「水深ゼロメートルから」釜山国際映画祭Q&Aで濵尾咲綺、清田みくり、久保和明プロデューサーが制作の裏側を語る
「アルプススタンドのはしの方」に続く〈高校演劇リブート企画〉の第2弾として、第44回四国地区高等学校演劇研究大会で文部科学大臣賞(最優秀賞)に輝いた徳島市立高等学校の演劇を、山下敦弘監督により映画化した「水深ゼロメートルから」。
第29回釜山国際映画祭で韓国プレミアが行われ、Q&Aセッションに登壇したココロ役の濵尾咲綺、チヅル役の清田みくり、プロデューサーの久保和明が、観客の質問に応じる形で制作の裏側を明かした。
「ばかのハコ船」(02)「もらとりあむタマ子」(13)「オーバー・フェンス」(16)など、山下監督作をたびたび招待してきた釜山国際映画祭。今回の「水深ゼロメートルから」は、“アジアの若者”をテーマにした〈特集上映部門〉に選出されたが、当の山下監督の映画祭参加は叶わず。それを受けて久保プロデューサーが「山下監督も釜山に行きたがっていましたが、今日は私たちで楽しい時間にできたらと思います」と挨拶する。続いて濵尾と清田が韓国語で自己紹介し、Q&Aが始まった。
──演劇を映画化した経緯
久保 実は私たちが高校演劇を映画化するのは2回目。1回目の時に、この取り組みが高校演劇や映画業界にとって有益だと感じることができた経験があり、若い世代の方々の今後のステップアップに繋がるいい映画が制作できたのが大きいですね。それが「アルプススタンドのはしの方」という映画。この成功体験を踏まえて次作を作りたいと思い、他のプロデューサー陣と1~2年かけて考えたのが「水深ゼロメートルから」。そこから映画化に至りました。
──映画に参加したきっかけ、演じたキャラクターについて
濵尾 私は2年前の舞台のオーディションをきっかけにココロ役として参加させていただきました。ココロを演じる際は、私自身も中学生の頃、モデルの仕事をしていた関係で「可愛くいなきゃ」というプレッシャーを感じる場面も多く、その点をすごく共感しながら演じました。
清田 私がこの映画に参加したきっかけは、映画化に伴うオーディションに応募したことです。演じたチヅルに関しては、自分の性格とは対照的で明るく元気なキャラクターなので自分自身が役から元気をもらいながら演じていました。
──演劇の映画化における演出法とは?
久保 まず、この原作は当時高校生だった女性が手掛けたものということを考えていただきたい。その上で、演劇を映画化する際に山下監督が悩んだ点としては“柱の数”。演劇の場合は柱が少なく、ずっとプールの底で物語が展開されていく。映画の場合だと、いつどのタイミングで柱を作ってシーンを切り替えるか、視点を移すかなどのバランスを考えるのが山下監督の最初の作業でした。あとは、撮影時の最大の敵は“天候”。雨が一日でも降ると、撮影を何日も延期せざるを得ない状況でした。幸運にも撮影期間中の10日間は全く雨に降られず晴天が続きました。
──カット割りのこだわり
久保 山下監督の演出プランの一つとして、今作ではカットをたくさん割ることや、ズームなどを極力減らしていく方針があったのだと思います。カットを割る必要がなければ割らない。寄る必要がなければズームはしない表現を探っていたように感じます。そうすることで、観客が集中してそれぞれ見た人の心の中で物語がもう一つ完成していくような演出に、この映画の客観性のプランを感じました。とてもストイックに映画らしく作った作品だからだと思います。実は、チヅルの砂をグラウンドに返しに行く最後のシーンについて、山下監督はクローズアップにすべきか引きの画にすべきかを一日迷った結果、引き画を選び、映画の中の大切なワンカットとして観客に委ねることを選択したのかもしれません。
──キャストに対する監督の演出
清田 監督と話し合ったことは、“チヅルはとても幼い”ということでした。また、私の演技に対して監督が否定する感じでなく、むしろ乗っかってくれたことで、自信をもって演じることができました。
──山本先生について
濵尾 ココロは山本先生と対峙するシーンがあるのですが、高校時代の一番怖い生徒指導の先生に山本先生が似ていて本当に怖かったです。実際にセリフでも強い言葉をかけるのですが、そのシーンはココロとして“言うぞ!”と覚悟を決めて臨んだシーンでした。舞台の時は山本先生も方言を話していたのですが、映画版は標準語だったので、その違いが先生の冷たさに繋がっているのかなと思います。
大盛況で韓国プレミアを終えた「水深ゼロメートルから」。10月23日(水)リリースのBlu-rayもチェックしたい。
「水深ゼロメートルから」
Story
高校2年の夏休み。ココロとミクは体育教師の山本から、特別補習としてプール掃除を指示される。水のないプールには、野球部のグラウンドから飛んできた砂が積もっていた。二人は渋々と掃き始め、水泳部員の同級生チヅル、水泳部を引退した3年のユイ先輩も合流。学校生活、恋愛、メイクなどたわいない会話を重ねる中で、彼女たちの悩みが溢れ、思いが交差していく──。
出演:濵尾咲綺、仲吉玲亜、清田みくり、花岡すみれ
三浦理奈/さとうほなみ
監督:山下敦弘
脚本:中田夢花
原作:中田夢花、村端賢志、徳島市立高等学校演劇部
音楽:澤部渡
主題歌:スカート「波のない夏 feat. adieu」(PONYCANYON / IRORI Records)
製作:大熊一成、直井卓俊、久保和明、保坂暁、大高健志
企画:直井卓俊/プロデューサー:寺田悠輔、久保和明
撮影:高木風太/照明:後閑健太/録音:岸川達也/美術:小泉剛
スタイリスト:小宮山芽以/ヘアメイク:仙波夏海/助監督:山口雄也
ラインプロデューサー:浅木大、篠田知典/キャスティング:池田舞、松本晏純
スチール:根矢涼香/脚本協力:小沢道成/協力プロデューサー:根岸洋之
宣伝美術:寺澤圭太郎/宣伝プロデューサー:森勇斗
製作:『水深ゼロメートルから』製作委員会
製作幹事:ポニーキャニオン
制作プロダクション:レオーネ
配給・宣伝:SPOTTED PRODUCTIONS
©︎『水深ゼロメートルから』製作委員会
記事提供元:キネマ旬報WEB
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。