伊是名島で出会った正真正銘の「海人」の話 アオリイカともずくが繋いだ冬の記憶

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6年前の夏、伊是名島へ 筆者が初めて伊是名島を訪れたのは、6年前の夏だった。 伊是名島(アイキャッチ画像提供:TSURINEWSライター杉浦永) 強い日差しに照らされた白い伊是名ビーチと、港に漂う潮の …
イチオシスト
6年前、伊是名島で出会った一人の海人がいる。彼はもずく漁師で、冬になると決まってこう言った。「今、アオリがいい」それは近況報告でも、世間話でもなかった。伊是名島へ来い、という合図だった。
(アイキャッチ画像提供:TSURINEWSライター杉浦永)


6年前の夏、伊是名島へ
筆者が初めて伊是名島を訪れたのは、6年前の夏だった。
伊是名島(アイキャッチ画像提供:TSURINEWSライター杉浦永)
強い日差しに照らされた白い伊是名ビーチと、港に漂う潮の匂い。観光というよりも、ただ海を見に来ただけのような、そんな気持ちで島を歩いていた。まだこの時は、この島で特別な出会いが待っているとは思ってもいなかったのだ。
1人の漁師と出会う
最初の出会いは、本当に何気ないものだった。港で船の整備をしていた彼が、こちらに気づいて声をかけてきた。「釣り、やるのか?」その一言から、すべてが始まった。彼はもずく漁師。伊是名島の海に育てられた男だ。
もずく漁師との出会い(アイキャッチ画像提供:TSURINEWSライター杉浦永)
彼は生まれも育ちも伊是名島。幼い頃から海が遊び場で、大人になってからは仕事場になったという。冬はもずく漁に出て、漁の合間に釣りをする。天気と潮を見て一日を決める生活。伊是名の海とともに生きてきた、正真正銘の海人だ。
すぐに意気投合
口数は多くないが、海の話になると途端に饒舌になる。どこで潮が変わるのか、ここにはどんな魚が住んでいるか。まるで伊是名の海そのものが、彼の頭の中に収まっているようだった。ぶっきらぼうな言葉の奥に、海への敬意と誇りが滲んでいた。
冬に鳴る電話
冬になると彼からの電話が鳴る。伊是名島へ来い、という合図だそれから、冬が近づくと彼から一本の電話が来るようになった。長い会話はない。「今、アオリがいい」それだけだった。
筆者は仕事の予定を調整し、荷物をまとめ、伊是名島へ向かう理由としては、これ以上ないほど明確だった。
アオリイカ狙いのエギング
冬の伊是名島で、彼が教えてくれた釣りはアオリイカだった。派手な説明はない。ただ、「今が釣れる」と言うだけだった。
彼の作るエギ(アイキャッチ画像提供:TSURINEWSライター杉浦永)
彼の仕掛けはお手製のオリジナルエギを使う。
冬の伊是名島
伊是名島の海は一年を通して澄んでいる。ただ、冬は穏やかとは言い難い。北風が吹けば海はすぐに荒れ、出船できない日も珍しくない。それでも、わずかな凪のタイミングを逃さず、彼は海へ舵を取る。
大型のアオリイカ(アイキャッチ画像提供:TSURINEWSライター杉浦永)
島の周りには大型のアオリイカが差してくる。静かな海の中で、確かに何かがいる。そんな気配がひしひしと伝わってくる。
3~4kg級は当たり前
本州では記録級(アイキャッチ画像提供:TSURINEWSライター杉浦永)
3kg、4kgクラス。時には5kgオーバー……。本州では記録級とされるサイズが、ここでは特別な存在ではない。実際に掛けた瞬間、その重みで言葉を失った。伊是名島の海の豊かさを、体で理解する瞬間だった。
ヘビータックルが必要
違和感の直後、ロッドをひったくるような強烈なバイト。ドラグが鳴り、ラインが引き出される。一瞬の油断が、すべてを失うことにつながる。
大型がヒットする(アイキャッチ画像提供:TSURINEWSライター杉浦永)
彼がアオリイカ釣りで200g前後まで背負えるジギングタックルを流用しているようにヘビータックルを勧める理由が、はっきりと分かった。
釣り場の探し方
釣り場は岩礁帯と藻場が複雑に絡み合うエリア。水深は30m前後あり、潮の影響を強く受ける。
彼の釣りは現代のGPS魚探を使わない。山立てでの釣りだ。だから彼はポイントの名前をほとんど口にしなかった。
良型キャッチ(アイキャッチ画像提供:TSURINEWSライター杉浦永)
潮の動きを見ながら、浅場へ差してくる個体を狙う。伊是名島では、水深のある沖だけがポイントではない。
こちらもグッドサイズ(アイキャッチ画像提供:TSURINEWSライター杉浦永)
風向きと潮位、わずかな流れの変化で、アオリイカは一気に浅場へ寄ってくる。「今いる」彼がそう言った時だけ、筆者はエギを静かに海へ落とす。キャストの方向も、立ち位置も、彼の一言ですべてが決まった。無駄な動きはない。海の中の状況を、すでに見終わっているかのようだった。それ以上の説明は必要なかった。彼の「今いる」は、これまで外れたことがなかったからだ。
もう一つの醍醐味「もずく漁」
冬の伊是名島でもう一つ忘れられないのが、もずく漁だ。夜明け前、まだ暗い港に立つと、空気は冷たいがどこか心地よい。
もずく漁へ(アイキャッチ画像提供:TSURINEWSライター杉浦永)
海に入ると、一面に広がるもずく畑。波の音と、もずく吸い上げ機の作業の音だけが響く。彼は黙々と作業を続ける。釣りの時とは違う、仕事人としての海人の背中がそこにあった。
もずく漁場(アイキャッチ画像提供:TSURINEWSライター杉浦永)
採れたてもずくの美味しさ
作業のあとに食べた採れたてのもずくは、驚くほど美味しかった。余計な味付けはいらない。伊是名島の海の恵みを、そのまま口にしているようだった。
採れたてのもずく(アイキャッチ画像提供:TSURINEWSライター杉浦永)
鳴らない電話
去年の春から、あの港は少し静かになった。冬になっても、あの電話は鳴らない。それでも港の景色は何も変わらない。
静かになった港(アイキャッチ画像提供:TSURINEWSライター杉浦永)
別れ際、彼は多くを語らなかった。多くを語る人ではなかったし、いつものことだった。それでも彼の口癖が心に残る。「いちゃりばちょーでー」出会えば皆兄弟。その時はただ、伊是名島の海と同じように、その言葉が静かに胸に残った。
伊是名島の海(アイキャッチ画像提供:TSURINEWSライター杉浦永)
冬になると、その言葉とともに伊是名島を思い出す。アオリイカが差す浅場。もずく畑の向こう側、そして港で一服する彼の姿。言葉を交わさなくても繋がっている。そう思える出会いだった。
伊是名島への思い
釣りが特別な遊びではなく、暮らしの一部としてそこにある島。伊是名島は、そんな場所だった。
一人の海人と(アイキャッチ画像提供:TSURINEWSライター杉浦永)
アオリイカと、もずくと、そして一人の海人。この島で過ごした冬の記憶は、これからも静かに筆者の心の中に残り続ける。また、帰りたくなる。伊是名の海は、いつでもそう思わせてくれる……。続く。
<杉浦永/TSURINEWSライター>
記事提供元:TSURINEWS
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