市川紗椰が語る「アメリカン中華」という発明品
イチオシスト

中華のテイクアウトとカラオケに癒やされる夜
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は「アメリカン中華」について語る。
* * *
日本の町中華が本場の中国料理と別ものなように、アメリカン中華も独自の進化を遂げています。
日本では、海外ドラマで見る、白い紙箱のテイクアウト容器の印象が強いでしょうか? 本場の中華が「地域文明の集合体」で、日本の中華が「繊細に調律された和の外食文化」だとしたら、アメリカン中華は「移民と資本主義がつくった発明品」といったところでしょう。
象徴的なメニューは、オレンジチキン。カリカリに揚げた鶏の唐揚げにオレンジ風味のソースを絡めた料理で、中国にはない。でも、アメリカでは定番と言っていい中華料理です。甘くて、酸っぱくて、カリカリで、オレンジでもチキンでもない謎の味。しかしひと口食べると、「うまいから許す」となります。これがアメリカン中華の基本精神。正統性より満足感。
チャーハンはフライドライス、焼きそばはチャイオメインと呼ばれる料理になります。量が多く、味が濃いのに不思議と味が足りない。見た目は茶色いし、ソースが照り照りしている。野菜より肉。ヘルシーよりハッピー。栄養バランスより感情バランス。
中国では見かけないフォーチュンクッキーも当然のように出てきます。この占い菓子は、デザートであり、人生相談であり、時に日々の励ましでもある。「You will find happiness in simple things」と書かれた紙を読みながら、テイクアウトの箱にワクワクしてた自分を思い返すと、妙に説得力が。確かに、幸せは「甘くて揚げたもの」の中にもあります。ほかにもゼネラルツァオチキン、ビーフブロッコリー、クラブラグーンなど、多くの日本人にはなじみのない定番メニューが存在します。
こうしたアメリカン中華のルーツは、19世紀。ゴールドラッシュと鉄道建設のために海を渡った広東系移民が広めたともいわれています。手に入る食材は限られ、現地の人の味覚も大胆になったことで、振り切れた料理が生まれた。遠慮、躊躇(ちゅうちょ)がなく、「こうあるべき」を気にしない。移民の知恵とアメリカの豪快さが出会った結果、誰も傷つけず、誰もが満腹になる料理が生まれたのです。
進化しながらアメリカに定着する過程で、「誰が作っても失敗しない」=「お店を始めやすい」という特徴も付随し、ある特徴が生まれたと私は推測しています。それは、「どこでも同じ」という安心感。州が変わっても、店の名前がたとえ「Golden Dragon」から「Lucky Panda」に変わっても、味はほぼ同じ。つまり、引っ越してもオレンジチキンはあなたを裏切らない。
アメリカン中華は「食のインフラ」であり、ピザやハンバーガーと肩を並べる国民食なのです。海外ドラマで紙箱を抱えた登場人物を見たら、「人生を少し回復してるな」と思ってください。甘くて茶色くて、量で殴ってくるあの料理は、アメリカの胃袋を支える立派なライフラインです。
ちなみに、アメリカの大手チェーンPanda Expressは日本にも上陸してるので、気になる方はぜひ。ひと口目は「これは中華ではない」となっても、ふた口目には「これはこれで、最高だ」と思うかも?
●市川紗椰
米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。アメリカにしかないイタリアンもオススメ。公式Instagram【@its.sayaichikawa】
記事提供元:週プレNEWS
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
