「弱すぎ(!?)」石破政権の誕生は、政界大再編の始まりなのか?
衆院解散・総選挙のタイミングについて、石破首相(右)は早くも森山幹事長(左)に寄り切られる形に......
「国民人気は抜群だが......」。そう言われ続けた"党内野党の雄"が、悲願の首相就任。しかし、その足元は火種だらけで、安定飛行はまだまだ見えてこない。このままでは与党も野党も流動化し、「再編」含みの波乱が――!?
■"党内野党"が閣内へ、主流派は"党内野党"へ自民党総裁選挙の投開票から一夜明けた9月28日。東京都港区にある衆議院赤坂議員宿舎の一室で、前日の決選投票で激しく競り合ったばかりの石破茂新総裁、高市早苗経済安保担当大臣(当時)が向き合っていた。
その場で石破氏は、自民党四役の一席である総務会長への就任を打診。しかし高市氏はこれを固辞し、"党内野党"という言葉を放った――。
10月1日に発足したばかりの石破内閣の先行きは、決して見晴らし良好ではない。自民党国会議員秘書が言う。
「総裁選敗北後、高市さんは周囲に『石破政権では無役を貫く』と語ったそうです。要するに高市さんは、石破政権が短命に終わると予測している。だからこそ、ヘタに役職に就いて自由な発言ができなくなるよりも、"党内野党"に徹して次の総裁選に備えようとしているわけです」
元自民党衆院議員の安藤裕氏(次期総選挙に参政党から京都6区で出馬予定)もこう指摘する。
「高市さんと同じく右派寄りの議員の支持を受けて総裁選に出馬した小林鷹之元経済安保大臣も、広報本部長への就任要請を断った。石破首相に対して非協力的な"戦闘モード"に入ったふたりの動きを見て、党内右派グループもアンチ石破の動きを強めることになるとみています」
党内の分断は、早々に固まった新政権の閣僚・党人事でさらに加速しそうだ。裏金問題の印象が強い旧安倍派からの登用が見送られたのみならず、総裁選で高市支持に動いた麻生派、衆院茂木派からの起用はほんのわずか。
その一方で、石破首相に近い議員や、総裁選勝利の原動力となった菅義偉元首相のグループ、旧岸田派への厚遇があからさまに目立つ。
ジャーナリストの鈴木哲夫氏が解説する。
「官房副長官ポストまで含めると、石破陣営にはせ参じた議員が8人も閣内入りしているわけですから、ひと言で言えば論功行賞。
その反動で高市支持の旧安倍派などからの起用はゼロとなりましたが、決選投票での議員票がほぼ互角だったことを考えれば、今回"干される"形になった大きな固まりは、間違いなくアンチ石破で結束する。野党と対峙する前に党内から足を引っ張られかねないことは、今後の大きな不安材料です」
特に、国葬の際に故・安倍晋三元首相を「国賊」と批判し、党員資格停止処分を受けた村上誠一郎氏の総務大臣就任には驚きの声が相次いだ。石破首相と村上氏は、第2次安倍政権時代に"党内野党"として論陣を張り続けた盟友で、この起用は党内で権力の「再編」が起きていることを象徴する人事となった。
「これに旧安倍派は猛反発しており、早くも陰で"石破降ろし"を口にする議員もいる。『総裁選が終わればノーサイドで挙党一致』というフレーズは幻に終わりそうです」(前出・自民議員秘書)
■早期解散は恥だが役に立つ......のか?党内基盤の弱さをカバーする最良の薬は、なんといっても国政選挙、特に衆院選に勝つことだ。安倍元首相も国政選挙で6連勝し、盤石の政権基盤を築いた。
ただし、石破首相は長年、政権延命や党利党略のために総理大臣の独断で行なわれる、いわゆる「7条解散」に否定的だった。総裁選の最中も、早期解散を主張する小泉進次郎氏に対し「国会での与野党論戦が必要」と反対の論陣を張った。ところが......。
「石破さんはいざ総裁に選ばれると、首班指名を受ける前に――つまり、法的にはまだ首相ではなくなんの権限もない状態で、27日投開票という早期解散スケジュールを打ち出した。これは前言撤回というだけでなく、立憲主義の観点からも問題の多い"暴走"でした」(野党国対関係者)
この暴走の理由を、前出の自民議員秘書が解説する。
「実は、石破首相本人は『予算委員会をやった上で、年内に総選挙をやればいい』と周囲に語っていました。早期解散へと翻意を促したのは、党運営などで石破首相が全面的に頼らざるをえない百戦錬磨の重鎮・森山裕幹事長です。
新政権への期待が高いうちに総選挙に打って出て勝利すれば、政権基盤も安定すると、石破首相にかなり強い口調で進言したそうです。
早期解散なら、懸案の裏金議員を公認するかどうかの審査も時間不足を理由にスルーできるという計算も新政権内で働いたのでしょう。しかし、しょっぱなからこれでは、石破さんはあまりにも弱すぎる。『まるで森山政権だ』との声さえ聞こえてきます」
党選対委員長に就任した小泉元環境大臣。ある意味、裏金議員の公認問題という難題を押しつけられた格好
ちなみに、首相就任からわずか9日間での衆院解散は、戦後憲政史上最短記録となる。持論を曲げ、野党から猛批判され、"不名誉記録"を樹立してでも総選挙の勝利を取りにいった「逃げ恥(逃げるは恥だが役に立つ)解散」。しかし、それは本当に「役に立つ」結果となるのか?
毎日新聞が総裁選の直後に行なった世論調査では、「石破政権に期待する」と答えた有権者は52%だった。
「同じ毎日新聞の調査では、菅政権のスタート時は74%、岸田政権でも59%。石破政権の52%という数字は、石破さん個人の国民人気の高さを考えると、かなり低めです。ここで早期解散宣言という"手のひら返し"に加え、短期決戦を口実に裏金問題などでも煮え切らない対応をしていると、石破さんへの失望感がさらに広がる。
支持が低迷して厳しい選挙結果となれば、党内右派の突き上げを受け、短命政権に終わるシナリオも現実味を帯びてきます」(前出・鈴木氏)
さらに言えば、政策の評判も危うい。得意分野のはずの安全保障に関して石破首相がブチ上げた「アジア版NATO」構想は、多くの専門家が「非現実的だ」「現状認識が20年前で止まっている」などと酷評。経済政策に至っては、金融所得課税強化の容認発言や緊縮財政志向がマーケットに嫌気され、就任早々から東証株価が暴落した。
■立憲内にも火種。政界は流動化?そこで注目されるのが、野田佳彦新代表率いる立憲民主党の対応だ。
自民党の足場が揺らぐ中、野田代表は「野党議席を最大化させ、自公(自民・公明)連立政権を過半数割れに追い込む」という目標を明言。共産党とは距離を置く一方で、日本維新の会や国民民主党に選挙協力を呼びかけている。
この野党構図の「再編」、特にこれまで他党との選挙協力を拒んできた衆院第3党の維新との連携交渉は、選挙戦に大きく影響する可能性がある。
石破政権発足の段階では「空白(=現状で候補者を立てていない)選挙区の一本化」程度の話にとどまったが、母体である大阪維新の会・吉村洋文代表からは「自民裏金議員の選挙区では野党候補を一本化することに合理性がある」と、さらなる協力に前向きな発言も出始めた。
衆院選に向け、野党側の最大の焦点は立憲・野田代表(右)と維新・馬場伸幸代表(左)の連携交渉の行方
しかし、その「再編」の核となる野田立憲も、足元に火種が転がっている。
「維新、国民との連携を進める野田さんは、無党派層や自民支持層の一部まで取り込むべく、立憲の左傾イメージを払拭し、中道保守へとウイングを広げようとしています。そのため党の新執行部も保守・中道寄りの議員で固めましたが、党内左派からは恨みを買った。このあたりは石破首相と似たような党内状況にあるのです」(立憲関係者)
また、「抜群に噛み合うはず」といわれる石破首相と野田代表の論戦についても、意外にも野党の側から不安の声が出始めている。
「皮肉なことに、石破さんと野田さんは政策的な立ち位置が似通っている。当面は石破首相の『逃げ恥解散』と裏金問題への対応に対する批判一本に集中する心づもりでしょうが、問題は石破さんが外交や防衛、経済などの主要政策の論戦に話をずらしていった場合です。
こうなると、論戦というより似た者同士の持論の投げ合いになってしまい、野党のポイントにならないのではないかとの見方もあります」(立憲関係者)
石破政権は「弱い」が、野党側も差し切れるほどの強さがあるかどうかは怪しい――そうなると、最もありそうなのは衆院選が「互いになんとも言えない結果」に終わり、与党も野党も足元がぐらつき、政界がますます流動化するというシナリオだ。
仮に石破政権が衆院選を乗り切っても、来年夏には参議院選挙がある。ここで自公が負け、衆参のねじれが生じると、いよいよ自公連立政権の終わりが見えてくる。そうなる前に、自民が維新や国民民主に秋波を送り、立憲との間で"取り合い"になる――。例えば、そんな「再編」もありえなくはない。
互いに弱さを抱え込んだ石破首相と野田代表の"相性"については、前出の安藤氏も懸念を口にする。
「石破さんと野田さんは、特に財政再建を進めるべきという立場が一致しており、その行き着く先は財政規律の強化、そして増税です。石破自民と野田立憲が消費増税で手を取り合うという局面が現実のものになりはしないかと心配しています」
自民、立憲の新体制に対し、今はまだ国会活性化、政治刷新への期待がある。ところが、両党が内部抗争に明け暮れてしまえば、その行く末は活性化ではなく「大混乱」。第1ラウンドの衆院選はどんな結果になるのだろうか?
写真/時事通信社
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