【緊急取材】企業買収に潜む“詐欺師”を直撃 その巧妙な手口とは?:ガイアの夜明け
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イチオシスト:イチオシ編集部 旬ニュース担当
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10月3日(金)に放送された「ガイアの夜明け」(毎週金曜夜10時)のテーマは、「緊急取材!企業買収に潜む“詐欺師”」。
超高齢化社会を迎えた日本。多くの中小企業の課題となっているのが、後継者不足だ。
そこで活発になっているのが、合併や買収といった手法、いわゆる「M&A」で事業を引き継ぐ動き。成功例も多くある一方で、買収した企業から資金だけを抜き取って失踪する“悪質な会社”も存在するという。内情を知る人間が明かす、巧妙な手口とは? いま、舞台裏で何が起きているのか。
【動画】《緊急取材》企業買収に潜む“詐欺師”を直撃 その巧妙な手口とは?
“ノーベル賞研究”を支えた会社が“M&A詐欺”の被害に
東京・杉並区にある雑居ビル。1978年に設立した「センシュー科学」は、研究機関で使う分析機器を製造・販売していた。従業員は30人ほどで埼玉県にある自社工場で製造し、コロナ前は年商8億円を超えたが、2020年度は約1422万円の赤字に。債務は約3億円に膨らみ、経営を圧迫していた。
社長だった山口千秋さん(76)は、「できる社員がよそに引き抜かれた。厳しい状況にコロナが追い打ちをかけた」と話す。

「センシュー科学」は、創業当時から山口夫妻が二人三脚で経営してきたが、4年前、妻・とよさんが認知症になってしまい、それが会社を売却する契機に。山口さんは「かみさんの病気を何とかしたい。私なりに満足できる介護をしたいということで、1日も早く会社を処分したいというのが本音。切羽詰まった状態だった」と振り返る。
そんな中、目に止まったのが、M&Aを活用した事業承継をうたうダイレクトメッセージで、同時期に数社から送られてきていた。山口さんが最終的に頼ったのが、「ペアキャピタル」という仲介会社。M&Aの仲介会社は、事業を売りたい企業と買いたい企業をマッチングし、交渉や手続きなどの支援を行っている。
2022年春。「ペアキャピタル」を通じて、「ルシアンホールディングス」という会社が、「センシュー科学を買いたい」と名乗り出た。わずか2カ月足らず、2022年6月に売却が成立。しかし直後から、「センシュー科学」の資金が引き出され、なんと1年半で倒産してしまう。

山口さんは「我々を餌食にして、いいところだけ取って逃げる。明らかに(彼らは)計画倒産。本当に地獄」と嘆く。

この「ルシアンホールディングス」の実権を握っていたのが、トップのヒロタ氏と幹部のカタヤマ氏で、ともに行方が分からなくなっていた。買収した会社から金を引き出し、消えた男たち……何があったのか。
企業買収に潜む詐欺!?…そのアジトで何が?幹部を直撃!
山口さんが会社を譲った「ルシアンホールディングス」の本部は、茨城・土浦市のビルの中にある。しかし、そのフロアは真っ暗で人けが無く、そこにF氏(30)が1人で現れる。F氏は「ここには僕がいて机だけがいっぱいあって、パートさんが4人いた」と、以前の状況を話す。
2021年ごろ設立された「ルシアンホールディングス」は、多い時で20人ほどの従業員が働いていた。F氏は「ルシアン」の代表取締役の一人だったが、会社の実権を握っていたヒロタ氏とカタヤマ氏から、買収した企業の経営を押し付けられていたという。

デスクには無造作に数種類の名刺が置かれ、異なる会社の全てにF氏の名前が。「名刺ができていることも知らなかった会社が結構ある」(F氏)。
飲食店を経営していたF氏は、知人にヒロタ、カタヤマ両氏を紹介され、「ルシアン」に入社。「ルシアンホールディングス」は「センシュー科学」を始め、業態の異なる企業を次々と傘下に収め、40社近くを買収したが、そのほぼすべてが、山口さんと同じような被害に遭っていた。
「会社から会社に対する送金をやっている。会社間の取引に見えるようにやっている」とF氏。取材班に見せてくれた「ルシアン」の預金通帳の一つには、ある会社から3000万円の振込が。傘下に収めた会社から「ルシアン」に資金が集められていたのだ。
さらに500万円の引き出しが2回も。「ルシアン」の通帳から、今度はヒロタ、カタヤマ両氏のプライベートカンパニーに流れていた。

別の銀行口座の記録を見ると、カタヤマ氏のプライベートカンパニーへ移した金の流れが残されていた。その額は合わせて5000万円。

F氏は社長のヒロタ氏から次に買収する会社の入金状況や預金残高の確認などを繰り返し命じられていた。
「ヒロタからしたら、お金がいくらあるのかというのは、宝探しみたいな感じ。どのタイミングでお金を抜けるかというのを、明確に知りたかったのだろう」(F氏)。

いま、F氏の元には山のような督促状がきている。買収先企業の連帯保証人になっていたため、約3億円の債務を背負っているのだ。ヒロタ、カタヤマ両氏とは、連絡が取れないままだという。
仲介会社「ペアキャピタル」から「ルシアン」を紹介され、M&Aで会社を売却してしまった山口さん。「5、6回『ペアキャピタル』と会っているうちに踏ん切れた。あなたは奥さんのことで仕事を急ぎたいと言っている。私の会社は非常にスピーディーに仕事をやるから任せてほしいということで、『じゃあ頼もうか』と」(山口さん)。
「ペアキャピタル」担当者との打ち合わせには、田中哲社長も同席することがあったという。

これは、番組が独自に入手した買い手候補先リスト。「ペアキャピタル」が「センシュー科学」とマッチングさせるために作成した買い手候補の一覧表だ。
「検討中」としていた企業もあるが、大半は赤字体質の改善が難しいことを理由に、買収見送りの判断を下していた。100社近い候補が見送りの判断をする中、唯一買収に名乗りを上げたのが「ルシアン」だった。
当初山口さんは「ペアキャピタル」から、「『ルシアン』は東京駅前の八重洲の鉃鋼ビルに東京事務所を持っている、そこに信頼性がある。10社前後の会社を買い取ってうまくいっている。非常に優秀な会社」という説明を受けた。
そこで山口さんは、2022年6月16日、「センシュー科学」の全ての株を「ルシアン」に500万円で売却する契約を交わす。その条件として重要だったのが、連帯保証の解除という項目。これは、銀行からの借入金などを含めた山口さんの約3億円の債務を、「ルシアン」が引き継ぐことを意味していた。
しかし、会社を譲渡した翌日から、「ルシアン」は「センシュー科学」の資金を自社の口座へと移し替えていく。その額は、最初の月だけで2884万円。売却前、「センシュー科学」の口座には、当面の運転資金として6800万円以上の預金があったのだ。
山口さんは譲渡後も引継ぎのため会社に残っていたが、やがて資金は底をつき、今年1月に会社は倒産した。

「会社を買い取ってすぐつぶすというのは、いかにも詐欺。倒産の1カ月前から彼は電話にも出ないし、現在使われていませんというメッセージだけ。それも誘導したのは、やはり仲介業者。私は『ルシアン』より『ペアキャピタル』が憎い」。
M&Aの仲介会社「ペアキャピタル」を取材

M&Aの仲介会社「ペアキャピタル」(本社:東京・恵比寿 従業員約50人 売上高10億円)は、2020年に設立し、2年弱で上場を果たした企業だ。
社長はメガバンク出身の田中哲さん。これまで、後継者のいない会社の事業承継など、70件ほどのM&Aの仲介をしてきた。
この日、番組の取材を受けた田中社長は、山口さんのM&Aを担当した若手社員を呼んだ。
――山口さんは「ルシアン」も憎いけれども、「ペアキャピタル」はもっと憎いと言っているが。
担当者「そういうお気持ちはあるかなと思う。結果こうなってしまったところがあるので、ちょっと複雑な思いがある」
――正直なところ「あまり良くない仲介だったな」という自覚は?
田中社長「このような会社を紹介したことに関しては、本当に残念なこと」
――山口さんの連帯保証が解除されず、ルシアンに約3億円の債務が引き継がれなかったことについては?
田中社長「もちろん、我々が確認をした上でご了承いただく。(連帯保証を)仮に解除できず何かが起きた場合は、『ルシアンホールディングス』に債務の責任が遡及される。特別条項というものを記載しているので、それを履行せずに消えてしまうというのは全く想像できなかった。
詐欺師と思われないようにするから、詐欺師なんだと思う。我々をだますためにあの手この手で僕らの信用、そして山口さんの信用を勝ち得る、そういう見せ方が上手。だからこそ詐欺師なんだと思う」

番組の取材に応じた「ルシアン」のカタヤマ氏…果たして何を語るのか
そして9月下旬。行方をくらませていた「ルシアンホールディングス」幹部・カタヤマ氏が、番組の取材に応じた。
「とりあえず、あなたに会いましょうと。会うことを拒む気はない」

65歳のカタヤマ氏は、現在もビジネスで全国を飛び回っているという。「カタヤマさんは詐欺師なんですか?」との問いに、どう答えるのか――。
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記事提供元:テレ東プラス
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