【2024 JリーグYBCルヴァンカップ決勝 コラム】有終の美を飾ったランゲラックが願った密かな約束。表彰式の裏側にあった主役の思いとは
栄光のカップリフトを、二人で──。
「何が何でもカップを名古屋に持ち帰りたい」。そう語っていた守護神ランゲラックの想いが結実した2024 JリーグYBCルヴァンカップ決勝。そして彼にはもう一つ、歓喜の瞬間に必ず実現したい約束があった。
お互いに3ゴールずつを奪い合い、PK戦までもつれ込む大熱戦となったアルビレックス新潟とのファイナル。激闘の末に名古屋グランパスが3年ぶり2度目の頂点に立った。この日の主役となったのが、今シーズン開幕より前任者の稲垣祥からキャプテンを受け継いだランゲラックだった。
“ミッチ”のニックネームで愛された守護神は今年7月末に今シーズン限りでの退団を発表。度重なるスーパーセーブでチームを救ってきた功労者を送り出すため、選手、スタッフ、サポーターが「ミッチと一緒にタイトルを」と意気込んでいた。明治安田J1リーグ、天皇杯と可能性が潰えたが、最後に残されたルヴァンカップで勝ち上がり、そして新潟との決勝で念願の頂点に立った。
ルヴァンカップ制覇に向けて、選手、スタッフ、サポーターが彼に花道を作るべく一つになっていた。優勝後の記者会見、長谷川健太監督が「今日はミッチがすべて。最後の優勝が懸かった試合で、みんなが何としてもこのタイトルを取らなければいけないと思って臨んだ」と語ったように、グランパスファミリーが有終の美となるタイトル獲得に向けて団結する大きなモチベーションとなっていた。
ただし、ランゲラック本人は周囲の盛り上がりに対して少し「Uncomfortable(居心地の悪さ)」な気持ちがあったという。
「周りから『ミッチのために』といろいろ聞いていたんですけど、あまり心地良くなかったのが正直な気持ちでした。チーム全員で戦うことが大切だし、今日はクラブに関わるすべての人たちのために戦わなければいけない試合だった。今回は両チームのサポーターの素晴らしいサポートがあって、満員のスタジアムでものすごくいい雰囲気の中でプレーできた。とても長い試合になってしまったけれど、最終的にはみんなで勝てたことがすごくうれしい」
各所に敬意を表し、チームの勝利を最優先するランゲラックらしい優勝コメントだ。
試合後のミックスゾーン、改めてキャプテンとして掲げたカップの感想を聞くと、チームでの戦いを強調していた姿から一転、個人的な想いを強く押し出したエピソードを語ってくれた。
「カップを掲げることができたのはアメイジング。テレビで見ていたように自分の手で掲げることができて、すごくうれしかった。でも、今日は試合前から『勝ったら自分だけじゃなく、ショウと二人で掲げようという話をしていた。だからカップを二人で掲げることができて本当にうれしかった」
3年前のルヴァンカップ優勝をともに味わい、現在もチームに在籍する唯一のチームメイトだ。大熱戦後の表彰式、手渡された“聖杯”を持ちながら表彰台に上がったランゲラックが試合前の約束を果たそうと、隣で異なるカップを受け取っていた稲垣祥に声を掛ける。その言葉を聞いた稲垣は横の河面旺成に手元の杯を託すと、少し照れたような表情でランゲラックが持つカップの反対側の“耳”に手を添え、そして二人で栄光のルヴァンカップを高く掲げることになった。
「僕は本当に拒否していたんですよ。でも、ミッチに『これは俺のお願いだ。俺の想いなんだ!』って強めに言われて……。普段、そんなに強く言われることがなかったから、『失礼します』って思いながら半分だけ持たせてもらいました。ミッチは俺のことを信頼してくれているし、俺もミッチのことを絶対的に信頼している。その絆は固いものがありますし、そこはどんな試合でも、どんな時期でも揺るがなかったですね。今回の決勝はミッチがこれまでグランパスに捧げてくれたすべてに対して感謝を表す意味でも、彼に優勝カップを掲げてもらわなければいけなかった。そういう意味ではホッとしてます。ミッチがこれまでグランパスに残してくれたものは本当に偉大なので、僕も含めて選手がしっかり受け継いで、彼の意志は残していかないといけない」
PK戦が始まる直前、ランゲラックと稲垣が力強く抱き合い、想いを通じさせるシーンがあった。その場面について稲垣は「いろいろな意味を含んだものだった。言葉はいらなかった」と振り返る。チーム一丸となって戦い、苦闘の末に勝ち取ったタイトルの裏側には、長く共闘してきた両者の絆があった。
「チームを離れるのは寂しい」と漏らした守護神だが、「名古屋での7年間、本当に最高の時間を過ごすことができた。その最後にルヴァンカップ優勝という最高の終わり方ができたのは本当にうれしい」と素直な気持ちも口にする。そして、チームを離れてもグランパスファミリーであり続ける気持ちは変わらない。
「自分はオーストラリアに帰るけど、今度は一人のファンとして戻ってきたい。名古屋グランパスはビッグクラブだけど、ここ10年間は獲得するべきタイトルを獲得できていなかった。チームを離れても名古屋の大ファンとしてずっと見守っていたいし、今後はもっとタイトルを獲得できるように幸運を願っています」
グランパスファミリーがミッチのために戦い、ミッチがみんなのために戦って手にしたタイトルは、記憶にも記録にも残るものとなった。最高の置き土産を残して名古屋を去るランゲラック。自分に関わってくれた人たちに捧げる最後の歓喜とともに、個人的な願いだった盟友とのエモーショナルな瞬間を残して、笑顔で国立競技場を後にした。
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取材・文=青山知雄
写真=徳丸篤史
【制作・編集:Blue Star Productions】
記事提供元:Lemino ニュース
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