「安さだけ」とは言わせない!“しまむら”イメージ激変の商品改革:読んで分かる「カンブリア宮殿」
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イチオシスト:イチオシ編集部 旬ニュース担当
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「安さだけ」とは言わせない!~イメージ激変の商品改革
埼玉・さいたま市の大河内さんはしまむらのファン。しまむらのアイテムを多く持っており、ベージュの「コクーンパンツ」は2189円で購入。「ジャンパースカート」は2420円だった。「しまむらの洋服は『出会い』。週に1、2回、自分に似合う服を探しに行きます」と言う。
大河内さんのように、掘り出し物を求めて店をパトロールすることを「しまパト」、それを毎週欠かさないファンは「しまラー」と呼ばれている。
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服だけではない。ヒンヤリ感触のベッドパッドなど、生活にしまむらが溶け込んでいる。
「『え、しまむら?』と、あまりいいイメージではなかったのですが、でもここ数年でとても変わって、良いものがそろっているのは確かだと思います」(大河内さん)
さいたま市のしまむら三室店。女子中学生が手にした背中に薄い花柄が入ったTシャツは1000円ほど。「Tシャツを探すときは宝探しっぽい感じ」と言う。しまむらでは同じ柄の商品は店に一点だけ。色違いやサイズ違いの商品はあるが、基本は1点もので、売れてしまったらすぐには手に入らない。だから宝探し感覚になるのだという。
しまむらの商品の1点あたりの平均単価は959円(税抜き)と、2013年の791円からこの10年で200円近く上がっている。一方、売り上げは2017年度から落ち込み、その後はV字回復。しまむらは値段を上げながら客を呼び込んできた。
しまむらは何を変えたのか。
年代別ブランドを開発~真剣勝負の舞台裏
しまむらはオリジナル商品を展開し、客をつかんでいる。
30~40代向けのオリジナルブランド「シーズンリーズン」は「飾らない自然体の服」というコンセプトで作られている。30代向けのファッション誌「InRed」「リンネル」と共同開発。「できれば体型を隠したい。ほどよくおしゃれでほどよくラフ」「ナチュラルな感じが好き。合わせやすそう」と、女性客の支持を掴んだ。
他にもさまざまなターゲットを設定し17のオリジナルブランドを展開している。
「昔と今では全く違います。おしゃれをしたい人でもしまむらを使える。ダサさがないところが変わったところだと思います」(前出・大河内さん)
毎週火曜日、さいたま市のしまむら本社に集まる人たちのスーツケースには大量の服が入っている。集まったのは、商品を売り込みにきたサプライヤーと呼ばれるメーカーや商社の担当者。
しまむらは自社製造せず、600社に上るサプライヤーから商品を買い付けている。
商談が始まった。担当するのはチーフバイヤーの古瀬恵。売れ行きの良かったスポーツブラの追加発注を依頼。
「7万4500枚、お願いします」と大量発注したが、「ちょっと安くなったりしませんか? 5%ぐらい」と、つけ加える。「検討させてください」と、サプライヤーも苦笑いだ。
全国に1400店舗以上あるので大量発注になる。さらに「返品はしない」というルールを設け、その分、安さをシビアに求める。
「サプライヤーさんも利益あっての商売。そういう信頼関係があるからこそ、安く早く提供してもらえる体制が整っていると思います」(古瀬)
こんな関係を生かした商品の品質を上げる取り組みもある。オリジナルブランド「シーズンリーズン」の新商品商談会に、取引のある約600社の中から30社のサプライヤーが選ばれ、サンプルを持ち寄った。オリジナルブランドは複数のサプライヤーに競争させる形で作っている。
今回はパンツやスカートに合うトップスを合計6点を選ぶ。そのために500以上のサンプルが用意された。サプライヤーからは「こんなに大々的にやるのはこのブランドだけなので緊張します」「他のサプライヤーからも提案があるので、選ばれるかどうかドキドキします」との声が。採用されれば1商品につき約1万着の発注がくる。サプライヤーにとっては大勝負だ。
商品を選ぶのはバイヤー歴7年のチーフバイヤー・長谷川大樹。「これはあり」という商品を多めにとっていき、選んだ服は合計20着。こうしてサプライヤーに競わせることで、より質の高いブランドにしていく戦略だ。
「トップスは『クロスプラスさん』、ワンピースは『皿海衣料』さん……」と、最終的に6着が選ばれた。
採用されたサプライヤーは「この場で選んでいただくのでここにかけるしかない。選ばれて良かったです」(「皿海衣料」・稲山晶美さん)と胸をなでおろした。
「この色が売れている、このテクニックが売れている、このサイズが売れているということを分析してサプライヤーさんが提案を持ってきてくれるので、しまむらでしか展開できない、しまむらでしか買えないブランドに価値を感じてもらいたい」(長谷川)
ファン急増の高機能PB~毎年改良、目指すは「究極」
プライベートブランドの「超COOL 汚れにくい!!ひんやり持続ラグ」(6270円)は、ヒンヤリ感触だけでなく、抗菌防臭などの機能もつく。
オリジナルの日傘も遮光、遮熱など機能性が高い。しまむらはこうした高機能なプライベートブランドの商品を次々と投入している。
その中でも隠れた人気商品となっているのがスリッパ。「FIBER DRY さらっとドライスリッパ」(539円)のシリーズは、今年だけですでに150万足以上が売れた。旭化成が開発した特殊なメッシュが抜群の通気性を生み、ウレタン入りでクッション性も高い。
しまむら社長・鈴木誠(59)は「しまむらの強みの基本は商品力です。いかにいいものを作ってお客様に来ていただくか。これは商売の王道中の王道。これを見直していくことが一番重要だと思います」と言う。
商品力をどうやって磨くのか。スリッパのリニューアル現場にカメラが入った。検討していたのは履き心地の改善だ。
新たにクッション材を入れるというが、チーフバイヤー・東恭平は「1ミリ違うと履き心地が全然違う」と言う。しまむらのプライベートブランドは必ず毎年、改良を加えている。
スリッパは5年続けてリニューアル。裏地までメッシュ加工にして蒸れにくくしたり、メッシュの編み方を変え肌触りを向上させたりしている。
「毎年毎年、究極の履き心地だと思って展開しているのですが、履き心地の改善を継続して行い、その価値が伝わるものづくりができれば、お客様も納得していただけるかなと思っています」(東)
鈴木は商品力を強化することでしまむらをV字回復させ、過去最高の売り上げ6350億円を達成した。
「商品とはお客様が欲しいもの。お客様が欲しいものに特化したとがった商品を入れなければいけない。その中でしまむらの持ち味をアピールしていく」(鈴木)
最強アパレルチェーンの栄光と転落~反転のきっかけは意外なひと言
現在、鈴木が推し進めているのが都市部への出店だ。渋谷の商業施設「渋谷モディ」の中には期間限定の店舗をオープン。10代から20代の若い女性をターゲットに商品をそろえた。値段も若者が気軽に買える価格にした。バッグも2000円以内で手に入る。
この店舗の商品をそろえたチーフバイヤーの岩﨑伸也は、「今までしまむらに来ていなかったお客様、新しいお客様の獲得が大きな狙いです。都市部にポップアップストア(期間限定の店舗)の出店を進めて今後に生かしていければいいと思います」と言う。
今後3年で150の出店計画があるが、その中で都市部を狙っていくと言う。
しまむらのルーツは1953年に埼玉県で株式会社となった「島村呉服店」。低価格と豊富な品ぞろえで客をつかみ全国に店舗を拡大。ついには国内店舗数日本一の巨大アパレルチェーンとなった。カンブリア宮殿には2013年に登場。自前の物流拠点を持ち機械化と省人化を徹底。コストをかけない経営で成長を続けた。
だが、ネットショップの台頭などの影響を受け、2010年代の後半から売り上げは次第に低迷。3期連続の減収減益となった2020年、立て直しを託されたのが鈴木だった。
「一言で言えばどん底で崖っぷち。もうやるしかない、前に進むしかないと」(鈴木)
社長に就任した鈴木は管理職2000人を集めた会議で社員を驚かす行動に出る。「この3年間の経営方針は間違っていました。申し訳ありませんでした」と謝ったのだ。
会場はザワついた。実際にその会議に出席していた社員は「あの言葉は想像していなかったです。経営陣はこういうことを言うんだと思いました」(広告宣伝部・岡田咲希)、「これまでそういう発言をされた社長はいなかったので、面食らったというか、びっくりしました」(商品6部・池田由佳梨)と振り返る。
「謝って次に行く。これを社長としてやるのがけじめであり、反転のきっかけだったかもしれません。変えてはいけないことを元に戻す。変わらなければいけないものを変えていく。この2つをきちんとやっていこうと」(鈴木)
改革は「元に戻す」「変える」~客のワクワクで復活!
「変えてはいけないものを元に戻す」と考えた鈴木が真っ先に取り組んだのは、魅力を失っていた商品の改革だった。当時のしまむらは、利益率を上げるため、ライバル店と同じように売れ筋を重視し商品数を絞っていた。これを、宝探しのできる少量多品種に戻した。
しかも、ただラインナップを増やしただけではない。
本社にやってきた女性は、新しい戦略の鍵を握るひとりyumi.さん。フォロワー数12万人のファッション系インフルエンサーだ。
しまむらが新たに始めたのは人気インフルエンサーとのコラボ。この日は合同商談会が行われた。
「インフルエンサーさんの強みは、実際にお客様と毎日のようにインスタやXでやり取りをしてお客様の声を直に聞いていること。私たちよりも聞いている人も多いので、お客様の声を商品に反映できます」(チーフバイヤー・樋口耕平)
こうして作った商品は、客が分かるようにブランドのタグをつけて販売する。
しまむらが商品開発でタッグを組んだインフルエンサーは50人以上に上る。最新トレンドを取り込みつつインフルエンサーの発信力も利用する、一挙両得の戦略だ。
一方、鈴木が目を付けた「変えなければいけないこと」のひとつが折り込みチラシだ。
「紙の広告はだいたい4週間ぐらい前に企画して準備しますが、狙い通りいけば大当たりするけど、狙い通りいかなければ不発に終わる。広告宣伝費はコストがかかります」(鈴木)
折り込みチラシは、コストをかけた割に効果が上がらないことがままあると言う。代わりに作ることにしたのがデジタル広告だ。
梅雨明けが迫ったある日、広告宣伝部の高木康士朗が店舗で向かった先はハンディファンの売り場。ひとつを手に取るとスマホで撮影し始めた。
「実際にお客様が見ている視点で撮った動画は訴求ポイントも高く見てもらいやすいかなと」(高木)
デジタル広告はこうしたお手軽な方法で作っている。編集もあっという間で、できた映像はしまむらの公式インスタグラムにアップ。これなら宣伝したいタイミングですぐに出せるし、コストもかからない。
客が思わず買い過ぎる~「ついで買い」で売り上げアップ
しまむらには客が思わずたくさん買ってしまう秘策がある。しまむらのオンラインストアで商品を購入すると、自宅配送も可能だが、送料がかかる。しまむらでは8割以上の客が送料なしの店舗受け取りを選ぶという。
店舗受け取りなら試着も可能で、サイズや似合うかどうかも確認できる。この段階で購入をやめてもOKだ。
商品を受け取った客が、せっかく来たからと店内をブラブラし、商品を見て回る。これこそがしまむらの狙いで、オンラインストアの利用客に「ついで買い」をしてもらうのだ。実際、こうした客の平均購入額は通常の客より1200円高くなっていると言う。
オンラインと実店舗の相乗効果を図る秘策で売り上げアップに成功している。
※価格は放送時の金額です。
~村上龍の編集後記~
トランクに商品を詰めたサプライヤーの群れ。「しまむらで服を売って欲しい」というサプライヤーの群れだ。バイヤーが電卓を叩き、値の交渉をする。しまむらの売上高は6000億円を超える。そんな企業が電卓を叩いて、値の交渉をするだろうか。鈴木さんに聞くと、昔からやっていましたと言う。電卓ではなく、ソロバンでやっていたのだろう。最近はヤングカジュアルや、50代以上向けブランドが好調らしい。ブランドを買いたくて買えない女性たちが代替品として頼った。しまむらは、庶民の味方だ。そして経済を支えるのは庶民だ。
<出演者略歴>
鈴木誠(すずき・まこと)1965年、東京都生まれ。1989年、しまむら入社。2004年、物流部長就任。2011年、取締役就任。その後、物流部やシステム開発部トップとして活動し、2015年、執行役員就任。2020年、代表取締役社長就任。
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記事提供元:テレ東プラス
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