東京・香港で相次いだ「両替商連続強盗事件」の真相。背景に中国人富裕層の"資産逃避"が!?
イチオシスト

昨今の金市場の過熱には、アングラマネーの流入も一因と見られている
1月29日、東京・台東区の路上で男女4人組が襲われ、現金4億円あまりが奪われる強盗事件が発生した。被害者らは香港ドルに両替するため羽田空港を経由して香港に現金を運ぶ途中だったという。
そしてわずか3時間後の30日未明には、その羽田空港の駐車場で、約1億9000万円の現金を持った両替商の男性4人組が襲撃された。この時、現金は奪われず強盗事件としては未遂に終わったため、うち2人は現金を持って香港に渡航。香港島の上環にある両替店の前でタクシーを降りたところを再び襲われ、約5100万円を強奪された。
実行犯として香港警察に逮捕されたのは、日本人3人と中国人や香港住民の計6人の男女。そのなかには、襲撃された側の日本人の男も含まれていた。香港警察は、犯人グループに協力する内通者だったとみている。
【防がれた不正利ざやスキーム】海を跨(また)いで凶行に及んだ犯人らの執念も背筋を凍らせるが、億単位の現金を運んでいた被害者らの行動にも驚かざるを得ない。金融機関による決済・送金システムが発達した今、両替目的とはいえ、それほどの大金をリスクを冒して持ち運ぶ必要はどこにあったのか。

日本人らが現金5100万円を奪われた香港・上環
その動機として一部の国内報道が指摘しているのが、「消費税の不正利ざやを目的とした金塊密輸」だ。いずれの事件でも、貴金属店で金を売却して得た現金である事実が浮上していることを根拠としたものだ。
2月1日付けの読売新聞は「金の取引を巡っては、価格が高騰する中、密輸などで消費税の納付を逃れた上、日本国内で買い取り業者に消費税込みの価格で売り、利ざやを不正に得るケースが相次いでいる」などと報じている。
これについて、元国税職員で税理士の松嶋洋氏が解説する。
「かつて、金地金(金塊)に消費税が課税されない香港や台湾、シンガポールで購入した金地金を日本で売却することで、消費税分の利ざやを不正に得るというスキームが横行しました。法律上は、純度90%以上の金地金を1キロ以上、日本に持ち込む際には、税関への申告と消費税を支払いの必要がありますし、海外からの持ち込み品のうち免税範囲の20万円を超える部分についても課税されます。しかし、手荷物に紛れさせて密輸することで申告と課税を逃れていたのです」(松嶋氏)
ただ現在、このスキームに頼って利益を上げることは、ほぼ不可能だという。
「2019年、消費税が10%に増税されることを前に、制度の穴を埋めるための税制改正が行われ、貴金属買取り業者も出所不明の金塊を取り扱わなくなりました。現在でも、業者でなく一般消費者に売ったり、溶解・再精錬するなどして小口で買取業者に持ち込んだりすることで消費税を受け取ることもできますが、消費税分の10%の利ざやを狙っていたのではコストに見合わないと思われます」(松嶋氏)
【香港に滞留するアングラ資金】ただ、金塊密輸が根絶されたのかといえば、そうではない。
全国の税関が2025年6月までの1年間を対象に行った調査によれば、「関税および内国消費税」の脱税額は約7億円と前年同期比で79%増となっている。なかでも金地金の密輸による脱税額が9割を占めており、金塊密輸はむしろ増加傾向にあるのだ。
昨年3月には、香港国際空港の税関貨物検査場で日本へ向かう旅客の手荷物から、金地金約145キロが見つかり、香港税関に押収されている。これは量としても時価としても同税関での過去最大規模の押収量だという。

被害者らは、香港上環の両替店を訪れるため、店の前でタクシーを降りたところを襲撃された
これについて松嶋氏は「密輸する以上、通関時の申告も消費税支払も行われないため、副次的に脱税状態になりますが、ほとんどの金塊密輸の主な目的はマネーロンダリングもしくはアングラ資産の移動でしょう」と指摘する。
事実、香港には今、「表に出せない資金」が大量に集積しているという。中国人ジャーナリストの周来友氏が話す。
「コロナ禍以降、中国の富裕層は国内資産をさかん海外に逃避させています。2024年までの1年間には、40兆円もの資産が中国から流出したという推計もあります。長らく中国からの資産逃避の中継地点であった香港には、中国からのマネーが滞留している。
ただ、そうした逃避資産は、中国政府に監視されている香港の金融機関で預金や証券にすることははばかれるため、仮想通貨や金塊として保管されていることが多い。そうした金塊は表に出せないため、相対取引などで割安に流通しており、最近、金価格が上昇局面にあることから、各国から業者が買い付けに訪れている。
日本でも、密輸によって通関時の消費税支払いを逃れられれば、国内で消費税を受け取らずに売却したとしても利ざやは十分に確保されるはずです」(周氏)
今回の連続強盗の被害者らも、こうした動きと関係があったのだろうか。ちなみに羽田空港の駐車場で襲われた被害者のひとりは、昨年11月にも、東京中央区に駐車中の自家用車の窓ガラスを割られ、米ドルやユーロなどの外貨現金9500万円相当を盗まれる被害にあっていたことが明らかになっている。にもかかわらず、無防備に大金を持ち運ぶという行動を改めなかったことには、特段の事情があったと思わざるを得ない。
一方で、犯人グループについて、香港でも買い付けを行う貴金属商がこう見立てる。
「おそらく、香港で金や仮想通貨の相対業者か、それと繋がりのあるグループでしょうね。共通する顧客がいれば、どの程度の規模の取引を行っているかなど、他の業者の情報も得ることができ、狙いを定めることができますから」(貴金属商)
中国からの資産逃避の動きが、海を超えた日本で強盗事件を誘発しているとしたら、恐ろしすぎる話である。
文/吉井透 写真/pixta.jp、Expro Ltd.インスタグラム、香港警察
記事提供元:週プレNEWS
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