スター選手創出、魅力ある大会作り、ツアーの未来像… 男子ゴルフ改革に名乗りを上げたNSSK・津坂純社長の想い【独占インタビュー】
イチオシスト
国内男子ツアーの大改革が動き出す。国内男子ツアーを管理・統括する「日本ゴルフツアー機構」(以下、JGTO)は日系投資ファンドの日本産業推進機構(NSSK)の支援を受けて、ツアー運営および事業展開を担う営利団体「株式会社ジャパン・プロゴルフツアー」(以下、J-Tour)を設立した。2027年から本格始動となるが、NSSKの代表取締役社長の津坂純氏の狙いや想いを聞いた。
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■今の日本男子は全員が”知られていないスター”
J-Tourが本格稼働するのは2027年から。NSSKは5年から10年の期間で、150~200億円を投じて仕組みや構造改革を行って国内男子ツアーの価値を高める。期限を決めることなく「恒久の仕事だと思っている」と持続的な成長も一つの目標に掲げた。
国内では、投資ファンドがスポーツ団体を運営するのは珍しい。「これはビジネスですから。それに見合う売り上げがなく、全部赤字だと成り立たない。赤字経営をずっと続けていたら持続性がないんです。それを避けるための大きな動きが必要です。よく、『大丈夫ですか、津坂さん?』って言われるけど、私は『絶対、大丈夫』と。熱意ですよ。日本男子は魅力的な選手たちですから」。熱い気持ちで日本男子ゴルフ界の改革に着手する。
「魅力的な選手たち」の代表格として思い浮かぶのは、世界的なスーパースター、タイガー・ウッズ(米国)だ。国内男子ツアーでは、1980~90年代にゴルフブームをけん引し、「AON時代」と呼ばれた故・尾崎将司さん、青木功、中嶋常幸が挙げられる。近年では石川遼や松山英樹の存在も大きい。
人気低迷が叫ばれる昨今の国内男子ツアーは、「スター不在」と言われ続けてきた。最近は松山のように世界最高峰の米PGAツアーで戦う志を持つ選手が多い。石川も今季は米下部ツアーを主戦場とし、昨季賞金王の金子駆大も欧州ツアーに羽ばたいた。中島啓太や星野陸也、久常涼、金谷拓実と日本で活躍した選手は、ことごとく海外ツアーに目を向けて国内にとどまる選手は少ない。
ツアーを盛り上げるためには、スターの存在は不可欠。新会社設立記者会見では「スターは作ることが目的ではなく、スターは結果です」と話した。その真意を聞くと「私ははじめから全員がスターだと思っています。我々にはできないプレーをしますから。全員が“知られていないスター”。そのトップはスーパースターですよね。どうやってこの知名度、人気度を上げるかっていうと、やっぱり露出ですよね」
■各選手のストーリーを見せる露出が不可欠
米PGAツアーも低迷期はあったが、ウッズの出現で状況は一変した。「タイガー・ウッズ(の出現)は奇跡みたいなものじゃないですか。それをずっと待っていてもダメ。人が見たいものにするために、何をしなければならないのか。それはゴルファーひとりひとりのドラマを見せることです」。超がつくスーパースターを待つのではなく、こちらから仕掛けていく。
J-Tourが掲げる施策の大きな柱の一つがメディアセンターの設立だ。最新の技術やツールを使い、様々な手法で各選手の “ストーリー”や“ドラマ”をコンテンツ化して露出する。「誰も知らないスターが、知られるスターになっていきます。その中でどんどん勝っていく人たちがスーパースターになっていくわけですよね。私自身がメディアセンターを担当したいんですよ」。
ツアー側から選手の魅力を発信することが大きな役割とする。倉本昌弘JGTO副会長は「デジタル化やエンターテインメントなどが多様化する現代において、今の男子ツアーは現状維持にとどまっています。このままではいけないという危機感を抱いておりました。ファンの皆様との距離が開き、熱狂を広く社会へ届けるための推進力が不足しているということを、我々感じております」と大きな課題としていた部分でもある。
津坂氏は選手のドラマを見せるために、私案を含めて多くのアイデアを持っている。資金を投じて今までにできなかったPR業務ともいえる、選手の存在を知らせることから始めるという。
■愛される選手になるための教育や研修も
改革の主役は誰なのか。「当然選手です」。J-Tourは選手の意識改革もうながす。「ファンやスポンサーのエンゲージメントの新しい形を我々や提案します。教育、研修、接し方。スポンサー相手にどういう会話をしなきゃいけないとか、会社の知識とか全部ブリーフィングします。最終的には彼らのためですからね」。ファンやスポンサーに愛される“選手育成”も同時に行っていく。
ツアーを盛り上げていくためにはファンとスポンサーの獲得が何より大事。「人が見たくなるような選手」とともに、ファンやスポンサーも満足できる大会の在り方にも改革を求める。
■ゴルフトーナメントは地域を代表するイベントへ
津坂氏の中に一つのモデルがある。1907年に第1回大会が開催された伝統のある「ニュージーランドオープン」だ。アジアンツアーと豪州ツアーの共催大会で、今年も2月に開催された。毎年JGTO枠として20名ほどの日本人選手も出場している。試合はプロアマ形式で行われ、予選は2コースを使うため、プロもアマも参加人数を増やせる。年々大会の規模は大きくなり、今年は賞金総額200万ニュージーランドドル(約1憶8500万円)がかけられた。優勝者には海外メジャー「全英オープン」の出場権も付与。近い将来は予選を3コースにして、さらに参加者を増やす計画もある。
会場の雰囲気も日本のトーナメントとは様子が違う。18番ホールはパー3で、グリーン周りはスタンドやホスピタリティテントで囲われ、グリーンサイドにはDJブースもあり、思わず体を動かしたくなるような音楽が流れている。ギャラリーはドリンクを片手に音楽を聴きながら、選手のプレーに熱狂する。それでも、決して全員がゴルフを見に来ているわけではなく、子どもの姿も多い。アマチュアとして出場した経験もある津坂氏も、お祭りのような雰囲気を肌で感じている。
「あの大会は毎年、スポンサーやファンみんなが『来年戻りたいね』っていうんです。ゴルフを見に来ている人ばかりじゃくて、地域を代表するイベントになっています。地域活性化は我々の大事な目標です。本当にあれ(ニュージーランドOP)で見えました。たぶんスポンサーのみなさんはもっと値上げしても払うと思うんです。プロアマの参加費は値上げしたようですが、みんな喜んで(払った)。大会を支えるという意味合いもありますよね。だから日本もまだまだいけると思います。ゴルフ好き、スポーツ好きは多いじゃないですか」
全国各地で行われるのがゴルフツアー。各地の大会が年に一度の地域のお祭り的な存在に育てていく考えだ。ゴルフ好きは日本全国に数多く存在する。「サポートする機会をつくるメニューも必要になってくるんです」。金額の大小を問わず、大会と地域の結びつきを強めるとともに、売り上げの最大化も目指す。
■「日本でやりたい」と選手に思われるツアー価値向上
経営のプロたちによるさまざまな改革によって、日本男子ツアーは生まれ変わろうとしている。現時点では賞金額やワールドランキングポイントなど、多くの面で欧米ツアーに見劣りするのが実情だ。そのため有力選手の多くは世界を目指す。
「選手は賞金のあるところに行けるし、出場資格のあるところに行く。我々(JGTO)はそれをサポートしてあげる。よりよい選手たちが行ける場所をつくってあげるのが我々の使命なんです」(倉本副会長)。世界とのつながりを築くことも重要な役割となる。
日本から世界への道を閉ざさないことも、大きな仕事のひとつだ。日本ツアーの選手がメジャーで活躍すれば、ワールドランキングにおけるツアーの基礎点を押し上げることにもつながる。JGTOにとって、世界に挑戦する選手を支えることもまた使命である。
津坂氏の描く未来像は、そのさらに先にある。「日本のツアーが魅力的でなければ、優秀な人はみんな海外に行きます。だけど逆に日本のツアーが魅力的になったら、みんなが戻ってくるってことですよね。本当の狙いです。『日本でやった方が儲かる』、『日本の方がやりがいがある』と思ってもらえるように。海外の選手も含めて」。目指すのは、欧米ツアーに引けを取らない価値を備えたツアーだ。
「赤字をいとわなければ、賞金はいくらでも上げられます。でも、それは意味がないのです。利益があって、選手のセカンドキャリアとか、いろんなステークホルダーのみなさんの人生を良くするという面もある。裏方の方々とか働いている方がいっぱいいる。ツアーを支えている人たち全体のことを考えて企画しないといけない。赤字では意味がないのです」
ツアーが利益を生むことで、選手だけでなく関係者や大会運営に携わる多くの人々にも還元できる。そうした視点を重視するのも、新体制の特徴といえる。10年後、15年後、あるいはさらに先かもしれない。その到達点に向けた第一歩となるのが2027年だ
■ツアーの冠スポンサー「みずほフィナンシャルグループ」も追い風
同年から『みずほフィナンシャルグループ』がツアーのタイトルスポンサーに着くことも正式に発表された。日本を代表する企業のサポートについて、「本当に信じられなくて泣いていたんですよ。みずほさんのリソースもフル活用させていただきます」と強力なパートナーを得て改革を進める。
試合数の増加も見込まれる一方で、異常気象による開催時期の問題や選手の負担を踏まえると、年間30試合は多いのではないかという議論もあるという。そのため今後は「適正な試合数の見極め」も進めていく。また、スポーツビジネスで欠かせない主催権や放映権についても、ツアー全体を見渡せば長い歴史を持つ既存大会も多く、検討すべき課題は少なくない。
1973年にツアー制度が施行されてから、50年以上が経過した。岐路に立たされていた国内男子ツアーが、これからどう生まれ変わるのか。諸星裕JGTO会長は「本当に何がどれぐらいドラスティックに変わるのか、楽しみでしょうがない。すごいことだと思います。日本の男子ゴルフを確実に変えることに寄与するとか、なくてはならないような改革をするつもりでございます。きわめて慎重にかつ大胆に」と既存の主催もケアしながら、改革を進める。
「絶対、大丈夫」。そう力強く語った津坂氏に、国内男子ツアーの命運が託された。(文・小高拓)
<ゴルフ情報ALBA Net>
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