頭脳明晰なチンパンジーが女子大生を襲う! 本物ならではの恐怖が見事な動物ホラー 『リンク』
イチオシスト
飯塚克味のホラー道 第142回『リンク』
昨今、歴史ある映画スタジオが配信会社によって買収されるかどうかが大きなニュースになっている。コロナ禍が明けても映画館に客が戻らず、脚本家と俳優たちが起こしたストライキによって、作品数が減少したことも影を落としている。だがもう20年以上も前から、ハリウッドは続編頼みの企画不足状態で、それなのに大作には信じがたいような大金を投じて、大博打を打ち続けてきていた。ヒットするものもあれば、コケる作品もあって、どう考えても企画力の貧しさをアピールするような状態だった。今回、紹介する『リンク』は、金はなくてもアイデアは満載で、小粒でも映画の面白さを存分に感じさせてくれる。
イギリスに動物学の勉強にやって来た女子大生のジェーンは、憧れの教授フィリップが、夏休みの間、田舎にある屋敷で、チンパンジーの世話をしてくれる助手を募集していることを知り、立候補する。行ってみると、そこには執事のような服を着たチンパンジー、リンクがいた。教室と違い、感情的になることが多いフィリップだったが、ある日、突然、姿を消してしまう。ジェーンは猿と屋敷に残され、不安な日々を送るのだが、リンクは次第に凶暴性を発揮していく。
女子大生を演じるのは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の『PART2』(1989)と『PART3』(1990)でヒロインのジェニファーを演じたエリザベス・シュー。本作はデビュー作『ベスト・キッド』(1984)直後の出演で、主役への意気込みも感じられる。フィリップ教授には今年、惜しくも他界した名優テレンス・スタンプ。何をやっても存在感を際立たせてくれるが、本作でもしっかり重要なポジションをこなしている。監督はオーストラリア出身のリチャード・フランクリン。『サイコ2』(1983)でハリウッド進出し、続く『ビデオゲームを探せ!』(1984)も好評を博しての本作となった。ポスト・ヒッチコックと呼ばれたが、2007年にがんでこの世を去っている。
映画業界では子どもと動物にはどんな名優も勝てないと言われているが、本作は正にその言葉通りで、劇中に登場する本物の猿から目が離せない作りになっている。機械や道具を器用に使いこなす場面も見事だが、一番、印象に残るのはシャワーを浴びようとして裸になったエリザベス・シューを見つめるリンクのいやらしい目つきだ。そのあまりのスケベ爺さん的な目つきに、シューも思わずシャワーを浴びるのを止めてしまうのだが、彼女がオールヌードを披露していることもあって、男性の観客はリンクに自身を重ねて、どうにも困った気分になってしまったものだ。
画質は4Kスキャン・レストアしただけあって、非常に優秀。自分は東京国際ファンタスティック映画祭’86で上映された時、渋谷パンテオンという大劇場で観たのだが、当時の記憶を蘇らせてくれるものだった。音声はステレオの英語とテレビ版の吹替を収録。特典は音声解説、削除シーン、音声のみの監督インタビュー、テーマ曲の初期バージョンなど充実の内容。配信では味わえないディープな楽しみ方ができる。
登場人物は少ないが、最近の下手なハリウッド大作より遥かに映画の面白さを実感させてくれる一本として、自信を持って推薦したい。特に『猿の惑星/キングダム』(2024)のような大作に不満を覚えた人ならば、満足度は高いはずだ。こういう映画を当たり前に作れるようになったら、ハリウッドもかつての栄光を取り戻せるのではないだろうか?
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飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。
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