【ルポ・ニッポンの廃校再生物語】AIデータセンター、水族館、醸造所、ウナギ研究所......。新たな地域再生の希望の拠点!?
イチオシスト
年間およそ450校が廃校になるという日本の公立学校。一見、負の遺産と化したように思える、この巨大な遊休資産が、新しい地方創生の鍵となる可能性を秘めているかもしれない。廃校を地域再生のシンボルとして復活させようとする熱き人々の現場を追った!
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【佐賀の廃校がAIデータセンターに】文部科学省によれば、毎年約450もの公立学校が廃校となっているという。少子化と過疎化の波は、この20年間で8500校以上を廃校へと追いやった。
地域の象徴であった学びやが、その役目を終え、静かにたたずむ姿は、日本が直面する深刻な人口減少社会の写し鏡だ。
一方で新たな希望も芽吹きつつある。人口わずか5000人ほどの佐賀県玄海町。県内で最も人口の少ない町として知られるこの地に、今年8月、廃校を活用した生成AIのデータセンターが誕生した。
10年前に閉校した旧有徳小学校の校舎、その2階部分を改装し、高性能GPUを搭載したサーバー120基を設置。開設したのは東京のIT企業ハイレゾだ。
データセンターに玄海町を選んだ理由を、同社の志倉喜幸代表はこう話す。

玄海町データセンター(佐賀県) 地方に住みながらIT企業への就職を希望している層への受け皿にもなっているという

「上物も新築に比べて一定のコストを抑えることができた。一方で建築当時の資料が揃っていないなど、廃校ならではの苦労もあった」(志倉氏)
「データセンターは大量の電気を消費するため、電気代の安い土地を探す必要があります。これまで石川県などの地方にデータセンターを設立してきましたが、上がり続ける電気代は大きな課題でした。
その点、玄海町は原子力発電所立地自治体として企業の誘致支援策があり、電気代などの維持管理費を抑えられるメリットがありました。
そこで町内への建設を検討していたところ、玄海町のほうから廃校利用を提案いただいたのです」
実際、学校の校舎は面積や耐震性能の面でデータセンターにうってつけだった。
「これは弊社として願ってもないことと契約に至りました。玄海町からは『町民を雇用してほしい』との要望があり、地元で採用した5人で運営を開始しました。地域の雇用を広げるため、今後も段階的に人員を増やしていく方針です。
地域の方々からは、『廃校が雇用の生まれる場になって良かった』との声もいただきました。すでにほかの地方自治体からも誘致の相談を受けており、来年春には香川県綾川町でも廃校を活用したデータセンターを開設予定です」
玄海町に限らず、今や全国の自治体で多くの学校が閉校を余儀なくされ、その新たな活用方法が模索されている。
長年にわたり地域活性化に携わり、『学校統廃合と廃校活用』などの著書もある嶋津隆文氏(フォーラム自治研究理事長)は、次のように語る。
「地元の学校は人々の思い出が詰まった大切な場所であり、地域のコミュニティの中心として災害時には避難所になります。
だから、安易に商業施設などにするわけにはいかず、そもそも過疎地では企業の誘致自体が難しい。そのため、廃校の有効な利活用には各自治体が頭を悩ませています」
この課題は文科省も認識しており、15年以上前から廃校利用を積極的に支援する学校施設の制度改革も行なってきた。
「従来、国庫補助を受けて建設された学校施設を学校以外の用途に転用または売却する場合は補助金の返金が必要で、廃校利用の壁でした。
そこで文科省は国庫補助を受けた施設でも、10年以上経過した場合は返金不要としました。ここから全国で廃校利用が活発になりました」
その結果、現在では施設が現存している約7500校のうち7割超に当たる約5600校もの廃校が、実にさまざまな形で活用されている。しかし......。

「そのすべてが成功しているわけではなく、企業を誘致しても地域住民に歓迎されず、ビジネス的に失敗してしまったケースも少なくありません。学校という施設は地域と深く結びついているため、廃校利用の成否は、事業の収益性だけでなく、土地の風土や文化にも左右されます。
だから、『こうすれば成功する』という法則はありません。それでも成功例に共通点を見いだすとしたら、『この土地をなんとかしたい』との〝熱意ある人〟がいるかどうか。そこに尽きます」
【旧ソ連出身の女性が秩父の廃校で酒造り】熱意ある人が廃校再生プロジェクトを成功に導く――。秩父の山奥の廃校を今注目の醸造所に生まれ変わらせた工藤エレナ氏(37歳)は、まさにその言葉にふさわしい人物だ。
「ソ連時代にウクライナ人の父と、ロシア出身の母の下に生まれました。日本に移住したのは4歳のとき。コンピューターグラフィックの研究をしていた父が、ソ連崩壊後に大学の教授として招かれたことがきっかけでした。日本にはすぐなじめて、会津弁も覚えました。今もなまりが残っていますけど(笑)」
そう流暢な日本語で話すエレナ氏は現在、都心から車で3時間ほどの山あいにある、埼玉県小鹿野町の旧倉尾中学校の建物を活用し、「ミード」という酒の醸造所を営む。
蜂蜜と水に酵母を加えて造られる酒で、西洋の伝説や神話にも登場することから「世界最古の酒」とも称される。
「埼玉の秩父エリアはビールやウイスキーなどが造られる酒どころとして有名です。中でも小鹿野町は今も養蜂家が活動しており、原料の確保にも便利でした」
若い頃から「のんべえ」だったというエレナ氏は、23歳のときに地元・会津の「峰の雪酒造場」でミードに出合う。同社は日本では珍しいミード造りに力を入れてきた酒蔵で、この分野の先駆者だ。
初めて飲んだミードの味に衝撃を受けたエレナ氏は、「私もこれを造りたい」と夢を抱く。一時は生活費を稼ぐためにIT企業でECコンサルタントとして働くも、結婚を機に一念発起。峰の雪酒造場と組んでミードの開発と販売に乗り出した。
「ただ、醸造所の施設探しは大変でした。建物として基礎が丈夫で、敷地も広くて使いやすいことから、私たちは最初から学校、それも体育館を希望していました。
ですが既存の体育館は部活動などで使われていたり、災害時の避難所に指定されていたりして利用が難しかった」
1年ほどたったとき、町役場から提案されたのが旧倉尾中学校だった。
「廃校になり随分たち、周辺の過疎化も進んでいたことから、町役場の人は『もっと新しくてきれいな場所がいいだろう』と考えていたようです。でも、水も空気もきれいなこの地は、お酒造りには最適。むしろ、ここが残っていてラッキーでした」

ディアレットフィールド醸造所(埼玉県) ディアレットは小鹿、フィールドは野。組み合わせて「小鹿野」。ロゴデザインの基は旧町立倉尾中学校の校章

体育館の1階にあった駐車スペースを醸造所に、2階のアリーナを倉庫として活用しているという
19年に家族で移住すると、醸造所の工事に着手。生後間もない息子の子育てと、第2子となる長女の出産にも追われながら、21年にミード専門の「ディアレットフィールド醸造所」を開設した。
「あの時期は地獄でした(笑)。どれだけ大変なことか、計算していなかったからできたのだと思います」
ファンタジー作品などに登場する酒が実際に飲めるとSNSで話題になり、今は年間約1万5000本を出荷する規模に成長。しかし、建物の老朽化など心配事は絶えない。
何より小鹿野町の人口は年々減り続けている。過疎化が進むことで町そのものが消滅してしまえば、醸造所の維持も困難になるだろう。
「だから、町の人口を増やすために移住コーディネーターもやっていました。今は企業の誘致にも関わっています。小鹿野は本当にいい所だし、私の子供たちの故郷でもある。醸造所が成功しても町が衰退したら意味がない。醸造所と地域全体の両方を盛り上げていきたいですね」
【地域貢献と事業の両立を目指す】もっとも、廃校利用の問題は過疎地限定ではない。兵庫県神戸市。関西でも有数の都市でありながら、近年、郊外の地域では少子化や人口流出が止まらず、学校の統廃合が進んでいる。
そんな神戸市の兵庫区で15年に閉校した旧湊山小学校の土地と建物を活用して誕生したのがNATURE STUDIOである。市の中心部から車で15分ほどの土地に水族館や飲食店などが一体となった複合施設として22年7月にオープンした。

NATURE STUDIO(兵庫県) 水族館やレストランのほか、クラフトビール醸造所、フードホール、学童、保育施設、介護施設なども入っている
開発事業者は神戸市で3代にわたって建設業を営む村上工務店。同社の代表であり、施設の運営会社リバーワークスの代表も務める村上豪英氏が、開業の経緯をこう話す。
「この地区は自然が豊かで、昔ながらの街並みも残る歴史ある地域。特に小学校があった場所は、古くは平清盛が暮らした御所の跡地ともいわれています。
つまり、街にとって象徴的な土地でもあります。この場所を単なる商業施設にするのはもったいない。地元住民が集まると同時に、遠くからも遊びに来たくなる施設にできたら、この地区を活性化できるのではないか。そう考え、計画を市に提案しました」
施設の建設中にはコロナ禍もあり、工事が計画どおりに進まないといった困難もあった。しかし、いざ開業すると市外からも多くの人が訪れる人気の施設となった。

一番人気は理科室や図書室をリノベーションして造った水族館。休日は遠方からも観光客が訪れる
「やはり人気は校舎の1階を改装した『みなとやま水族館』。遠方の来館者も多く、施設全体に人を呼び込む役割を果たしてくれています」
水族館のほか、敷地内で育てたハーブを提供するレストラン、校舎の一画を改装したクラフトビールの醸造所、地元企業が運営するフードホールなど多様な施設がそろう。
特にフードホールはセントラルキッチンの機能も備え、市内各地の飲食店への商品提供と在庫管理も行なう。

もともと給食室だった部屋を利用したビール醸造所。神戸の地下水を利用するなど、素材にもこだわっている

校庭スペースにはさまざまな植物が植栽されており、「食べる植物園」というレストランでそれらを堪能できる
「醸造所やフードホールは集客が難しい平日にも安定して〝外貨〟を呼び込むための手段でもあります。そもそも廃校になったエリアに新たに人を呼ぶことは簡単ではありません。生産の拠点も兼ねることで、施設利用の収益だけでなく、ここで生まれた商品からも収益を得られる仕組みをつくり、事業の持続性を保っています」
また、施設内には学童保育や就労支援施設もあり、館内で働くスタッフが子供を預けたり、就労支援施設のメンバーが清掃スタッフとして従事していたりと、地域貢献のための工夫も凝らされている。
しかし、もとは新築マンションを中心に取り扱う建設会社だった村上工務店が、なぜここまでの施設を造ったのか。
「最近のメディアで『注目の地域』として取り上げられるのは、ほとんどがインバウンド景気に沸く観光地です。地方の中小企業の経営者としては、そういうニュースに接するたび、『では観光地になれない土地は衰退するしかないのか』という気持ちになる。
しかし、そんな未来を受け入れることはできません。この施設を通じて、地方の民間企業でも本気でやれば、地域活性化に貢献できるという姿を見せたかった。
特に学校は地域のシンボルでもある。それが生まれ変われば、地域は必ず元気になる。全国の経営者がこの施設をヒントに、『自分も地域のために挑戦してみよう』と思ってくれたらうれしいですね」
全国的に少子化が進むなか、廃校は今後も増え続けるだろう。廃校再生の重要性は、これからも増す一方だ。
取材・文/小山田裕哉 撮影/宮下祐介
記事提供元:週プレNEWS
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