高橋ヨシキが映画『エストニアの聖なるカンフーマスター』をレビュー!
©Homeless Bob Production / White Picture / Neda Film / Helsinki Filmi
旧ソビエト連邦の統治下にあった1973年のエストニアを舞台に、(当時の共産圏ではご法度だった)ブラック・サバスの音楽に熱中し、ブルース・リーを崇める青年がひょんなことから東方正教会に入門し、そこで信仰とカンフーの修行を積んで成長していく物語である。
というのも本作の世界において、東方正教会の教父たちはカンフーの師父でもあるからだ。というあらすじからも分かるように非常にユニークな作品で、ジャンル映画的な表象をちりばめたコント的なエピソードが連続する構成も含め、オリジナリティは高い。
しかしながら「ブラック・サバス」「東方正教会」「カンフー」という、食い合わせの悪そうな要素を用いた「三題噺」が、最終的にその三要素を有機的に融合させることに成功しているかといえば、必ずしもそうではない。
もちろん、理屈として、ソ連時代に苛烈な弾圧下にあった教会と、抑圧への抵抗の象徴としてのカンフーの組み合わせは理解できるし、劇中延々と流れるブラック・サバスの曲『ザ・ウィザード』が「善の魔法使いが悪を倒す」という歌詞であることもそれを強化するものではあるが、それが「信仰」を無条件に称揚する根拠にはなり得ないのだ。
STORY:国境警備の任に就く⻘年の前に3⼈のカンフーの達⼈が現れ、警備隊は壊滅状態に。奇跡的に⽣還した青年はメタルやカンフーに熱狂するようになり、ある日偶然に出会ったカンフーを扱う僧侶たちに弟⼦⼊りを志願する
監督・脚本:ライナル・サルネット
出演:ウルセル・ティルク、エステル・クントゥ、カレル・ポガほか
上映時間:115分
全国公開中
記事提供元:週プレNEWS
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。