開戦から4年、「ウクライナ軍ドローン部隊」の最新形態とは? 航続距離が4倍に延びた無人航空機に、負傷兵を搬送する無人車両まで!
イチオシスト

20年に1度の大寒波に見舞われ、ロシア軍のインフラ攻撃によって電力制限が続くウクライナ。それでも防衛任務は止まらない。雪が残る防空陣地で、固定翼型とクワッド型(4枚羽根)の迎撃ドローンを見せるウクライナ空軍のFPV操縦士
ロシアがウクライナに侵攻して4年。終わりの見えない戦争は泥沼化、しかし最前線の技術革新は進む。ドローン戦の現在地を密着取材した。
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【網に覆われた補給路、負傷兵を運ぶ無人機】ウクライナ東部、ハルキウ州イジュームからドネツク州のクラマトルスクへと続く幹線道路はウクライナ軍の補給路として使われている生命線だ。
目に飛び込んできたその光景に私は驚きを隠せなかった。道路全体を網で包み込んだ回廊が延々と続いていたのだ。この道路はこれまでも何度か通ってきたが、1年前に来たときには網はなかった。

自爆型ドローンから車両を守るため、幹線道路に張り巡らされた網。無人機の飛行範囲が拡大したことで、この1年で前線近くでは数百kmにわたり設置が進んでいる
「この網はロシア軍の自爆型FPVドローンから守るために1年前くらいから張られたものだよ。ドローンの性能が上がって飛行可能範囲が広がったから、ロシア支配地域に近い地区では何百kmに及ぶ網の回廊ができているんだ」
そう説明するのは助手席に座るフィクサー(コーディネーター)のボグダン。彼の手にはアナログ映像信号を自動的に検知する機器があった。

FPVドローンの映像信号を自動的に検知し、追尾を察知する「ディテクター」を持つ男性。クルマで移動する際の必需品だ
「ディテクター」と呼ばれるその機器にはモニターがあり、FPV(一人称視点)ドローンに搭載されたカメラの映像が映し出される仕組みだ。もしモニターに自分の車が映っていれば、ドローンに追われているということだ。
かつては軍の後方拠点だったクラマトルスク郊外には塹壕が掘られ、終日、砲声が鳴り響く。そのため市内には民間人の姿はほとんどない。
クラマトルスクにはUGV(無人地上車両)を専門にする第93独立機械化旅団が拠点を構えている。この旅団は当初、戦車や榴弾砲などを専門にしていたが、2年ほど前からドローンの運用を始めている。
案内された郊外の平屋の庭には迷彩ネットが張られ、たくさんのUGVが並んでいた。案内してくれたのは5年前からこの部隊で活動しているフォーカス。戦争前はプロの手品師だったという一風変わった経歴の持ち主だ。

迷彩ネットの下に並ぶUGV(無人地上車両)。台車にキャタピラをつけたような簡素な造りだが実戦で活躍中。金属フレームにはカメラを搭載。バッテリー駆動の電動式で、最大40km走る。スターリンクにつなげばFPVドローンの電波中継車にもなる

UGVは雪のある悪路もグイグイ進み、45度の傾斜を上る力もある。がれきに模した小型UGVを敵陣に潜り込ませて偵察任務することも可能

夜間、防衛戦を続ける兵士のもとへ燃料や銃弾を積み込んだUGVを送り出す。通常なら5、6人で運ぶ物資を、無人車両1台で搬送できる
「このUGVに砲弾を積んで敵陣や橋を爆破させたり、防衛戦で戦う兵士へ燃料や武器、食料を運搬したりします。また、負傷した兵士を後送することも可能です。
UGVを使えば5、6人で運ぶ物資を1台で運ぶことができます。2年前はロシア軍陣地の5kmまで近寄ることができましたが、ロシア軍のFPVドローンの飛行範囲がここ2年で15kmも広がり、現在は20kmの距離でも危険なんです。そのため、物資運搬や負傷兵の搬送にUGVは不可欠になっています」
第93独立機械化旅団の無人システム大隊の司令官・アレクサンドルは、2014年のクリミア危機に義勇兵として従軍し、22年の侵攻後はドンバス地方で狙撃兵、偵察兵として活動した経歴を持つ。
「現時点でUGVはほとんどの前線で稼働しています。われわれの大隊だけでも1000回を超える任務を遂行しました。1日で平均1tの物資を運搬し、50人以上の負傷兵を搬送してきました」
UGVを実戦で運用したのは、この部隊が世界で初めてだという。3年前には数台しかなかったUGVだが、無人機が戦場での主役になった今では数千台が活躍している。
「攻撃だけではなく、兵站任務も人間からドローンに置き換わりつつあります。今後、キルゾーン(最前線)から人間は消え、ドローン対ドローンの戦いにいっそう変化していくでしょう」
【数ヵ月単位で更新されるドローン戦】クラマトルスクで取材を終えた私は、南下してザポリージャへと向かった。ザポリージャにはウクライナ軍の中でもトップクラスの戦果を上げている第411独立UAV(無人航空機)大隊が展開している。その大隊がFPVドローンの研究開発を行なっている施設が市内にあるということで取材をさせてもらう。
戦争前は名門キーウ大学で法律を教えていたという技術者・タラスの案内で市内の集合住宅の一室に入ると、5人ほどの技術者が黙々と作業に集中する研究室のようだった。
FPVドローンが山積みにされる中、テーブルの上に置かれたひとつのドローンが目に留まった。機体下部に筒のようなものが搭載されている。聞くと、中には50km分にも及ぶ光ファイバーが巻かれているという。筒の前面の小さな穴から出ているケーブルは釣り糸ほどの細さだ。

ザポリージャ市内の集合住宅の一室に設けられた研究拠点。民間アパートの一角で、技術者たちが改良や組み立て作業にあたる。机の上にはFPVドローンが整然と並ぶ。戦場と直結した開発の最前線だ

機体下部に筒を装着したFPVドローン。筒の内部には50km分の光ファイバーが巻き取られており、飛行中も有線で映像と操縦信号を伝送する

研究所の一角には箱からあふれるほど攻撃用ドローンが積み上げられていた
光ファイバーは無線とは違い、遮蔽物が多くて電波が届きにくい地形でも安定して高画質の映像を送信でき、妨害電波でのジャミングもできないというメリットがある。
実は、先に光ファイバーを使い始めたのはロシア軍だった。ここ1年ほど、ロシア軍が使う光ファイバーのFPVドローンにウクライナ軍は手をこまねいていた。そんな中、高品質の光ファイバーがウクライナでも生産されるようになり、ウクライナ軍も光ファイバーFPVを戦場に投入できるようになったのだ。
「近年のウクライナの戦場では、ドローン技術が数ヵ月単位で大きく進化しています。そして進化のスピードも年々、速くなっています。
ジャミングができない光ファイバーFPVは散弾銃や自動小銃などで撃墜します。最近では弾丸ではなく網を発射してドローンに絡ませるピストルが開発されました。欠点は50m以内の距離で発射する必要があること。遠いとドローンに届かないし、かといって近すぎると爆発に巻き込まれてしまいます」
最先端のハイテク兵器に対して有効なのがアナログな網というのが興味深い。移動の際に目にした網の回廊こそが一番の防御策というのにも納得できる。
【日本はドローン戦に有利? 不利?】〝過去20年間で一番の寒波〟に見舞われているウクライナ。ロシア軍は発電所などインフラ施設を弾道ミサイルやドローンで重点的に攻撃しているため、市民は困難な生活を強いられている。キーウでは電気が2時間しか使えない日もあるという。
昨年12月、ウクライナ空軍にドローンを迎撃する専門の部隊〝防空無人システム〟が設立された。司令官のユーリ・チェレバシェンコ大佐に話を聞いた。
「23年には月に平均350機のシャヘッドやガーベラ攻撃ドローンが飛来していましたが、現在は1日で350機が飛んできます。初期のシャヘッドは40kgの爆薬を積んで設定された座標に飛ぶという単純なものでしたが、現在は人工知能を搭載し、遠隔操作できるハイテク兵器と化しています」
開戦時、ウクライナ軍が保有していたのは60年前に製造されたソ連時代の防空システムだった。当初はそれでも対応できていたが、迎撃ミサイルの在庫が底を突き、米国製のパトリオットミサイルの配備を進めた。
しかし、高価なミサイルを安価な攻撃ドローンに使うのは値段的に割が合わないことから、ドローンでドローンを撃墜する方法を編み出した。
キーウ郊外の防空陣地で私に見せてくれたのは、固定翼とクワッドタイプ(4枚羽根)の新型ドローン。これらは時速300キロで飛来するシャヘッドを撃墜することができる。
「陸軍で使われているドローンは地上攻撃が目的なので、目標は2次元の座標で設定します。一方、われわれ空軍は飛行中の目標を迎撃します。空中での位置や高度が複雑に絡むため、使う機体も異なりますし、操縦士の訓練も地上攻撃よりはるかに難易度が高くなります」
現代戦ではドローンは不可欠なものになっている。もし今後、日本が戦争に巻き込まれた場合、ウクライナで起きているドローン戦争が同様に展開されるのだろうか? 緊張感が高まる東アジアで、自衛隊はドローン戦争にどう向き合えばよいのか?
「日本は海に囲まれており陸続きのウクライナよりも有利な立場にあります。しかし、それは利点であると同時に欠点でもあります。
利点は、敵を自国領土から遠く離れた場所で迎え撃つ水上ドローンを使えること。欠点は空からの目標に対して海上からの迎撃は非常に難しいことです。
風や霧など厳しい気象条件の中で、迎撃ドローンに対してレーダー網を展開することの難しさです。技術的にはチャレンジングですが、世界で最先端の技術を持つ日本なら対応できると確信しています」
●横田 徹(よこた・とおる)
1971年生まれ、茨城県出身。97年のカンボジア内戦をきっかけに報道カメラマンとして活動を始める。インドネシア、東ティモール、コソボ、アフガニスタン、シリアなど、世界各地の紛争地を29年にわたり取材している。
撮影・文/横田 徹
記事提供元:週プレNEWS
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