WBC侍ジャパン、惜しくも準々決勝敗退。「とにかく明るい」ベンチ裏と的中した「不安」
イチオシスト

今回選ばれた30人のメンバー中、大谷より年上は8人だけ。実力や実績だけでなく、年齢的にもチームをまとめる立場に
東京ドームで行なわれたプールCを全勝で突破し、米マイアミでの決勝ラウンドに乗り込んだ侍ジャパンだが、ベネズエラとの準々決勝で惜しくも敗退となった。
「史上最も明るい代表チーム」との声もあったそのムードの秘密は? その一方で、東京プールから囁かれていた「不安要素」とは?
【わずか2日半で調整した大谷】「このチームのすごいところは、本当に悲壮感がないというか、みんなが前向き。『負けるはずないだろうな』と僕は正直、思っているので。本当に頼もしい」
WBC東京プールでオーストラリアとの全勝対決に逆転勝ちした後、チーム最年長の菅野智之(ロッキーズ)が語った言葉だ。
その「悲壮感のなさ」を演出してきたのは、大谷翔平(ドジャース)と鈴木誠也(カブス)の同学年コンビである。
MLB組が合流し全員がそろった直後、大谷が北山亘基(日本ハム)にチームの新たなセレブレーションポーズの考案を注文し、紆余曲折を経て「お茶点てポーズ」が出来上がったエピソードは広く知られている。この話は大谷による「むちゃぶりネタ」として報じられたが、実は、当の大谷にはもう少し深い思惑があったようだ。
「前回のWBCに出ておらず、これまで大谷らと接点がなかったNPB組の若手は、どうしてもメジャー組に遠慮し、距離を置いてしまう。食事会だけでは壁は崩せないと大谷は考えたのでしょう」(スポーツ紙WBC担当記者)
所属時期は重なっていないものの、北山は日本ハムの後輩に当たり、少々の無理も言える。また、北山がマジメかつ機転が利くタイプであることも、大谷は関係者から聞き及んでいたという。
「最初の案にダメ出しされた翌日、北山が『ずっと考えて一睡もできなかった』とネタにしていたように、あえて二度手間をかけさせたことも含め、一連の流れでチーム内に一体感が生まれたのは確かです」(前出・WBC担当記者)
ここに鈴木が絶妙に絡んだ。開幕直前の3月3日に大阪で行なわれた阪神との強化試合後のお立ち台で、鈴木はその前々日に行なわれた食事会での内幕を明かした。
「最初はみんな〝大谷様〟に緊張して話せなかったので、『彼も同じ人間なんだよ』と後輩たちに伝えました」
このひと言はスタンドの爆笑を誘ったが、波及効果はそれだけではなかった。
「ベンチも大ウケでした。観客の前で大谷をイジることも含め、誠也にしか言えない冗談です。大谷も誠也も、若い選手たちに相当気を使っているのが伝わってきますよ」(日本代表チーム関係者)

前回大会のセレブレーション「ペッパーミル」(byラーズ・ヌートバー)より、ちょっとややこしい「お茶点てポーズ」
ただ、鈴木がその大阪シリーズから本塁打を飛ばしていた一方、大谷の打撃の調子は決して万全ではなく、スイングがややアッパー気味な軌道で打球にドライブがかかっていた。ところがWBC本番に入ると、たちまち本来の放物線を取り戻したのである。
大阪から東京に移動し、4日の公式練習、5日の非公開練習、6日の台湾戦の試合前練習。たったそれだけで、大谷はボールへのコンタクトやバットの軌道を繊細に調整したことになる。
「普通の打者なら、一度不調に陥れば復調に1、2週間はかかる。それを数日で修正してしまったのは、井端弘和監督も絶賛していた日々のルーティンの徹底ゆえでしょう」(前出・チーム関係者)
開幕後も、チームへの配慮は各所に感じられた。韓国戦の3回、同点に追いつくソロ本塁打を放った大谷は、お茶点てポーズで騒ぎ出そうとするベンチに向かって、両手で自制しろというポーズを取った。
そしてゆっくりダイヤモンドを一周すると、今度はベンチで迎える選手たちとハイタッチを交わしながら「はい同点~! はい同点~!」と声を張り上げた。盛り上げつつも、決して浮つかせない。
この回、続いて鈴木と吉田正尚(レッドソックス)にも一発が飛び出したことと結びつけるのはさすがに無理筋かもしれないが、ついそう考えてしまいたくなるほどに、大谷はチームを掌握していた。
【MLBスカウトが指摘した不安要素】一方で、超満員の東京ドームのスタンドには、冷徹な視線で〝原石〟を探すMLB各球団のスカウト陣がいた。
あるMLB球団のスカウトはこう語ってくれた。
「日本には潜在能力を秘めた投手が多い。今回は主に種市篤暉(たねいち・あつき/ロッテ)を見に来たが、この1年で大きく成長した。体が出来上がってきて球威が増しましたね。藤平尚真(ふじひら・しょうま/楽天)も、(2024年から)中継ぎに回って持ち味が発揮されている。
MLBでも中継ぎとして面白いですね。そして、伊藤大海(ひろみ/日本ハム)の球威、球速、制球力。完成度としては、MLB球団が現在調査対象としている日本人投手の中で一番じゃないかな。
彼らに共通するのは、持ち球にフォークボールがあること。メジャーでは日本人投手のフォークは効果的ですから。もしオフに移籍解禁となれば複数球団が手を挙げるのは間違いないでしょう」
アドバイザーとして参加した直前合宿で、そのNPB組の投手たちを「本当にレベルが高い」と評価したダルビッシュ有(パドレス)の背番号11のユニフォームが、侍ジャパンのベンチには毎試合飾られた。
ダルビッシュはSNSに「マイアミで返してね、と渡したユニフォームをこうして飾ってくれて感動しました」と投稿したが、いったんチームを離れアメリカに戻る彼からの「マイアミで返してね」という言葉は、言うまでもなく「必ず決勝ラウンドまで勝ち進め」という暗黙の激励。選手たちは全勝突破で約束を果たした。
ただし、侍ジャパンのWBC優勝の可能性について、前出のMLBスカウトはこう語っていた。
「今の日本は〝重量打線〟の戦い方をしているが、それが準々決勝以降に対戦するドミニカ共和国やベネズエラ、アメリカの一線級の投手たちにどこまで通用するか。同じ東アジアの韓国や台湾の投手には合っていたものの、2A、3Aレベルのオーストラリア投手陣さえ打ちあぐねていたのは気がかり。
正直言って機動力や小技を絡めるスモールベースボールこそ、WBCでは相手にとって脅威だった。もちろん日本の投手陣は力があるから勝負にはなるだろうが、MLBの投打のスター軍団に正面から〝空中戦〟を挑んで勝ち切れるか。興味深いところです」
残念ながら、準々決勝ではまさにその〝空中戦〟に敗れた侍ジャパン。ベネズエラ打線に許した10安打のうち、3本塁打を含む7本が長打で、そのほとんどが失点につながった。
一方、日本打線は3回までに5点を取り試合を優位に運ぶかに見えたが、4回以降は単打のみの3安打に抑え込まれ、流れを明け渡す形となってしまった。
取材・文/木村公一 写真/産経ビジュアル
記事提供元:週プレNEWS
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
