地区からナショチ、そして世界へ― 日本ゴルフ界底上げへの“重要地点”に注ぐJGAの情熱「不均衡な部分を同じようにしたい」
イチオシスト
日本ゴルフ界の底上げを-。今月2~4日に、宮崎県のトム・ワトソンゴルフコースで開催された「ユニクロ日本ジュニアゴルフカップ2025/ 8地区対抗戦」は、そんな想いが詰まった大会だった。今年が9度目の開催だが、世間的な認知度は決して高いとはいえない。だが主催する日本ゴルフ協会(JGA)にとっては、ジュニアゴルファー育成において重要な位置につける大会だ。その意義などについて、JGAで発掘・育成委員会の委員長を務める堀田勝市氏に話を聞いた。
2015年から始まったこの大会は、“8地区対抗戦”という名前の通り、全国8地区(北海道、東北、関東、中部、関西、中国、四国、九州)のゴルフ連盟に所属するジュニアたちが、男女3人ずつのチームで地区優勝を争う形式で行われる。出場するのは、アマチュア日本代表とも言えるJGAナショナルチーム入りまで“あと一歩”の選手たち。とはいえ、これまでに古江彩佳、山下美夢有、岩井千怜、竹田麗央ら、今では世界を舞台に戦う選手も含め、トップレベルに成長した名前が多いことに驚かされる。堀田氏は、この大会を始めた意義について、こう説明する。
「そもそも発掘・育成委員会というのは、日本全国からジュニアを発掘して育成するというのが目的。現実問題として、地区によってレベルや環境もまるで違う。その不均衡な部分を、できるだけ同じようにしたい、というのが最初の意義でした」
強化選手に対し、そろいのウェアやキャディバッグまで手渡せる地区もあれば、それがかなわない地区もあるという。当然ながら育成環境も違いが生じてくる。ジュニア層の精鋭が集うナショナルチームに入ると、多い選手では年間10試合ほどの海外経験を積めるというが、地区強化選手のなかにはパスポートを持っていないという子どもも珍しくはない。この8地区対抗戦は、ナショナルチーム入りへ重要な指標になるアマチュアポイントランキングへの反映も、もちろん行われる。地区から全国へ、全国からナショナルチームへ…そして世界へ―。それをイメージできる、ひとつの道筋になっている。
そもそも、この8地区対抗戦の成り立ちを語るうえで、ナショナルチームの強化という点を切り離すことはできない。
「ナショナルチームが弱くなった時に、“さて、どうしたもんか”となりました。ナショナルチームまでもう少しという選手のなかにも、優秀な選手は必ずいる。それを発掘するために委員会も作られました。ナショナルチームへの橋渡しが私たちの仕事。この大会から上に行ければ、ナショナルチームの合宿に参加できたり、世界と戦う経験を積むことができる」
2010年代、ナショナルチームが世界と対等に戦えない時代が続いた。52年ぶりの日本開催となった14年の「世界アマ」(軽井沢)では、トータル38アンダーで優勝した米国に対し、日本はトータル12アンダーの29位タイに終わった。この惨敗をキャプテンという立場で目の当たりにしたのが堀田氏だった。そして、ここが大きな分岐点になる。
「それから、もう1度ナショナルチームを考え直さないといけないという流れになりました、それで(15年にナショナルチームのヘッドコーチに就任した)ガレス・ジョーンズが出てきたりもしたんです」
8地区対抗戦が15年に第1回目を迎えたのも、偶然ではない。ナショナルチーム、ひいては日本ゴルフの将来への危機感が生み出した大会とも言える。同席したJGAの内田愛次郎氏は、こう補足する。
「堀田さんはナショナルチームの委員長も務め、弱い時の状況も知っている。発掘・育成の目標はナショナルチームに入る選手を見出すことですが、その後、どう強くなったのかというと、しっかりチームマネジメントをして、世界選手権で戦い、自分たちがどれくらい強化されたかを確かめるという段取りが必要でした。そして課題を持ち帰って強化する。地区の選手もそれぞれが所属する8地区で強化はしているけど、それを試す場所が必要となり、そこで大きい大会を作った方がいいという流れになりました。これによって、最初からナショナルチームでする経験を積めるということも利点として挙げられます」
選手の成長曲線は人それぞれ。ジュニア時代から著しく成長する選手もいれば、プロになってから大きく伸びる選手だっている。ナショナルチームには入れなくても、ひとりでも多くの選手が、そこで伝えられる育成術に触れておくことが、後に生きるかもしれない。8地区対抗戦がチーム戦を採用しているのも、ナショナルチームが目標にする「世界アマ」がチーム戦で行われるから。すべては“上”につながっているというわけだ。
そして大会は、今年ひとつの転換期を迎えた。世界的企業の『ユニクロ』が特別協賛についたことにより、プラスの変化が生じることになる。その一例として、選手にユニフォームが支給され、統一が生まれることになったが、一番の注目は、この大会から海外に派遣される選手が増えたという点だろう。
一般財団法人ファーストリテイリング財団協力のもと、男女ともに個人戦優勝者には来年の「オーストラリアアマ選手権」、「オーストラリア女子アマ選手権」の出場権を付与。また、個人優勝者が出た地区以外の代表者1名ずつが、来年開催の「オーストラリアン・マスター・オブ・アマチュア」に派遣される。これまでも優勝者のみ1名は派遣されたが、その数が大幅に拡大。「今回は地区から必ず1人は行けるというのはすごいインセンティブ。オーストラリアに行きたいとみな言っています」(堀田氏)と、これがモチベーションにもなっていた。この他にも、韓国チームの初参戦も実現。より世界を近く体感する舞台になった。“グローバル化”。それは大きなキーワードになる。
今年も参加者のなかから、女子の下部ツアーでアマチュア優勝を果たした後藤あい(松蔭高2年)や、佐藤涼音(りの、ルネサンス大阪高1年)、小田祐夕(ゆうゆ、長門高1年)の3人が来年のナショナルチーム入りを決めた。「この大会でアマチュアランクのポイントが入り、オーストラリアに行くとそこでもポイントが得られて、物理的にもナショナルチームが近くなる。1月には(地区強化選手対象の)合宿が行われ、そこでは『ナショナルチームはこういうことをやっているのか』と心理的にも近くなる。この2つをはめ込んで、あとは地区で年間でやっている合宿で補う」(内田氏)というサイクルが、作り上げられている。
20、21年はコロナ禍で大会が中止になったこともあり、8地区対抗戦は来年に節目の10回目を迎える。今年の開幕前には現在、女子ツアーで活躍する“大会OG”の桑木志帆が来場し、後輩たちに声援を送った。「ここから巣立った選手が恩返しをしたいという気持ちになり、それが循環すれば、卒業生たちも強化を活性化してくれる。どの地区も置いていかない。我々はファミリーですから、そこに入ったら1人も置いていかないという気持ちでやっています」。日本ゴルフ界の底上げ。そにに向けた情熱を、肌で感じる大会でもあった。(文・間宮輝憲)
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