外国人介護士ぶっちゃけ座談会「日本語は難しいけど、『鬼滅の刃』で敬語を覚えました」
イチオシスト

サービス利用者に日本語や日本文化を教わることも多い。教える立場になることで利用者の自己肯定感がアップするんだとか
介護業界の人手不足が止まらない。事業者の倒産も相次ぐ中、「日本で働きたい!」と海を渡り、介護業界で働く外国人がいる。日本の介護現場を支える彼らの心の内を全部ぶっちゃけてもらった!
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【アニメ好きが高じて日本に】日本の生産年齢人口は1995年の約8700万人から2023年には約7400万人まで減少し、出生数も24年に70万人を割り込んだ。政府は「異次元の少子化対策」を掲げるものの、効果は見えない。
帝国データバンクによれば、24年の人手不足倒産は342件で前年比31.5%増加した。中でも介護業界は深刻で、東京商工リサーチによると、24年度の介護事業者の倒産件数は179件と過去最多を記録。倒産の背景には、利用者獲得の競争激化に加え、介護人材の不足が重なったことが大きい。
また、厚生労働省の推計では40年度に約280万人の介護職員が必要だが、現状では69万人が不足する。そんな中、今や外国人労働力は不可欠なピースなのだ。そこで、介護現場で働く特定技能外国人4人に現場のリアルを聞いた。
《座談会参加者》
Aさん......20代のタイ出身女性。来日5年目。グループホーム勤務。
Bさん......40代のネパール出身女性。来日3年目。老人ホーム勤務。
Cさん......30代のフィリピン出身女性。来日3年目。老人ホーム勤務。
Dさん......20代の中国出身男性。来日5年目。障害者支援施設勤務。
※個人情報保護のため、氏名および一部の情報は変更してあります。

介護事業者の倒産件数推移 介護事業者の倒産件数は増加傾向で、昨年度は過去最多の179件に達した。出典:東京商工リサーチ「2024年度『介護事業者』倒産 最多の179件 前年度から3割増、報酬改定の『訪問介護』が半数」(https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1201279_1527.html)
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――日本語はどうやって習得しましたか?
A 私は『鬼滅の刃』『進撃の巨人』『チェンソーマン』『ブルーロック』などの日本のアニメで勉強しました。
一同 アニメで勉強する人は多いですよね。
A ええ。特に『鬼滅』は敬語の勉強に役立ちます。柱合会議(鬼殺隊の柱たちが当主の前で開く会議)のシーンで、産屋敷さんと柱が話しているときは敬語がたくさん出てきますから。「召し上がります」「ご覧になってください」などはここで学び、介護現場で役立てています。あと、わからない漢字があればスマホアプリで調べることもありますね。
B 私は利用者さんに何度も質問して、言葉を教えてもらいました。老人ホームで102歳の利用者さんと話すのが楽しいんですよ。戦争の経験とか、昔の話をたくさん聞かせてもらいます。名前も覚えてくれて、会うと「ナマステ」とネパール語で挨拶してくれるのがとてもうれしいです。
C 私は、YouTubeで歌や会話を聞きながら日本語を覚えました。
D 僕は中国語で書いた文章を、ChatGPTで日本語の敬語に変換しています。中国語の敬語は日本語ほど複雑じゃないので、ChatGPTがないと難しい。ビジネスメールに利用したり、次のシフトの人への引き継ぎ内容をタブレットに入力する際に活用しています。
A ちなみに、タイの知人の話になりますが、彼は『NARUTO-ナルト-』などのアニメを見て育ち、日本に来ました。プレス工場で3年働いたのですが、指示を受けたり通訳が入ることばかりで、日本語を使う機会が少なかったみたい。
どうにか日本語を覚えたいということで特別養護老人ホームに転職し、今は利用者さんや日本人スタッフとのコミュニケーションから学んでいるそうです。

かつては日本語のライティングスキルも高い壁となっていたが、今はAIを活用して翻訳させることでハードルがかなり低くなったという
――経済的な負担はありますか?
C 私はきょうだい8人と両親の10人家族なので、給料の半分ほどを仕送りしています。
A えー、そんなに!
C 妹たちの学費や、脳梗塞の母の医療費の負担が大きいんです。フィリピンは医療保険制度が事実上機能していないので、ほとんど全額自己負担になる。私の給料は24万~25万円で、夜勤があるともう少し増えます。こうした賃金面に魅力を感じて日本に来ました。
フィリピンだと仕送りは文化として浸透していて、親やきょうだいのために働くのは普通のこと。だけど、国では富裕層しか介護サービスを使えません。日本人の高齢者のケアはできるのに、自分の親の介護はしてあげられないんです。
B 私も同じくらい仕送りをしています。夜勤もあって、給料は25万~30万円くらい。子供ふたりが大学生で、学費と生活費のために仕送りしているんですが、そのせいで自分の生活が少し苦しいですね。
A 日本は物価も家賃も高いですよね。夜勤をやらないと給料が足りず、仕送りも大変。ただ私の親は、自分の生活を優先し、余れば送金してくれたらいいという方針です。タイは家族に定期的に仕送りする文化ではないですね。最近はあまりしていないけど、必要があれば無理のない範囲でお金を送っています。
――職場での人間関係はどうでしょう?
C 言葉の壁や文化の違いから、時には誤解が生じることもあります。でも、家族のために仕送りが必要だから、簡単には辞められません。職場ではなかなか理解してもらえず、孤独を感じることもありますね。
A 私の職場は日本人スタッフや利用者が優しいので、大変ですけど楽しいです。利用者さんに「今日はどこ行くの?」と聞かれたり、漢字の意味を説明してもらったり。困ったときに「苦手なことがあればなんでも聞いて」と声をかけてくれる日本人スタッフもいます。
B 2年前まで北海道のグループホームで勤務していて、そのころは辞めたいと思っていたけど、今は職場のサポートが手厚くて楽しいし、やりがいもあります。
先日もネパールで豪雨がありましたが、利用者さんから「雨は大丈夫だった?」と心配してもらったり、「国は遠いね。寂しくない?」と気にかけてもらえるのがうれしいです。
【帰国すると空港にエージェントが】――介護の仕事は大変では?
C 排泄や入浴支援・身体介助は、最初はとても大変でした。特に、陰部やお尻に触れることへの抵抗感が強かったです。でも、慣れてくるとそれも薄まりました。
D 僕はNPO法人勤務なので給料はそれほど良くないけど、障害者支援の仕事はやりがいが大きいです。オフィスは小さくて、正社員は僕ひとり。アルバイトの外国人スタッフと一緒にチームで働いています。
人手不足なので、管理者としてバイトと連携を取るのは大変ですが、デザインの仕事から転職して良かったです。
働いていて感じるのは、中国と日本の福祉意識の差。日本では障害者への社会的受容が進んでおり、公共施設へのアクセスも比較的ハードルが低いですが、中国では理解が足りておらず、障害者の社会参加の機会は限られています。
A 私は日本語が未熟で、利用者さんの言葉が理解できず、何度も怒られた経験があります。でも、利用者さんから日本語や文化を教えてもらうことで、信頼関係が生まれました。逆に母国の話を教えてあげることもありますよ。

認知症の人だと何度も同じ話をすることがあるが、日本語を学習中の外国人にとってはリスニングの練習にもなるという
――認知症の高齢者はできないことが増えるので、自己肯定感が低くなりがちですが、技能実習生の皆さんに日本語を教えることが高齢者の生きがいにもつながっているみたいですね。
B そうですね。認知症の利用者さんから何度も同じことを聞かれますが、それも日本語の勉強になります。
母国を離れ、寂しさで夜にひとりで泣いていることもありますが、「ありがとう」と言われるとやっていて良かったと思います。
――今後も日本で働き続けたいですか?
A 実務者研修を取り、介護福祉士になれたら日本で働き続けたいです。日本は安全で暮らしやすいですから。
B 私も介護福祉士の試験をこれから受験します。子供はネパールでIT関係の勉強をしていますが、大学を卒業させて、一緒に日本で働きたいです。
C 私もキャリアアップしたいですね。フィリピンの介護福祉系の資格も持っていますが、日本でも介護福祉士を取得する予定です。仕送りは大変だけど、家族のために頑張るしかない。資格があればオーストラリアやニュージーランドで働く選択肢もありますが、今は日本に残りたいです。
ちなみに、日本で働いた後に帰国すると他国のエージェントが条件を掲げたプラカードを持って、空港で待ち構えていることもあります。
D 日本の介護制度や障害者福祉のレベルは高く、学びが多いです。3年後にはサービス管理責任者の資格取得を目指しています。
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2025年4月から、人手不足が深刻な訪問介護分野において、外国籍人材の就労対象が拡大され、特定技能の在留資格を持つ人材の受け入れが正式に可能となった。訪問介護では1対1のコミュニケーションがより重要になる。
外国人労働者にとって日本で働くメリットが薄いとの声もある中、給料の半分を仕送りに回しても「日本で働き続けたい」と語る彼ら・彼女ら。共生のカギは人とのつながりなのかもしれない。
取材・文/田口ゆう イラスト/服部元信
記事提供元:週プレNEWS
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