ひろゆき、篠田謙一(国立科学博物館長)に人類の歴史を学ぶ⑬「ハプスブルク家の内婚や江戸時代の大奥など、それぞれのメリット・デメリットから考える人類の未来とは?」【この件について】
イチオシスト

「グローバリズムを推し進めることは、白人にとって固有の遺伝子が減少すること」と語る篠田謙一氏
ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。分子人類学者で国立科学博物館長の篠田謙一先生をお迎えしての第13回です。
今回からテーマは「人類の未来」について。まずは、グローバリズムの末に行き着くのは、どんな未来なのか? そして、デザイナーベビーは生まれるのか?
***
ひろゆき(以下、ひろ) 今回は人類の未来についてお聞きしたいんです。今はグローバリズムが急速に進んでいますよね。一般的なイメージだと白人たちが世界を主導しているように見える。でもDNA比率でいえばアジアやアフリカ、ラテン系の人口が圧倒的に多い。そう考えると、グローバリズムが進むとイメージとは逆にこれらの集団が台頭するんじゃないかと思うんです。
篠田謙一(以下、篠田) 鋭いですね。私は以前インカ帝国の人々のDNA分析をしたことがあります。インカはもともと小さな部族で、それが200〜300年という短い期間で大帝国を築き上げました。周辺を併合したんです。ところが遺伝子の観点で見ると話は逆転します。政治的には小さな集団が大きな集団を支配したように見えても、長い時間軸で追うと支配者側の遺伝子がのみ込まれてしまった。
ひろ ん?
篠田 つまり、人口が圧倒的に違うので、支配者側がほかの集団と婚姻を繰り返すうちに遺伝子の構成が変化していくんです。
ひろ つまり、グローバリズムで白人が世界を征服したとしても時間がたつにつれてその血はどんどん薄まり、逆に白人側に現地の血が流れ込んでいくと。
篠田 そうです。移民排斥を叫ぶ人たちの中には、この遺伝的な変化を察知して、拒絶する感情があるのかもしれません。
ひろ そう考えると、グローバリズムを推し進めるということは、白人にとっては固有の遺伝子が減少していって、アジアやアフリカ、ラテン系が優勢になるわけですね。
篠田 そうです。
ひろ ちなみに「こういう遺伝子は未来も残りやすい」というのはあるんですか? 例えば、異性から選ばれやすいぶん〝美人遺伝子〟は広まりやすいとか。
篠田 そもそも「何をもって美人とするか」という問題があります。以前「縄文vs弥生」という展覧会をやったことがあるんです。縄文人は二重まぶたで彫りが深い顔立ち。対する弥生人は一重まぶたで涼しげな目元という特徴があります。このふたつのタイプを並べたポスターを日本人に見せると「縄文のコのほうがかわいい」という反応が多かったんです。ところが欧米人に見せると反応が真逆です。「アジアンビューティはこっちでしょ」と弥生タイプを推す。「なぜ縄文タイプがかわいいと思わないの?」と聞いたら、「こんな顔、世界のどこにでもいる」と言うんです。
ひろ 確かにヨーロッパでは二重まぶたは普通ですからね。
篠田 美人の感覚というのは、思った以上に文化によって異なるので、美人遺伝子もさまざまです。
ひろ 絶対的な基準があるというより、自分たちとは違うものに惹かれるという感覚なんですかね。んで、それは本能的なものなんですか? 近親者と子供をつくると遺伝的疾患が出やすくなるから、無意識に遺伝的に遠い相手を求めるとか。
篠田 ホモ・サピエンスは遺伝的な多様性を保つように子孫を残してきたようですね。世界中に拡散していく過程を追うと、ある程度離れた地域の人々と婚姻している形跡があるんです。同じ部族の中で相手を探すという行動パターンを取っていない。
ひろ よく、昔話で旅人へ娘を差し出す話があるじゃないですか。あれも外部の新しい遺伝子を村に取り入れるための集落ぐるみの知恵だったのかもしれない。あとは、大規模なお祭りを開催するのも、遠くから人を呼び集めるためと考えれば納得できます。
篠田 お祭りは、当時の「大規模なマッチングアプリ」と言えるかもしれませんね。
ひろ 一方で、歴史上にはその真逆を選んだ人々もいますよね。例えば、古代エジプトの王家や中世ヨーロッパのハプスブルク家など。
篠田 それは、ある意味でロジカルな戦略です。外から配偶者を迎えると親族が増えて争いが起きやすい。それを避けるために近親婚を繰り返した。財産と血統を守るという観点では合理的です。でも、生物学的には最悪です。
ひろ 実際、ハプスブルク家は内婚を繰り返した結果、下顎前突症などの身体的特徴や、遺伝性疾患が蔓延しましたよね。その点、江戸時代の大奥はうまいことリスクヘッジしていたんじゃないかと思うんです。将軍がたくさんの側室を持つのは単なる道楽ではなく、世継ぎを絶やさないためのシステムだった。遺伝子の多様性を確保するためだったんじゃないかと。
篠田 徳川将軍家の遺骨の調査結果を見ると、興味深いことがわかります。公家などから迎えられる「正室」は、非常にきゃしゃな骨格をしている一方で、実際に世継ぎを産む「側室」の中には、もともと農家出身で、骨太で健康的な女性が選ばれていた例もあります。健康第一で側室を選んでいる。
ひろ 政略結婚としての役割は正室が担い、健康な跡継ぎを残すという生物学的なミッションは側室にアウトソーシングしていた。かなり効率的なシステムですね。
篠田 現代の倫理観では許容されませんが、家系の生存戦略としては極めて合理的でした。一方、今後は本気で家系を残そうとすれば、かつて側室が担っていた「遺伝子の補完」という役割をテクノロジーが代替する時代が来るかもしれません。極端な話、自分のクローンに後を継がせることもできる。振り返ったとき、それが人類の分岐点になるでしょうね。
ひろ おお、未来っぽい話になってきましたね。でも、今でも出生前診断という形で、すでにある種の遺伝子コントロールが始まっていますよね。
篠田 そのとおりです。病気のリスクを事前に取り除く。それが進めば、特定の能力を伸ばす操作もできる。それには膨大な費用がかかるため、まずは富裕層から始まる。IQが高く、容姿に優れ、病気に強い〝デザイナーベビー〟が生まれる時代が来るかもしれません。
ひろ でも、そこが落とし穴な気がするんです。金持ちがみんな「これが完璧なスペックだ」という正解を求めて遺伝子を修正し始めたら、かつての王家と同じように多様性を失うじゃないですか。
篠田 そうですね。富裕層が「理想」に向かって遺伝子を収束させていけば、それは生物学的な「脆弱さ」を招くことになるでしょう。みんなが同じような遺伝子構成になれば、未知のウイルスや環境の変化が起きたとき、全滅するリスクが高まります。他方で、ランダムな交配に委ねる層は、予測不能な強さを維持するでしょう。今後200年から300年のスパンで、人類は「デザインされた均一な遺伝子」と「自然な多様性」という二極化に直面するかもしれません。
ひろ 歴史を振り返ると、最後に勝つのはいつも「多様性」を持っている側でしたよね。
篠田 皮肉にも、テクノロジーで完璧な人間を設計しようとすればするほど、種としては弱くなっていく。
ひろ 対談の最初に戻りますが、これからアジアやラテン系が世界を担っていくとすれば、グローバリズムの先に勝つのは、案外そっちかもしれませんね。
***
■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA)
元『2ちゃんねる』管理人。近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など
■篠田謙一(Kenichi SHINODA)
1955年生まれ。分子人類学者。国立科学博物館長。主な著書に『人類の起源』(中公新書)、『日本人になった祖先たち』(NHKブックス)など。2026年2月23日まで、東京・上野の国立科学博物館では特別展「大絶滅展」が開催中
構成/加藤純平(ミドルマン) 撮影/村上庄吾
記事提供元:週プレNEWS
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
