アメリカ・イラン戦争の終わり方次第で、中東の原油は日本に一滴も入ってこなくなる!?
イチオシスト

イランのホルムズ海峡封鎖で、トランプ米大統領は困っている(写真:ロイター=共同)
米・イスラエル軍による"斬首作戦"で始まったイラン・アメリカ戦争。イランによってホルムズ海峡が封鎖され、世界中で大きな影響が出ている。
中でも深刻なのが原油だ。特に日本の原油の9割以上は中東に依存している。しかし、終戦したとしても日本は今後、中東から原油を輸入することができなくなる、と専門家は危惧する。
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イラン・アメリカ戦争は短期決戦では終わらず、1ヵ月が経過した。週刊プレイボーイでは、『イラン・アメリカ戦争の行きつく先は超長期戦か、それとも核か』と最悪のシナリオの可能性まで分析。その記事で、地政学、戦略学者の多摩大学大学院客員教授の奥山真司氏はイランの戦略をこう語った。
「イランは長期戦に持ち込み、地上侵攻ができない米国とイスラエルを消耗させるでしょう」(奥山氏)
となると、戦争は長期戦だ。また、国際政治アナリストの菅原出氏は核の可能性を示唆していたが、その分析に変化が生じたという。
「考えたのですが、米軍が核を落としてもイランの体制は潰せませんし、何の解決策にもなりません。広大なイランで内陸の山間部の地下に隠れている連中に対して、米国が核兵器を何発も落としてもムダな可能性があります」(菅原氏)
イランは去年の12日間戦争の後に、変化したのだ。
「イランは、新戦略『モザイク防衛』を実施しています。これは分散型アプローチであり、指揮官が上級司令部から孤立した場合でも戦闘を継続する自律性を認めています」(菅原氏)
つまり、上層部が爆撃で木っ端微塵になったとて、相互ネットワークが機能し、自律反撃を個々に開始するのだ。実際にその成果は発揮されている。
「イラン当局は昨年10月、新たな攻撃への対応が従来とは大きく異なることを世界に警告し始めました。アラブ当局の人間によれば、その後外交ルートを通じて近隣諸国に非公式に『戦闘再開時には真っ先に攻撃対象になる』と伝えました。
新戦略では、テヘランは地域全体に紛争をエスカレートさせ、特にアラブ湾岸諸国を標的にし、世界経済を阻害することでトランプ大統領が紛争を長期化させたり、将来再び介入したりする意欲を削ぐことを狙うように設計しています」(菅原氏)
まさに今、その通りになっている。
イランは数日に一度、残っている弾道ミサイルを一発でも中東のどこかに発射し、無人攻撃機を数機発射して自爆。それによってイランは継戦できる。
奥山氏は米国の戦略をこう語る。
「大失敗ですよ。ベトナム戦争化しています。米国ができるのは、中東から手を引くことだけじゃないでしょうか」(奥山氏)
「勝った勝った、また勝った。だから戦争は終わりだ」。トランプにはこの手がある。野球の振り逃げならぬ、勝ち逃げだ。ただ、菅原氏はその先の展開に関してこう話す。
「トランプの勝ち逃げの場合、アラブ諸国にある米軍基地を全てを失うでしょう。おそらく、中国がアラブとイランの仲を取り持ち、中東の石油を独り占めします」(菅原氏)
米国の敗戦だ。
「さらに、イランは核開発に邁進し、核兵器を持ちます」(菅原氏)
そうなれば、サウジはパキスタンから核兵器を超高額で購入し、ペルシャ湾は核戦争の危機で睨み合うことになる。米軍が今、引き上げれば、大きな傷痕が残るのだ。
「米国は戦略なく始めてしまった戦争の出口を簡単に見つけることはできません」(菅原氏)
果たして米国の出口戦略はどうなっているのか――奥山氏と菅原氏に引き続き聞いた。
【奥山氏が考察するイラン戦争】――このイラン戦争、米軍の出口戦略はどうなるんですか?
奥山 今は全く見えませんが、この戦争に類比する戦争がかつてありました。それが第一次世界大戦勃発後に起きた、1915年のガリポリの戦いです。
――どんな戦争だったんですか?
奥山 英仏、そして、当時は「アンザック」と呼ばれた豪・ニュージーランドの合同軍事組織の初めての対外戦争でした。
舞台はオスマン・トルコが支配していたダーダネルス海峡。当時のこの海峡は黒海北岸の今のウクライナから産出する小麦をヨーロッパ各地に出すために重要な海峡でした。そのロシアから送られる戦略物資で、英仏、カナダ、そして最終的に200万人以上米国から派遣された兵の腹を満たさないとなりませんでした。今ではホルムズ海峡から全世界に出る油が戦略物資となっていますよね。
――はい。今の戦闘機、戦車、空母を動かすのは油です。当時の主力兵器は兵隊。その腹を満たす小麦が、油と同じ戦略物資でした。その小麦はロシアの穀倉地帯で大量に生産されて、黒海からダーダネルス海峡を経由して地中海に出る。このダーダネルス海峡は、まさに20世紀初頭のホルムズ海峡というわけですね。
奥山 はい。そして、その海峡のあるトルコは最初は英国に付こうとしましたが、英国がトルコ向けに建造する戦艦を渡す渡さないで揉めて、結局ドイツに付きました。さらにトルコは『ロシア産小麦を英仏、連合国側には渡さない!』とダーダネルス海峡を封鎖したのです。
――イランが封鎖したホルムズ海峡と同じです!
奥山 はい。すると、眼前の大陸の西部戦線が膠着しているので、トルコを攻撃すれば遺体制転換までできるかもしれない、と英国が決意しました。
――米国・イスラエルがイラン・イスラム体制の崩壊を狙ったのと同じではないですか!
奥山 「大英帝国には偉大なるロイヤルネイビーの宝があるではないか。海峡に大英帝国海軍の誇るドレッドノート型戦艦を突入させ、12インチ巨砲10門を一斉射撃すれば、トルコは立ちいかなくなる。余裕ではないか」。そう英国は考えたわけです。
――爆弾や長距離ミサイルを撃ち込めば、イランは即効レジームチェンジだと。トランプも同じ発想です。
奥山 そこでトルコは、狭いダーダネルス海峡に機雷を敷設し、陸からの砲撃で反撃しました。となると英仏は上陸するしかないわけです。これ、どこかで聞いた話ですよね?
――はい。イラン、米国とまったく同じ流れです。
奥山 結局、ガリポリの戦いでは、トルコが耐え抜き、8ヵ月後に英仏軍らは敗退しました。
――全死傷者数が約25万人と言われています。
奥山 トランプは『必要ならいくらでもやる』と言っています。しかし、米軍の実行部隊だけを見ると、基本的に上陸はほぼ既定路線だと僕は思います。問題は上陸した後。ガリポリの戦いが始まってしまうんじゃないかと危惧しています。
――米軍のこの戦争での出口戦略が見えないのはなぜですか?
奥山 出口戦略と言いますが、この戦争はトランプ大統領のコントロールからすでに外れています。トランプが止めると言ったところでイランは封鎖を続けますし、一番やりたがっているのはイスラエル、そしてサウジアラビアです。
――そして米軍はマシーンとして上陸しようとしている。
奥山 僕は「ミッションクリープ」だと思っています。
――それはなんですか?
奥山 例えば、英国が地中海を狙うとします。まず、入り口のジブラルタル海峡を獲りました。しかし、地中海の奥がヤバいとマルタ島、キプロス島を確保。さらにシリア近辺を獲ると、エジプトと敵対することになる。そして、エジプトの入り口を抑えたら、ナイル川の上流からヤバいのが来ると、ナイル川を遡って、とうとうケニアまで獲った。
こうしてミッションがどんどん拡大していき止まらない状態。それが「ミッションクリーピング」です。
――相撲の押し出しが、軍事任務で永遠に続く。米軍がペルシャ湾の島々だけに上陸する予定が、ホルムズ海峡の北岸のイラン本土に上陸してさらにどんどんと北上し、首都テヘランまで進軍すると?
奥山 そこまでいくかわかりませんが、泥沼の可能性はあります。
――このイラン戦争の構造は?
奥山 ベトナム戦争の教訓でいい言葉があります。パリ和平協定の後の1974年にベトナムのハノイでの交渉時に、米軍のハリー・サマーズが北ベトナムの大佐に言われた言葉です。
サマーズ「北ベトナムは戦場では我々に一度も勝てていませんよね」
大佐「その通りかもしれないが、それは戦争には無関係だ」
今回のイランもこれと同じではないでしょうか。
米国は軍事の戦術的にはいい所までいっています。米軍の戦術ではAIを駆使して全て統合し鮮やかです。でも、戦略が明文化されていません。だから、トランプ大統領からストラテジー、出口戦略は見えてこないんです。
【この戦争の行方は?】――この戦争に引き分けならぬ「勝ち分け」はないんですか?
奥山 ひとつのやり方として本当にスマートだと思いますが、どこで線を引くか、です。
――イランからすればすさまじい爆撃を受けたが、ホルムズ海峡を封鎖して我々は米国を遠ざけたので勝った、とするのはどうですか?
奥山 アリだと思います。それは同時に米国が「航行の自由」というシーパワーの権威を落とすことになります。それでも米国としては、「ホルムズ海峡の航行の自由があり、どこの船も安全に通過航行ができるようになった」と言い訳すればなんとかなる。しかし、自分がホルムズ海峡という世界のチョークポイントをコントロールできないとなると、シーパワーの雄としての役割は実質的に失われます。
そうなると、米国はいわゆる"世界帝国"ではなくなります。すると今度は中国が力をつけてくるので、その位置を狙ってきます。「それでは今後、私たち中国がホルムズ海峡の保証をやります」となれば、米国の覇権は終了です。
――そうなった時、中東から日本には一滴も原油が入らなくなる?
奥山 その可能性はあります。
――では、日本にはどんな戦略がありますか?
奥山 場当たり的に動くしかありません。出口が見えませんから、日本はどこかがなにかを言ったらまずは米国の出方をうかがい、隙あらば石油を何とか回してもらう。そして、その合間に選択肢を多く持って色んな方面と交渉し、原油をとにかく持ってくる。それしかないと思いますね。
【菅原氏が考察するイラン戦争】
昨年10月の日米会談の時、世界は平和だった。しかし、今、地球は油不足で滅亡の危機に瀕している(写真:共同)
菅原 今、ホワイトハウスでは、この戦争に勝ったと言えるようなロジックを何とか考えようとしている感じです。
イランは完全に米国の足元を見ているから、引かない。米国はよりよいボールを投げ、それでも行き詰った時にさらなるエスカレーションができるように米軍を増派しています。
そして今、ホルムズ海峡では米軍のアパッチ攻撃ヘリとA10攻撃機が、イランの高速艇をバンバン撃っています。さらに、イランは沿岸部にトンネルを作って、そこから出撃できるようにしているので、米軍はバンカーバスターで空爆して潰しています。
米国は、タンカーに米海軍の護衛をつけて移動できるくらいまで、なんとか危険度を下げることを目標にしているのです。
――ホルムズ海峡北岸のイラン領の地下には、ガザ地区もぶっ飛ぶような地下トンネル網がすでに作られているのですか?
菅原 何十年も前からイランは作っていますよ。あの狭いガザ地区でさえ、イスラエル軍は2年かかっています。
――どうするのですか?
菅原 さらに圧力をかけようというアイディアしか、トランプには浮かばないはずです。
だから、ホルムズ海峡での海上攻撃や北岸空爆でダメならば、イランが石油を積み出す島のカーグ島、さらにホルムズ海峡北部にあるイラン最大の軍事拠点・ゲセム島を海兵隊と空挺部隊で制圧しようとしています。
それが成功すれば、イランは湾岸諸国のエネルギー施設を徹底的に弾道ミサイルと無人攻撃機で破壊します。すると米軍はそれを止めるために次の攻撃へ。その繰り返しとなりますが、向こう一ヵ月以上は続けられないと思います。
――するとその先に、トランプのこの戦争の出口戦略が?
菅原 これまでは見えなかった。しかし、それが見えてきました。
トランプにとって大切なのは、原油の先物価格と株価。そして、要(かなめ)となるのは米国での中間選挙です。3月25日の報道によると、36%まで支持率が下がっています。これは経済で盛り返すぐらいしか手立てがない。ベネズエラ、イランが短期決戦で終わっていれば、プラスになる計算だったはずです。ただ今回、出口が見えてきたわけですよ。
――どんな出口ですか?
菅原 要するに、トランプが諦めて戦争を止めてしまう出口が極めて濃厚になってきた。
そして、その後の中東はペルシャ帝国が復活して、これまでよりも不安定な中東になってしまうでしょう。
――米国はどうなるんですか?
菅原 米国とイスラエルは降参して、ホルムズ海峡はイランにあげて引くか、もう一発エスカレーションを起こし「これで許してやる」と......。いずれにしても米国はイランには勝てません。
――トランプが諦めた場合の戦後は?
菅原 イランには今より強硬な政権が出来て、ホルムズ海峡の支配を譲りません。そして、海峡通行税を取り、パナマ運河のようにします。
今回の戦争で米国は、「実はホルムズ海峡にはこういう運用方法があるよ」と教えてしまったようなものです。イランは石油を生産しなくても、海峡通行税だけでやっていけます。

米国は今回の戦争で、ホルムズ海峡を便利なパナマ運河にする方法をイランに伝授した(写真:ロイター=共同)
――イラン以外の中東はどうするんですか?
菅原 アラブ諸国としては、自分たちにとって死活的に重要なエネルギーを出す出口をイランに抑えられて、高い通行税を払わないとエネルギーを輸出できない状況になってしまいます。
米国はホルムズ海峡を通さず、石油を確保しているから別にいいかもしれませんが、「それは勘弁してくれ。イランのホルムズ海峡封鎖能力をきちんと削いでから戦争を止めてくれ」と焦っているでしょうね。
――イランは海峡封鎖能力を持った状況で、次は何を仕掛けるんでしょうか?
菅原 「米軍基地を置かなければ、君たちアラブ諸国の安全は確保してあげる。そんな基地があるから狙われる。米軍は助けてくれないし、米軍基地がある国は当然、海峡通行料は高くなるし、税金も100%上乗せします。それでいいんですか?」と、そのように交渉してきます。
アラブ諸国はそれがわかっているから、このまま戦争が終わることを恐れているんです。
――日本もそう言いたいですよ。
菅原 3月20日に発表した米国の軍事目標には、ホルムズ海峡の安全は含まれていません。「そこは自分たちでやれよ」と言っています。
日本はこんな状況で海自護衛艦を出すならば、イランに金を払って安全航行を、となるでしょうね。そしてイランは、米国の同盟国である日本のその航行実績を作ろうとしていますよ。
――日本は平和憲法第9条に基づいて、そうしますね。
菅原 だから、この状態で米国が戦争を終わらせた場合、その後の東アジアでのインパクトが大きいんですよ。「米国は最強の同盟国・イスラエルの支援がありながら、あんな弱いイランに対してこんな様なのか?」と。「だったら中国相手にどうやるの?」と、当然東アジア諸国は思いますよね。
――台湾海峡を通過する日本のタンカーに対して、超高額な通行税を中国に払わないと通さない、と言ってきますね。
菅原 中国は当然、イランの行動を見ながら考えます。さらに、イエメンのフーシ派が紅海の出口、バブエルマンデブ海峡を通過するタンカーから通行税を取るようになりますね。
――中東からの石油輸入は終了ですね。
菅原 イスラエルのネタニヤフ首相は、以前からサウジにこう言っています。「イスラエルにパイプラインを引きなよ。それで地中海に出せばいいじゃない。我々が守ってあげるから」とね。
――そのパイプラインはいつ作られるかわかりません。今の戦況から、トランプの大逆転はないんでしょうか?
菅原 ないんですよ。米軍が中東から退けば、その状況を見て中国がどう入って来るかということですね。

米国がこのままイランから手を引けば、中国の影響がさらに大きくなるはずだ(写真:共同)
――まさに漁夫の利。中国はイランとの良好な関係を武器にして、「米国はもう頼りにならないから、イランとツーカーの中国に付いたらどうだ?」とペルシャ湾南岸諸国を一本釣りにしていくのでは?
菅原 中国は多分、そういう仲介の方向性でタイミングを見て入っていく可能性はありますね。
――日本企業は中国で開催される経済会議にもお呼ばれしなくなりました。中国主導の中東仲良し産油グループから、原油を輸出してもらうことはできませんかね?
菅原 無理でしょうね。日本はその仲良しグループに入れませんね。
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このイラン戦争の行方次第では、日本に中東からの原油は一滴も入らなくなる可能性が高そうだ。
取材・文/小峯隆生
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