日本の個人投資家は確実性重視 米資産運用会社のアジア責任者
イチオシスト
20年余り前から「貯蓄から投資へ」のスローガンを政府は掲げているが、日本人の金融資産構成を見ると依然として貯蓄志向が強く、日本の家計金融資産に占める「現金・預金」の割合は51%で半数を超えている(2025年3月末時点、日本銀行「資金循環の日米欧比較」)。
一方、日経平均株価は2月に6万円に迫る勢いで過去最高値を更新、NISA(少額投資非課税制度)の⼝座数も右肩上がりで伸びるなど、最近は貯蓄から投資への流れにつながりそうな動きも一部で出始めている。投資に関する日本人の行動は今後変わっていくのだろうか。2025年から日本の証券会社でも取り扱いが始まった、個人投資家に人気とされる、いわゆるハイリスクハイリターンのレバレッジ(ブル)型個別株ETF(上場投資信託)商品を運用する米国の資産運用会社「Leverage Shares(レバレッジ・シェアーズ)」のアジア太平洋地域戦略責任者のボラ・キムさんに、日本人の投資行動の特徴などを聞いた。
―日本の個人投資家の特徴は。
例えば、現在の日本のETF市場を見ますと90%以上が日本銀行や機関投資家で、個人投資家の比率は低い。この点は個人投資家の比率が高い韓国や台湾とは対照的です。韓国や台湾の個人投資家が、独自の戦略を持ちボラティリティー(価格変動性)を「道具」として活用する「成熟化」段階にあるとすれば、日本の個人投資家はおおむね「株式投資という文化が本格的に根付き始めた段階」にあると思います。もっと分かりやすく表現すると、韓国や台湾の個人投資家の多くはボラティリティーを追う「ハンター」、日本の個人投資家は貯蓄から一歩踏み出し国内企業の成長軌道と共に歩む「投資パートナー」といったところでしょうか。その意味で日本の投資市場の成長の余地は大きいと考えています。
―韓国や台湾の個人投資家の最近の傾向は。
韓国や台湾の個人投資家は、ここ数年で米国株への選好を急激に強めており、同時にレバレッジETFのようなボラティリティーが大きい商品を積極的に活用する傾向があります。特に韓国の場合、国内市場が本格的な上昇局面を迎えるまでは、米電気自動車大手テスラの現物株よりもテスラの株価に連動するレバレッジ型個別株ETF「テスラ・レバレッジETF」を多く買い越す現象が見られるほど、ボラティリティーの大きい商品への関心は顕著でした。
―そのほかのアジア諸国の投資傾向は。
シンガポールの個人投資家はDBS銀行やユナイテッド・オーバーシーズ銀行(UOB)などの配当中心の国内銀行株を好み、ウェルスマネージャー(富裕層の資産運用担当者)を通じた投資が主流であるため、ETF取引自体の活用度はそれほど高くありません。香港の個人投資家はリスクを積極的に取る層と、リスクを取ることに慎重な層に大きく二分されていると思います。
―韓国のように日本でレバレッジETFは普及しますか。
投資経験が十分でない日本の個人投資家の方々にはいますぐレバレッジETFをお勧めしません。レバレッジ商品は、連動指数のほか、個別型の場合は基礎資産(連動する個別株)に対する深い理解と明確な投資戦略があることを前提としています。例えば、テスラに対する十分な分析なしに「テスラ2倍レバレッジ」を購入すれば、収益よりも損失の可能性が高まります。レバレッジは利益を増幅させると同時に、リスクも同様に増幅させるからです。特に長期保有の際には注意が必要です。レバレッジETFには「複利効果」が作用しますが、これは相場環境によって収益を押し上げることもあれば、逆に損失を深刻化させることもあります。日本の個人投資家の方々は「完全に理解しなければ投資しない」という傾向が強く、これは非常に健全な姿勢です。不確実性を楽しむ傾向がある他国の個人投資家と比較し、日本の個人投資家は「確実性」を重視します。その意味で、投資経験が十分でない日本の個人投資家の方々には、変動性が本質的に内包されているレバレッジ商品は、今すぐの最優先の選択肢ではないかもしれません。
―ボラティリティーの大きい金融商品には投資戦略が不可欠?
テーマ型ETFや個別の基礎資産(個別株)に関する教育コンテンツを通じて、株式市場への理解と関心を高めていただく必要があります。個人投資家自らが戦略を立て、その成功率が60〜70%以上に達したと実感できた時、初めてレバレッジETFは有用な「ツール」として視野に入ってきます。サーフィンに例えるなら、サーファーは普段から地道に練習を重ね、ここぞという大きな波が来た時にその波を乗りこなします。レバレッジETFも同じです。市場に絶好の機会が訪れた際、そのチャンスを確実に捉えるための「道具」として活用するのが正しい姿です。準備なしに飛び込めば、波に飲み込まれてしまうだけです。
―日本の個人投資家に与える円安の影響は。
自国通貨安局面での個人投資家の反応は国によって違いがありました。例えば過去に、韓国と日本は共に自国通貨安を経験しましたが、両国の個人投資家の行動は正反対でした。韓国の個人投資家の多くはウォン安を機に海外資産へ資金を積極的にシフトさせたのに対し、日本の個人投資家の多くは円安局面でも国内市場にとどまりました。日本の個人投資家は、ほかのアジア諸国よりも「自国市場へのこだわり」が強いと思います。この自国市場(企業)重視の傾向は、単なる変化を嫌ういわゆる保守性というよりも、日本の個人投資家が自国企業の成長を最も身近で感じているからではないかと考えられます。
―御社の日本での金融教育の取り組みは。
弊社は、日本ではまず投資家自ら収益を上げられる投資文化を長期的な視点で醸成することが先決だと考えています。この投資文化が根付いた時、ボラティリティーの大きいレバレッジETF商品も自然と日本の投資市場の中で確固たる地位を築くことになると信じています。その意味では金融教育は重要です。弊社はまだ日本で金融教育の取り組みを始めていませんが、今後は例えば大学の投資サークルの学生と一緒に若者対象の投資教室を運営するなどの取り組みなどが考えられます。過去に海外の大学の投資サークルと対話した際は、「自分の判断が間違っていたときにそれをどう認識し、いかに戦略を改善するか」という点を強調しました。相場を理解し、自分なりの視点を持つことこそが投資の真の基礎である、と考えているからです。将来的には、人工知能(AI)を活用した金融教育も検討しています。投資戦略がある程度成熟した段階で、レバレッジというツールが自然と必要になるような流れを促す金融教育が、弊社は重要と考えています。
記事提供元:オーヴォ(OvO)
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