請けの下請けくらいではありそう。それでも意外といい車に乗れるんだみたいなところもありつつ笑」
酒井「ベンツに乗ってますからね」
「『フィクショナル』はBLなのか?」
原宿「フィクショナルも触れ込みとしては、BLなんですよね?」
大森「酒井さんとも話して、男性同士でも女性同士でも、何でもいいっていうのはあれですけど、そこに差異はないという話はしていて。闇バイトをしている人が実際なぜ闇バイトしているのかは不明ではありますが、今回の場合は恋愛とも言い切れないような淡い、憧れの心とか恋心みたいなのが全ての起点になっています。それをBLと言っても問題ないだろうと思いました」
原宿「回想シーンで、神保が及川のあとをつけちゃったりしていましたからね。想いは強いのかなと」
酒井「男性同士にした理由みたいなものを聞かれることはあるのですが、特に理由もなく…。そもそも恋愛感情とかあんまり理解できないタイプで。肉欲は理解できるんだけど、恋愛は理解できない。男性同士だろうが男女だろうが、女性同士だろうが、実際は色々違うんでしょうけど、別に何でもいいじゃないかと。女性のエロティックなものって描けないというか…僕がやるとステレオタイプで気恥ずかしいものを作っちゃったりする気がして」
大森「いわゆるセクシーな女性像になっちゃう?」
酒井「それはちょっとなと。でも男性のエロティックってあまり見ないから、やってみたいなと思って。だったらどっちも男性でいいかくらいの、ほぼ何も考えていない。深い意味はないです」
原宿「でもいいですよね、及川と神保の関係性が」
酒井「心の機微みたいなのが僕はあまり分からないので。俳優さんにはうつむきながら説明しました」
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大森「脚本の最初の数ページを読んで、恋心も合わせて暴走していくのかなと想像していたんです。最初は淡い神保の恋心だけど、神保の仕事が世の中に影響を与えて、だんだん虚実が分からなくなっていく。それに合わせて神保の及川への気持ちも暴走し、そっちも大変なことになるのかなと。でも、恋愛の部分は非常に淡いままというか…そこって何か考えがあったんですか?」
酒井「恋愛が成就したら全く面白くないんじゃないか、案外神保って、成就したら全然興味なくなるんじゃないかという気はしていて」
大森「満たされない方がいい?」
酒井「満たされないからなんとなくそのままでい続けるのかもしれないなという気がして、そうしました。もうふんわり。BLって言われると、最後ら辺にもう一つ欲しいって人もいるのかもしれないですけど、そこは申し訳ないです」
原宿「二人の関係もある意味ではあっけないですからね。後はもうAIみたいな」
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「原宿の好きなシーン」
原宿「歩行器を使っている人を撃つシーンはすごいですよね、あれ、なんで撃つの?ってなりますよね。そこに迫力を感じましたし、あのシーンは凄かったですよね。動くなー!って言われてましたが、別に動いてもないし、武器もないのに笑」
酒井「病院のロケスタジオにロケハンに行った際、リハビリ室に置いてあるのを見て、これだねと。これ使いたいですと。ただいざ本番の撮影のときに、助監督さんから『歩行器があると真剣に見えないから、やっぱり歩行器やめましょう』って話になったんですよ。『あっでも、歩行器だけはやっぱり欲しいな~』みたいな」
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「『フィクショナル』ラストシーンの意味」
原宿「あと1個聞きたいのが、僕、神保はラストの選択に驚いたんですよね。今までの神保の流れでいくと、ちょっと違うかと。何でそうしたんですか?」
酒井「うーん。神保も変わったんでしょうね。ただ、選んだというか、選ばされたのかもしれない」
原宿「選んだということは、自分の責任で立ち始めた」
酒井「そうですね、やむなく」
大森「なんで自分が選ぶ立場になっているのかが分からない人が選ぶことになるっていうのもリアルに感じました。勝手な想像ですけど、前回トランプが負けた時、Qアノンだと言って議事堂に乗り込んだ人たちも、実際に行動を起こしている人の中で、なんで自分が選ぶ立場になっているのかよく分からないリーダーも存在しそう。それも意外と時代性が反映されているなと思いました」
≪フィクショナル 映画概要≫
【タイトル】 「フィクショナル」
【劇場】 シモキタ - エキマエ - シネマ『K2』/新文芸坐 他
【出演者】 清水尚弥、木村文 ほか
【脚本・監督】 酒井善三
【プロデューサー】 大森時生(テレビ東京)
【公式X】 @fictional_TX
≪カウンセラー 映画概要≫
【タイトル】 「カウンセラー」
【劇場】 シモキタ - エキマエ - シネマ『K2』/新文芸坐 他
【出演者】 鈴木睦海、西山真来 ほか
【監督・脚本】 酒井善三
【『行方不明展』が書籍化!】
ホラー作家・梨×株式会社闇×大森時生主催の不穏な展覧会「行方不明展」が書籍化!
“行方不明” をテーマに作られた架空の “痕跡” 全52件を完全収録。
※この書籍に収録されている展示品は全てフィクションです。
書籍には、品田遊(ダ・ヴィンチ・恐山)の「『行方不明展』開催によせて」と「おいしいごはんが食べられますように」で芥川賞を受賞した高瀬隼子による特別書き下ろしエッセイ「行方不明がインストールされる」も掲載されている。
記事提供元:テレ東プラス
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