情報システム担当部署には「怪談」があふれている! プロ怪談師が本当にあった危機事例を語るイベント「情シスだけが怖い話」開催!
情シスのみなさん、いつも怖い思いをさせてすみません!
ITにご利益のあるお守りがあることでも知られる東京・神田明神に隣接する神田明神ホールにて9月12日、「情シスだけが怖い話」というイベントが開かれた。主催はさまざまなクラウドセキュリティーサービスを展開しているHENNGE株式会社。
昨今、会社内のセキュリティ管理の甘さやランサムウェア攻撃による企業への脅迫など、情報システムに関する問題が大きな話題となっている。本イベントは、そんな情報システムを担当する、いわゆる「情シス」の人だけが入れるもの。情シスの人から集められた実例を基にした戦慄のエピソードを、2人の著名怪談師が語るといった内容である。
今回はそんなユニークな怪談イベントの模様をお届けする。
会場は、ITにご利益のあるお守りがあることでも知られる東京・神田明神に隣接する神田明神ホール
怪談師・伊山亮吉さんが聞いたところによると、ある企業の情シスチームの中でも最も新人だった秋本さん(仮名)はある日、本社から指示が下りたそうな。
「地方の営業所に出向いて、情報システムが適切に運用されているか定期調査をしてほしい」
その営業所とは、ITリテラシーが特に低いと噂される東北の営業所。先輩から「覚悟しとけよ」と言われた言葉が出発前に頭をよぎった。
営業所に到着すると、まず目に飛び込んできたのは床に無造作に落ちているUSBメモリ。心配になった秋本さんが所長に「これ、家に持ち帰ったりしてるんですか? データを持ち帰ったまま退職した人がいたらどうなるんですか?」と聞いたが、所長は「実際に問題が起きたらその時に考えよう」と軽く流すばかり。
その後も地獄のような場面は次々と訪れる。外回りの営業マンがバキバキに壊れた社用スマホをデスクに投げて「このスマホ、直して」と平然と言う。確認すると、スマホのパスワードは「0000」。会社のPCにはパスワードが付箋で貼り付けられており、デスクの上には個人情報が放置されていた。もし部外者が入ってきたら、一発で情報が漏洩してしまう。心配していた矢先、オフィスに見知らぬ女性がいるのを見た。
なんとその女性は顧客情報がぎっしり詰まったエクセルファイルをいじっている。誰かと尋ねると、所長の姪っ子がエクセルに詳しいので手伝わせているとのこと。完全に部外者が機密情報に触れているのだ。「姪っ子に仕事を手伝わせているのは、コスト削減のためだよ。問題が起きたらその時に考えよう」と所長は全く問題意識を持っていない。
そして姪っ子は「家に持ち帰って作業するね」と言い残して帰っていった。驚くべきことにデータはWeb上にあり、URLを入れたら誰でもいじれる無防備な状態になっていた。「細かいことはわかんないけど、何が問題なの?」と無邪気に聞く所長。秋本さんは「こいつは何もわかっていない」と心底感じたという。
営業所から戻り、この異常な状況を本社の上司に報告したが、「まあ、平気でしょう」と軽くあしらわれた。秋本さんはその瞬間、「もうこの会社はダメだ」と思ったという。その後、別の営業所で情報漏洩事件が発生したのを機に、秋本さんは転職を決意したそう。あの東北の営業所は今どうなっているのだろうか。
吉本興業所属の伊山亮吉さん。怪談コンテスト「怪談最恐戦2022」で優勝。著書に『実話奇談 異怪ノ門』(竹書房)など。
怪談師・夜馬裕さんが外資系企業で東アジアの財務統括責任者を務める男性、上田さん(仮名)から聞いた話はこうだ。
リモートワークをしていたある日突然、本社CFOの個人メールアドレスから「至急」というメッセージが届いた。「社内システムの不具合でメールが送れないため、個人アドレスから連絡をした。ビデオ会議に参加してほしい」という。指示を断るわけにはいかず、上田さんはビデオ会議に参加することにした。
会議が始まると、そこには錚々たる役員たちの姿があった。そこでCFOが言ったのは、急ぎの取引があり、各支部から300万ドルを指定の口座に振り込んでくれという指示。直属の支部長や上司には内緒にするように言われ、取引内容の説明を求めても却下され、失敗すれば大きな責任を負うというプレッシャーだけが強調された。周囲の役員たちは次々に了承し、振込作業を始めた。上田さんも「やるしかない」と思い、振込作業に取り掛かった。
その瞬間、上田さんのデスクの上に、棚に飾っていた女の子の人形が落ちてきた。人形が当たって資料が散乱すると、その中にはあのCFOがインタビューを受けている雑誌が混ざっていた。人形はまるで手を伸ばすように、雑誌のある一点を指していた。そこには、CFOがベジタリアンだというインタビューが載っていた。
「もしかして...?」上田さんは振込作業を中断し、CFOに話しかける。
「すみません、振込作業に時間がかかっておりまして。ところでCFO、美食家なんですね。今度、日本に来た時は、お肉やお魚が美味しい、鉄板焼きのお店に連れて行きますよ」と言ってみた。すると、CFOは表情を変えずに「ありがとう、その時はフィレ肉を頼むよ」と返答した。ベジタリアンなのにフィレ肉? 違和感が確信に変わり、上田さんが「やはり支部長に確認を取りたい」と伝えた瞬間、ビデオ会議が途絶えた。
急いで支部長に連絡を取ると、驚愕の事実が判明。CFOとの会議は全てディープフェイクによって生成された映像だった。調査の結果、支部長のパソコンがマルウェアに感染しており、本社とのやり取りが3ヶ月間モニタリングされていたという。偽装メールとディープフェイク映像で、会社の資金を騙し取ろうとする詐欺だったのだ。
あの時もし人形が落ちてこなかったら、騙されていたかもしれない。まるでその人形が上田さんを守ってくれたような気がしたという。
怪談師で作家の夜馬裕さん。「第7回『幽』怪談実話コンテスト」優秀賞受賞、「怪談最恐戦2020」優勝。『厭談夜話』(小学館)の漫画原作者としても活躍。
怪談師・伊山さんが聞いた別の話。小田さん(仮名)は、部長のA子と2人で、食品メーカーの情シス担当として働いていた。そんなある日、小田さんの会社の社長がライバル社に高待遇で転職した。そしてそれ以降、卸売業者からの買い付けをライバル社が先取りし、小田さんの会社から仕入れができなくなってしまっていた。どうやら内部の情報がリークされている可能性が高いという。
A子部長は小田さんに、極秘で内部リークの犯人を突き止める任務を命じた。空調の効いた寒いサーバールームにこもり、元社長や社員のログを調べ続ける日々が始まった。しかし、いくら調べても怪しい情報は出てこない。5日間徹底的に調査しても手がかりはゼロ。結果をA子部長に報告すると、彼女は「頑張ってくれたね。もういいから」と優しく声をかけてくれたという。
けれども、小田さんは諦めたくなかった。何かが引っかかっていた。全社員のログを調べることを決意し、徹底的に調査を続けた。そうして膨大な「機密」とついたファイルを何万件も調べていく中であることに気付く。A子部長のログが全くないのだ。これが怪しい。
この疑念を確かめるためにさらに調査を進めたかった小田さんだったが、12連勤の疲れから体調を崩し、医師の指示で2週間の休養を取ることになった。A子部長は「本当に頑張ってくれたね」と優しく声をかけてくれた。しかし、小田さんの体調は予想よりも早く回復したため、1週間で復職することにした。
復職後、誰にも会わないようにサーバールームに直行し、再びA子部長のログを探り始めた小田さん。そして、小田さんが休んでいる間に、A子部長が社内の機密情報をダウンロードし、個人のクラウドサービスにアップロードしていた形跡が見つかった。やはり黒幕は彼女だった。小田さんはこの情報を取締役に報告し、ライバル社に転職をした元社長は逮捕、A子部長は解雇された。
この功績を評価され、小田さんは部長に昇進することが決まった。人事部長から「部長昇進おめでとう」と祝福の言葉を受けたが、その後に続けてこう言われた。「でもね、危なかったよ。もし君が1週間で戻ってこなかったら、君自身を徹底的に調査する予定だったんだ。なぜなら、A子さんがずっとサーバールームにこもっている君のことを怪しいと言っていたからさ」
実はA子部長と転職した元社長は愛人関係にあり、情報をリークしていたのだったという。一連の騒動で人間不信になっていた小田さんのもとに、ある日、一通の封筒が届く。差出人はあのライバル会社から。中には、ヘッドハンティングのオファーが書かれた手紙がそっと挟まっていたのだった。
怪談を聞いた情シスのみなさんは、恐怖と同時に「あるある」も感じたのではないでしょうか...。
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実話に基づいた「ケーススタディ怪談」はいかがだっただろうか。イベントではこの他にも背筋も凍るような怪談が披露されたり、パネルで展示されたり、フォトスポットが設置されたりと情シスの皆様に大盛況。また「情シスの人だけの懇親会」も行われ、「情シスあるある」が語り交わされた。みなさんも、あまり情シスの人たちを怒らせないようにしましょうね。本当に恐ろしいことが起きますよ...。
取材・文/ゆん 撮影/山添 太
記事提供元:週プレNEWS
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