プロが実践する心の鍛錬 成長に欠かせない“非常識なゴール設定”【メンタルコーチに聞く・前編】
イチオシスト
現在、多くのプロゴルファーがメンタルコーチのサポートを受けているが、実際どのような取り組みをしていて、どのような効果があるのか。岡田晃平らツアープロのメンタルコーチ兼キャディを務める出口慎一郎氏に、メンタル術や選手との取り組みについて聞いた。今回は『ゴール設定』について。(取材/構成・高木彩音)
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「ゴールに向けて、選手が1日ずつ成長していけるようにサポートする。それが、僕の基本的な取り組みです」
メンタルの強さとは、単なる精神論ではなく、前向きな“思考の仕組み”をつくることにある。人は過去の経験を基準に自分を評価し、ときに自らを追い込んでしまう。目の前で起きている事実を受け止めることで、心に余裕が生まれる。
その余裕こそが、良いプレーにつながっていく。達成しなければならないというプレッシャーを手放し、成長そのものを楽しむ。それが、過去の自分を超えてレベルアップしていくことにつながる。結果を出し続けるプロゴルファーの裏側には、目に見えない思考を鍛えるメンタルトレーニングが存在しているのだ。
■ゴール設定がすべての出発点
出口氏が選手と行うメンタルセッションでは、はじめに目標となる明確なゴールを設定する。12月中には前シーズンの振り返りを終わらせ、1月の序盤にはゴールを立てる。12月はオフのイベントや取材など競技以外での仕事がメーンになる選手も多く、大体の選手が1月から本格的に準備を始めていくからだ。
「まずは、その選手がどのようなゴールがあるのか、ゴールを明確にします。例えば『年間1勝』などのように頑張ればいけそうなゴールではなくて、『年間 5勝』とか『年間 10勝』という想像もつかないことです。それを達成しようとした時に、『どんな練習法』が必要になるのか、『どんな思考法』が生まれるのか。現状の外側のゴールを設定します」
実現不可能ともいえる高いゴールを設定し、そこから逆算して、達成するための取り組みを決めていく。目標設定したあとに、今までの自分のいいときと悪いときの思考や練習パターン、ラウンド中に起こりやすい無意識範囲で起こる思考などを振り返る。
「現状の外側に行かなくてはいけない。これまでと違うことをしなきゃいけない。ゴールからエネルギーをもらった状態で、その理想起点で話し合いをしていきます。そしてゴールに向けてオフに誰の力を借りて、誰に合宿依頼をするのか。ラウンド中の課題として、例えばルーティンの構築であったり、大会中に起きやすいことへの対策を立てて実戦してもらう。例えば『右ピンは広く取れるのに、左ピンだけめちゃくちゃ攻め込む』みたいな、そういう選手もいるんですよ。だから『なぜその左ピンに対してだけ攻めていくのか』っていうところを言語化してもらっています」
前年よりもいい結果を出すためにも、過去を超えていくことが狙い。選手への“問い”を繰り返して、まずは現状の自分と向き合う時間をつくっている。そしてオフの期間から実行していき、クセ付けをしていくのだ。
なぜ、“頑張ればいけそうなゴール”設定をしないのか? それは、技術面やマネジメント力などのレベルを高める“成長率”向上のためだ。
「日本の教育システムが一番の理由なんですけど、“達成しなくてはいけない”という、この『達成』という言葉にめちゃくちゃ縛られています。達成しようとする時って、いつの間にか“達成可能”なゴールを設定していくようになるんです」
例えば、『このシーズン、絶対に勝てるよ』、『勝てる可能性が高いよ』と周囲から言われたときに、自分のなかで『じゃあ、年間1勝する』という目標を立てるとする。仮にシーズンが開幕して、途中で予選落ちが続いたり、優勝争いに入れていないと、その現実を目の当たりにしたときに、『まずは達成できる目標に落とそう』と下方修正する心理になりやすいという。
「『絶対に勝てるよ』と言っていたゴールを、『シードが取れるように』、『リランキングに入るように』とシーズン中に下がっていきます。ゴールを下げさせないために、僕らがいる。大きな目標にチャレンジしていきながら、現状と同じことをやっていくと、現状の延長線上のゴールになってしまう。そうではなくて、ゴールに対して、少しでも1日ずつアップデートしていく取り組みを行っていく。それが僕の基本的な取り組みです」
目標を落とさないためにも、毎回のセッションで現在の状況を把握し、プラスになるように話し合う。「常に、『何月何日までに1勝するためのピークはどこで持っていくのか』、『課題感を解消するようなトーナメントはどこに設定するのか』など」と最初に立てたゴールを軸に、セッションを進めている。
メンタルトレーニングは、まず現状の延長では到達できない大きなゴールを設定することから始まる。そこから逆算して練習法や思考法、試合での課題への対策を具体化し、選手自身が過去の思考や行動パターンを振り返りながら改善を重ねていく。
一方で、日本人は「達成できる目標」を設定しがちで、結果が出ないとゴールを下げてしまう傾向があるという。だからこそセッションでは当初の大きな目標を軸に据え、日々の取り組みをアップデートしながら成長を促し、現状を超える結果へと導いていく。中編ではメンタルトレーニングの内容について迫る。
■出口慎一郎
いでぐち・しんいちろう/1983年11月28日生まれ、長崎県出身。認知科学コーチ、スポーツメンタルスペシャリスト、ポジティブ心理学、アンガーマネジメントの資格を持つメンタルコーチ。主にアスリートのメンタルサポートを行うほか、企業向けのコンサルティングや講習も実施している。現在は男子プロゴルファーの岡田晃平らをサポートしながら、トーナメントではキャディとしても活動。専属キャディを務めたチャン・キム(米国)は2020-21シーズンの国内男子ツアー賞金王を獲得した。キャディとしてサポートした選手の優勝は7回、メンタルサポートを行った選手の優勝は8回の実績を持つ。2026年2月には「3カ月であなたのゴルフを覚醒させる~賞金王キャディの勝利脳ゴルフコミュニティ~」をコンセプトにした『GCC(ゴルフコーチコミュニティ)』を立ち上げた。
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