イラン・アメリカ戦争の行きつく先は超長期戦か、それとも核か
イチオシスト

2月28日、イランの首都テヘランで爆発があり、煙が立ち上った。イスラエル国防省は「先制攻撃を開始した」と発表した
トランプ米大統領が踏み切った軍事作戦で、イランの最高指導者ハメネイ師と幹部が爆殺された。この斬首作戦で短期決着するかと思いきや、戦線は拡大し、長期化の様相を見せている。なぜ今なのか、そしてどこへ向かうのか。最悪のシナリオの可能性まで徹底分析する。
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【米・イスラエル軍による〝斬首作戦〟の全貌】イラン現地時間2月28日午前8時10分。米軍とイスラエル軍はイランに対し、「壮絶な怒り作戦」と名づけられた大規模攻撃を開始した。
今回の攻撃の全体像について、国際政治アナリストの菅原 出氏はこう説明する。
「作戦開始から最初の12時間以内に、米軍は全土で900回近い爆撃を行なったと伝えられており、イランの31州のうち24州が攻撃の影響を受け、死者は200人超、負傷者は700人以上に上るといわれています。
米当局者によれば、攻撃対象となったのは軍事施設や核施設に加え、イランが保有しているとされる約2000発のミサイル。その大半はイスラエルや中東の米軍を脅かす短・中距離弾道ミサイルで、全土に分散配備された発射拠点が最初の標的となりました。
一方のイスラエル軍は、初期段階でイランの政治・軍事指導者に対するピンポイント爆撃を実施しました。
攻撃開始から数分以内に、ハメネイ師の邸宅に約30回に及ぶ爆撃があったと報じられています。
つまり、米軍がミサイル能力の破壊に集中し、イスラエル軍は防空網を削りつつ、政権中枢の排除という役割を担ったのです」
しかし、アメリカはたった2ヵ月前にベネズエラを攻撃したばかりだ。なぜ作戦決行がこのタイミングだったのか。
「標的となっていたイラン政府指導者たちが、この日この時間、3ヵ所に集まっているというインテリジェンスを得たためだと報道されています」
米軍にとって、作戦決行の条件が急に整った瞬間だった。

イランへの軍事作戦を映像で確認するトランプ米大統領。支持者は長期化を懸念しているが......
今回のハメネイ師邸への爆撃で使われたのが巡航ミサイルなどのスタンドオフ兵器(敵の射程外から攻撃する兵器)だったのか、それとも爆弾だったのかは判然としない。
対地攻撃を専門としていた元空自F-2パイロットのA氏はこう分析する。
「同じ効果(目標の破壊や周辺被害の極小化)が得られるなら、より遠距離から発射できる兵器のほうが理想です。
しかし、攻撃決定から弾着までの時間に制限がある場合、つまり『今すぐ攻撃せよ』という状況であれば、航空優勢の有無にもよりますが、巡航ミサイルのような遠距離攻撃ではなく、爆弾が選ばれることもあります。
今回の作戦は即応性を最優先したものであった可能性が高いため、爆弾が使用された可能性もあるのではないかと思います。
いずれにせよ重要なのは、求めた結果が得られたということ。作戦の手際や精度が高かったことを示しています」
元米陸軍情報将校の飯柴智亮氏も作戦を高く評価する。
「米軍がHVT(高価値の標的)をピンポイントで排除できる能力の高さを、改めて示しました。今回の作戦の遠因として忘れてはならないのが、1979年のイラン米大使館占拠事件です。あれは米国にとって歴史的な屈辱でした。
ハメネイ師はあのときの当事者のひとり。86歳という高齢の指導者を、あえてこのタイミングで排除した点には、『歴史的な決着を自らの手でつける』という強い意志を感じます」

1989年からイラン最高指導者として君臨してきたハメネイ師。その死は世界のイスラム社会に衝撃を与えた
今回の初期作戦で殺害されたとみられるイランの高官は、最高指導者ハメネイ師のほか、最高顧問、革命防衛隊幹部、軍事局長、国防軍需相など政権中枢に及ぶという。
その中には、イラン海軍司令官シャハラム・イラニ海軍少将の名もある。
そのイラニ少将が命を落とす、わずか8日前。2月20日に会っていた人物がいる。インドで開かれた海軍イベントを取材していたフォトジャーナリストの柿谷哲也氏だ。
「ノボテルホテルで代表団と一緒におられました。国家間の緊張が高まっているさなかでしたから、まさかこんな場所にいるとは思わず、私から近づいて挨拶しました。すると少将のほうから手を差し伸べてくださり、握手を交わしました。
私がこれまでに何度もイランを訪れているという話をして、撮影した写真を見せたら、少将は『いつ撮った?』と尋ねられたので、私は『ファルバルディーン(イラン暦でいう3月21日~4月20日のこと)』と答えました。イラン人以外は使わないイラン暦で答えたことに感動していました。
その後『どこが良かった?』と聞かれたので、『タフテ・ジャムシード(ペルセポリス)やシューシュ(スーサ)!』と答えたら、とても上機嫌な様子でした」
その時点で柿谷氏は、米国の攻撃が近いことを感じ取っていたという。
「2月8日、サウジアラビアのリヤドで開催されていたワールド・ディフェンス・ショー(国際防衛装備品展示会)で、米空母リンカーンのF-35Cが飛来し、周囲に3両あったミサイルを迎撃するパトリオットがイラン方向へ向けて待機しているのを見て、攻撃が近いのは間違いないと実感しました。
だから少将に『日本人の多くはイランが好きで、今の状況を不安に思っている。早く日本人が旅行できるよう祈っている』と話しました。
少将はペルシャ語で何か言いましたが、最後の『エンシャアッラー、ヘイリーマムヌーン(もし神が望むなら。ありがとう)』しか聞き取れませんでした。その後、写真を撮らせてもらい、別れました」

2月20日、インド・ビシャカパトナムでの海軍関連行事にて撮影。左はイラン海軍参謀長シャハラム・イラニ少将。少将は写真が撮られた8日後に死亡したというニュースが流れた
そして2日夜、この海軍少将が死亡したという情報が出た。しかし、イラン政府からの公式発表はまだない。
「事実であればショックですが、戦争になるとフェイクニュースも多くなる。少将の死も誤報だったと信じたいです。
とはいえ、開戦直前のあのタイミングで司令官が国際イベントに出向くほどイラン海軍は余裕があったのか。米国に対する分析が足りなかったのではないかと思います」
【長期戦にもつれ込むイラン・アメリカ戦争】トランプ政権は当初、ベネズエラのように短期決戦で終わらせる構想だったとみられる。しかし、イランは崩れなかった。イラニ少将を含め、政権中枢の高官を何十人も失ったにもかかわらず、革命防衛隊は動き続けた。
「米軍とイスラエル軍の攻撃に対し、イランはイスラエルだけでなく、アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、クウェートなど周辺国に対しても弾道ミサイルと無人機による報復攻撃を行ないました。
ハメネイ師が殺害された後も、最初の24時間で約300発のミサイルを発射したと報じられています。つまり、指揮系統は機能しているのです。
イランを屈服させるには、米・イスラエル軍として今後、ミサイルと無人機をどこまで無力化できるかが鍵になります」(前出・菅原氏)

イスラエル軍はレバノンのベイルートにも空爆を仕掛けた。今回の軍事作戦は、中東全域を揺るがしている
実際、米・イスラエル軍も攻撃の手を緩めていない。3月1日、イスラエル空軍の戦闘機数十機がイラン西部・中部を攻撃。防空システム、ミサイル発射装置、政権関連施設、軍司令部など30以上の標的を叩いた。
それでもイランは屈服しない。むしろ、得意な〝寝業〟に持ち込もうとしている。多摩大学大学院客員教授で地政学者の奥山真司氏はこう語る。
「国家のトップを排除する斬首作戦だけではレジームチェンジは起こりません。イランは長期戦に持ち込み、地上侵攻ができない米国とイスラエルを消耗させるでしょう」
その長期戦の核心がホルムズ海峡だ。ここは世界で消費される原油の約2割が通過する要衝。原油輸入の9割以上を中東に依存している日本にも影響は大きい。
イラン革命防衛隊はすでにホルムズ海峡の封鎖を宣言しており、通過する船舶への攻撃も辞さない姿勢を示している。菅原氏は言う。

「イランは米国を軍事的に打ち負かす必要はありません。1日数発でもミサイルや無人機を撃ち続け、ホルムズ海峡の緊張状態を維持すれば、原油価格は跳ね上がり、世界経済に打撃が及びます。そしてそれが米国への圧力にもなる。持久戦になれば、むしろイランが有利になる可能性があるのです」
軍事的劣勢を、経済的揺さぶりで補う。それがイランの戦い方なのだ。
しかし、ヘグセス米国防長官は3月2日の記者会見で「これは終わりのない戦争ではない」と、泥沼化リスクを牽制した。というのも、トランプ氏は過去の政権による中東への介入を「終わりのない戦争」と批判し、それを政治的追い風としてきたからだ。
そんなトランプ大統領だが、同じ日に「計画していた4~5週間よりも長い期間、作戦を実行する能力がある」「どれだけ時間がかかろうと構わない。必要なことはなんでもする」と、長期戦を辞さない姿勢を見せた。
ただし、時間は無限ではない。タイムリミットがあるとすれば、それは中間選挙だ。
「11月に中間選挙を控え、トランプ政権が自由に軍事作戦を展開できる時間は限られています。その場合、事態を一気に終わらせる手段を選ぶ可能性はある。つまり、核使用という選択肢も排除できないのです。かなり危険な状況です」(菅原氏)
イランの核保有を阻止するために、米国が核を用いるという逆説。中東は今、超長期戦か、それとも核かという分岐点に立っている。
取材・文/小峯隆生 写真/時事通信社
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