ポルトガルの巨匠・オリヴェイラ監督の全貌に迫る、待望のBlu-ray BOXが登場!
イチオシスト

昨年、2025年は2015年に106歳で亡くなったポルトガル映画の巨匠マノエル・ド・オリヴェイラ監督の、没後10年に当たる。その普遍性と先見性に満ち溢れた珠玉の作品群の中から、代表作「アブラハム渓谷[完全版]」(1993)をはじめ、国内初BD化、初ソフト化を含む6作品を収録した、『没後10年 マノエル・ド・オリヴェイラ2025 Blu-ray BOX【数量限定盤】』が、2月18日にリリースされる。
オリヴェイラ監督の多彩な魅力がわかる、初ソフト化を含む珠玉の6作品を収録!

オリヴェイラ監督は1931年に短編ドキュメンタリー「ドウロ河」でデビューして以来、105歳の時に発表した実質的な遺作「レステルの老人」(2014)まで、約84年にわたって映画を作り続けた。ただ初の長編劇映画「アニキ・ボボ」(1942)が興行的に失敗し、しばらく映画から離れた時期もある。80年代に入ってからは年に1本に近いペースで映画を監督し、その創作意欲は終生衰えることがなかった。
今回のBOXには「アニキ・ボボ 4Kレストア版」(国内初ソフト化)をはじめ、「カニバイシュ」(1988・国内初ソフト化)、「絶望の日」(1992・国内初ソフト化)、「アブラハム渓谷[完全版]」(国内初BD化)、「夜顔」(2006・国内初BD化)の劇映画5作品と、自伝ドキュメンタリー「訪問、あるいは記憶、そして告白」(1982・国内初ソフト化)が収録されている。
第二次世界大戦下のポルトガルを描く、少年たちが魅力的な「アニキ・ボボ」

オリヴェイラ監督はジャンル的にも多岐にわたる映画を生み出したが、収録作品を年代順に紹介しよう。「アニキ・ボボ」は第二次世界大戦中の1942年に作られたが、ポルトガルは1939年に中立宣言をして、戦争に参加しなかったこともあって、映画の中では普通の市民生活が営まれている。物語はドウロ河近郊に暮らす少年たちの日常を捉えたもので、内気な少年カルリートスとガキ大将のエドゥアルドの、少女テレジーニャをめぐる対立が描かれる。子供たちの生き生きとした演技と躍動感は今見ても新鮮で、一方で子供たちは警察の存在を極度に恐れていることもわかる。そこに民主主義者を排斥した、独裁者アントニオ・サラザール政権がポルトガル国民にどのように受け止められていたのかという、当時の状況も匂わせる。庶民生活の実状もリアルに切り取り、後のイタリア・ネオレアリズモの先駆けと言われた先見性を持った作品だ。今回は第82回ヴェネチア国際映画祭クラシック部門でプレミア上映された、4Kレストア版を収録。

「カニバイシュ」は全編オペラ調歌劇のスタイルをとり、マルガリーダとアヴェレダ子爵の愛と、その行方を描いた作品。相思相愛の二人に、マルガレーダに片思いする若者ドン・ジョアンが絡み、二人の婚礼の夜に思わぬドラマが展開する。特に後半、一気にホラーへと転換する内容も含め、奇想天外なユーモアが炸裂する怪作になっている。

「絶望の日」は19世紀のポルトガル文学を代表する作家カミーロ・カステロ・ブランコが、葛藤と苦悩の末に、拳銃自殺を遂げるに至った最期の日々までを描いている。彼の生家を舞台に、カミーロが娘に送った手紙や新聞記事、調書などから取材して、作家の人間像に迫った、オリヴェイラ作品の中で最も厳格と評される1本。病魔によって視力が失われ、その治療ためにあらゆる手を尽くそうとする作家の、焦燥と前途に対する絶望が、ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」と「パルジファル」の音楽に合わせて綴られる。
ブニュエル監督作「昼顔」のその後を描いた、ミシェル・ピコリも出演した「夜顔」

「夜顔」は、ルイス・ブニュエル監督の「昼顔」(1967)に登場する人物たちの、38年後を描いた作品。クラシックのコンサート会場で、アンリは偶然セヴリーヌを見かけ、彼女と再会するためパリの町を捜し歩く。やがて二人は出会い、アンリはセヴリーヌに38年前の真実を打ち明けると約束して、彼女を食事に誘う。「昼顔」の基本ストーリーは、アンリがバーの店員に昔話として打ち明けるので大体わかるが、アンリがセヴリーヌに渡す東洋の小箱や、セヴリーヌが知りたがるアンリの秘密に関しては、深く語られない。「昼顔」本編を観てから観賞すると、アンリとセヴリーヌのキャラクターが受け継がれていることも見て取れて、より楽しめる映画になっている。アンリ役を「昼顔」に続いてミシェル・ピコリが演じ、かつてカトリーヌ・ドヌーヴが演じたセヴリーヌを、ここではビュル・オジエが演じる。
監督が自らの人生観を綴った、興味深いドキュメンタリー

「訪問、あるいは記憶、そして告白」は1942年に建てられ、約40年間オリヴェイラ監督が暮らしたポルトの家を舞台に、彼自身が自らのルーツや家族、愛する妻とその家族の歴史、映画論や人生観、女性観を写真や古いフィルムを交えて語る自伝的なドキュメンタリー。また家の中を辿るカメラの映像に合わせて、男女の語らいが挿入されているが、そのテキストを書いたのは「アブラハム渓谷」の原作者アグスティーナ・ベッサ=ルイス。『愛に裏打ちされた純粋性のみが、世界を浄化する』など、オリヴェイラ監督の基本となる思想と信念が、彼の言葉で率直に語られ、その人となりを知る意味でも興味深い作品だ。また映画「春の劇」(1963年)を発表した当時、政権を批判して逮捕されたときの状況も監督の口から語られている。この映画は監督の死後に発表するように言いつけられていて、2015年になってポルト、リスボン、カンヌ国際映画祭、山形ドキュメンタリー映画祭で上映された。
このBOXには、64年に及ぶオリヴェイラ監督の映画人生を彩った作品が収められている。ジャンルは様々だが、そこに描かれるのは必死に生きる人間の生と、突然の死。そして普遍的な人の在り様が、時を超えて生々しく迫ってくる作品ばかり。観る者の心を豊かにする、コレクターズアイテムとして、お薦めしたい≪Blu-ray BOXだ≫。
文=金澤誠 制作=キネマ旬報社・制作部(山田)
『没後10年 マノエル・ド・オリヴェイラ 2025 Blu-ray BOX【数量限定盤】』
●2月18日(水)発売
▶Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら
●Blu-ray BOX【数量限定盤】 価格:31,680円(税込)
【ディスク】<6枚>
収録作品
■『訪問、あるいは記憶、そして告白』※国内劇場初公開&国内初ソフト化
1982年/ポルトガル/68分
【STAFF】
監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
【CAST】
声:テレーザ・マドルーガ、ディオゴ・ドリア
★1942年に建てられて以来、およそ40年間オリヴェイラが暮らしたポルトの家を舞台に、家族、そして自らの人生を辿るドキュメンタリー作品。『アブラハム渓谷』の原作者でもあるポルトガル文学の巨匠アグスティーナ・ベッサ=ルイスがテキストを手がけている、山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映された。
© Cineastas Associados, Instituto Portuges de Cinema
■『カニバイシュ』 ※国内初ソフト化
1988年/フランス、西ドイツ、イタリア、スイス/99分
【STAFF】
監督・脚色・台詞:マノエル・ド・オリヴェイラ
【CAST】
ルイス・ミゲル・シントラ、レオノール・シルヴェイラ、ディオゴ・ドリア
★マルガリーダとアヴェレダ子爵の婚礼の夜。子爵は自らが人間でないことを告白する。それを聞いたマルガリーダは錯乱。厳粛な雰囲気に満ちた貴族たちの晩餐会は、驚愕の事態へと展開。人間、動物、機械などあらゆる境界を超越し、奇想天外なユーモアが炸裂するオペラ・ブッファ(喜劇的なオペラ)映画の怪作。
© Filmargem, La Sept, Gemini Films
■『絶望の日』 ※国内劇場初公開&国内初ソフト化
1992年/ポルトガル、フランス/77分
【STAFF】
監督・脚本・台詞:マノエル・ド・オリヴェイラ
【CAST】
テレーザ・マドルーガ、マリオ・バローゾ、ルイス・ミゲル・シントラ
★19世紀ポルトガル文学を代表する小説家カミーロ・カステロ・ブランコ。葛藤と苦悩の末、拳銃自殺を遂げるに至ったその最期の日々を、調書、新聞記事や手紙などに取材し、その生家を舞台に描く。音楽にワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」と「パルジファル」を使用。オリヴェイラ作品の中で最も厳格とも評される作品。
© Madragoa Films, Gemini Films
■『アブラハム渓谷[完全版]』 ※国内劇場初公開&国内初BD化
1993年/フランス、ポルトガル、スイス/203分
【STAFF】
監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
【CAST】
レオノール・シルヴェイラ、セシル・サンス・ド・アルバ、ルイス・ミゲル・シントラ
★フローベール「ボヴァリー夫人」をアグスティーナ・ベッサ=ルイスが翻案し、原作を執筆。言葉、映像、そして音楽それぞれが自律しながら完全に精妙かつ鮮烈に調和する「文芸映画」の最高峰。男性的な世界/権力に詩的な想像力で抵抗する、主人公エマの苦悩。ディレクターズ・カット版とも言える、本来の姿でスクリーンに蘇るオリヴェイラ映画の記念碑的作品。
© Madragoa Filmes, Gemini Films, Light Night
■『夜顔』 ※国内初BD化
1983年/ポルトガル、フランス/59分
【STAFF】
監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
【CAST】
ビュル・オジエ、ミシェル・ピコリ
★ルイス・ブニュエル監督作『昼顔』(1967)の登場人物たちの38年後を描く。パリで偶然再会したアンリとセヴリーヌ。アンリは真実を打ち明けるという口実でセヴリーヌを食事に誘う…。過去をめぐり立ち上がる、欲望に満ちた謎。ミシェル・ピコリが再び「アンリ」役で登場。カトリーヌ・ドヌーヴが演じた「セヴリーヌ」にはビュル・オジエが扮する。
©Filbox Produções, Les Films d’ici
■『アニキ・ボボ 4Kレストア版』 ※国内初ソフト化
1942年/ポルトガル/77分
【STAFF】
監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
【CAST】
ナシメント・フェルナンデス、フェルナンダ・マトス、オラシオ・シルヴァ、アントニオ・サントス、ヴィタル・ドス・サントス
★ドウロ川近郊に暮らす少年たち。カルリートスは内気な夢想家で、エドゥアルドは恐れを知らぬリーダー。二人はともに、グループで唯一の少女テレジーニャに恋をしている。ある日、カルリートスはテレジーニャが欲しがっていた人形を盗み、彼女にプレゼント。そのことをきっかけに少年たちの間に緊張が高まり、カルリートスはグループから仲間はずれにされる……。1942年に故郷ポルトの街を舞台に製作された本作は、子どもたちの躍動を簡潔かつ大きなスケール感で描き、「ネオレアリズモ」を先駆けたともされる。2025年、第82回ヴェネチア国際映画祭クラシック部門で4Kレストア版がプレミア上映された。制作から80年を超える時が過ぎ、その詩的な魅力に満ちた現代性が再び注目されている。
© Produções António Lopes Ribeiro
●発売・販売元:キングレコード
記事提供元:キネマ旬報WEB
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