“1ヤード”が命運分けたミラクルイーグル 「神様」に導かれた古江彩佳、涙のメジャー初優勝
<アムンディ・エビアン選手権 最終日◇14日◇エビアンリゾートGC(フランス)◇6523ヤード・パー71>
「大好き」というラッキーカラーのピンクに染まる会場で、古江彩佳がメジャー初優勝を成し遂げた。3メートルのウイニングパットを沈めると、右手を高く上げて、一瞬微笑みをたたえたが、すぐに涙がこみ上げてきて止まらない。
「いままで緊張したことがないぐらいなんですけど、最後にかけてすごく緊張もしてきました。しっかり良いプレーが最後までできて、メジャーチャンピオンになれてすごいうれしいなと思います」
前半は名物ホールとも言われる屈指の難ホール2番パー3で、ピン2メートルにつけてバーディが先行。続く3番パー4でも2打目をピン3メートルにつけて連続バーディを奪った。しかし4番パー4は2打目を15メートルの下りにつけてしまい、3パットのボギーに。それでもフロントナインの最終9番パー5で獲り返した。
中盤の苦しい時間には、キャディのマイク・スコット氏の言葉が古江に落ち着きを与えた。「ため息をついたり悔しい雰囲気を出していたらマイクから『気持ちをキープして続けるだけ』って言われて、そうだなって思った」。さらにスターウォーズ好きの古江は、劇中の名言を“おまじない”にもした。「May the force be with youって前にも頭に浮かべたこともあってそれがよかったりもしたので」。これは登場人物が、戦地に赴く仲間を激励したりする時などに使われる。“ゲン担ぎ”も込めてその言葉を唱えていた。
そして後半は、本人も「まだまだこのコースや大会の神様から“あきらめるな”と言われているような思いを感じた」と話すような驚きのプレーを連発する。12番で1つスコアを落とし迎えた14番パー3。ここで栄冠への道が切り開いた。ティショットをピン右10メートル強に乗せると、まずはそれを沈めた。これでトップに2打差の3位タイに浮上。続く15番も、レマン湖に向かうような順目で、かつ下りの15メートル弱のパットを残したが、これまで決めてしまう。2メートルをねじ込んだ16番を含み、3連続バーディがやってきた。ここでついに首位グループに追いつく。
最終18番も“命運”を分けるようなホールになった。ドライバーで放ったティショットはフェアウェイ中央にキャリーした後、右にキックし、残り175ヤードのファーストカットの位置へ。「ファーストカットだったので、少し怪しいかなというのもあったんですけど、しっかりまずは乗せることを意識して、手前(短め)のクラブと奥(長め)のクラブで迷ったんですけど」。最終的に短めの6番アイアンで強打することを決めた。
ボールはエッジ先すぐとも言える場所に落ちると、ピン方向へ転がり右上3メートルで止まった。このホールはグリーン手前に池があり、エッジから池までは急な下り傾斜になっている。“あと1ヤード”手前に落ちていれば、池に消えていた可能性が高い。しかし結果は2オンに成功。「しっかり乗せられて、本当に良いイーグルパットでよかったなと思います」。メジャーの“神様”が手招きしたような瞬間だった。
グリーンに向かう古江に、大勢のギャラリーから大きな拍手が贈られる。だれもが緊張感に包まれるなか、3メートルのイーグルパットを決めると右手を高く上げた。「プレーオフには持ち込みたくなかったので、入れなきゃいけないと思いながら打ったのが入ってくれて、本当ラッキーでよかった」。普段はあまりプレー中の感情を表に出さない古江が、一瞬で見る者によろこびを伝えた。
2021年の今大会を4位で終え、米国の地で戦うことを決めたいわば“はじまりの地”。メジャー昇格前には1997年に小林浩美、2009、11年に宮里藍が制している大会で、3人目の日本人優勝者になった。「もう本当にうれしいですし、こうしてメジャーで優勝できるとは思っていなかった。本当にうれしいの一言かなと思います」。素直に喜びを表現する。
表彰式後のインタビューでも涙を流した。今季はここまでの16試合でトップ10入りは8回ながら、なかなか勝てないもどかしい時間を過ごしてきた。そんな苦しい期間も乗り越えつかんだメジャー初Vは、これからの自信につながるに違いない。
この大会を終えると、すぐさまツアーは米本土に戻り3連戦が組まれているが、そこは欠場し一時日本に帰国する。次戦は8月15日開幕で、歴代優勝者のひとりとして名を連ねる「スコティッシュ女子オープン」を予定。新たに誕生したメジャー女王は、しばしの休息を挟み、再び思い出の地に旅立つ。(文・高木彩音)
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