日産がイケイケだった時代のキラキラ商業車「エスカルゴ」

イチオシスト

1980年代後半、日本は好景気に沸き、街も人もキラキラしていました。「効率」よりも「面白さ」、「正解」よりも「まずやってみる」。多少ムダでも楽しければOK、そんな空気が社会全体に広がっていた気がします。そんな時代に日産が送り出したのがエスカルゴです。

実用重視で無骨が当たり前だった商用車の世界に、丸くて愛嬌のあるデザインを採用。「商用車にも夢を」という大胆な発想は、当時としてヤバいくらい異端でした。札幌市厚別区の「厚別パークボウル」の協力を得て、今では見る機会が少なくなったエスカルゴを紹介します。
厚別パークボウル
https://apb-parkbowl.com
「バブルの申し子」のオシャレ商業車

昨今、業績が厳しい日産ですが、バブル期はお立ち台で踊っているボディコンギャル並みにイケイケでした。その代表格が1987年に発売された「Be-1」です。コンパクトカーのマーチがベースながら、丸目のヘッドライト、なだらかな曲線で構成されたボディ、主張しすぎないクロームパーツで、1950〜60年代のヨーロッパ小型車っぽい佇まい。台数限定の抽選販売(実販売は約16,000台)だったこともあり応募。社会現象になりました。

この成功を受けて誕生したのが、いわゆる“パイクカー”路線。その流れで1989年に登場したのが、パオ、そして商用モデルのエスカルゴでした。車名はフランス語でカタツムリを意味する「Escargot」と、カーゴ(貨物)をかけ合わせた造語。もうネーミングからして遊び心が全開です。
そこにあるだけで空気感が変わる!?

ベースは日産ADバン系プラットフォーム。でも見た目は完全に別物。フロントからリアまで一筆書きのように流れる曲線、ちょこんと付いた丸目ライト、ちょっととぼけたノーズ。どこかシトロエン2CVやルノーの商用車を思わせる、ヨーロッパテイストが漂います。

当時の街には、花屋さん、パン屋さん、八百屋さん、豆腐屋さん、喫茶店……“顔の見える商売”が元気でした。エスカルゴは「クルマもお店の一部」という発想を体現した存在。駐車しているだけで看板になる。動く広告塔、いや、動く世界観でした。
カタツムリだから非力です

中身は堅実。1.5L直4エンジンに3速ATまたは5速MT。速さを競うクルマじゃありません。名前の通り、ゆっくり、でも確実に目的地へ向かう。急がない。それがこのクルマの流儀です。

荷室高1230mmのカーゴスペースはしっかり実用的。標準ルーフのほか、開放感たっぷりのキャンバストップも選択可能。室内はテーブル型インパネに中央配置の大型メーター、さらにATレバーをセンター上部に置くという、当時としてはかなり未来的なレイアウト。見た目だけじゃなく、中身もちゃんと遊んでいました。
時代はエスカルゴに追いついていない!

残念なことに、時代はまだエスカルゴに追いついていませんでした。商用車にかわいさを求める市場は成熟前。販売期間はわずか数年、大ヒットとはいきませんでした。それでもエスカルゴは、確実に記憶に残る一台です。効率よりワクワクを優先できた時代が生んだ勇気ある実験作。いま見ても斬新。時代を先取りしすぎたカタツムリは、静かに、でも確実に自動車史に足あとを残しました…たぶんね。


※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
