【日本支社に突撃】特殊詐欺で75兆円を荒稼ぎ! プリンス・グループ(太子集団)の禍々しい正体
イチオシスト

カンボジアの首都プノンペンにあるプリンス銀行の支店(写真/アフロ)
国際ロマンス詐欺から投資詐欺、オンラインカジノ詐欺まで世界中をターゲットに詐欺をしまくって、先月には国際犯罪集団として指定されたのが東南アジアの国・カンボジアを拠点に活動する大企業「太子集団(タイヅジイトゥアン/プリンス・グループ)」だ。
実はこのグループの支社は日本にもある。ということで、東京と大阪にある事務所に突撃、日本人関係者への取材も敢行した! さらには同社の出自を調べると、そこには中国政府とのつながりも......。
【「国際犯罪集団」の毒牙は日本にも】現在、「太子集団」という中国系大企業が国際ニュースになっているのはご存じだろうか?
近年、日本を含む全世界に多大な被害を与えている特殊詐欺。その元締として、カンボジアに本社を置く同社が、各国で制裁を受けているのだ。
その規模は想像を超えている。10月16日、米国財務省は特殊詐欺拠点の運営を理由に、同グループを「国際犯罪集団」と指定。米国検察により140億ドル(約2兆1560億円)相当のビットコインが押収され、関係者146人が米国国内資産の凍結などの制裁対象になった。
グループの代表で中国福建省出身の陳志(チェンヂー/ヴィンセント・チェン、38歳)も、通信詐欺共謀罪および資金洗浄罪の疑いで米国内で起訴された。陳志は現在身を隠しているが、英BBCなどによれば、量刑は懲役40年レベルに達するとみられている。

太子集団(プリンス・グループ)の陳志会長。写真は同社のホームページより
米国の動きを受けて、イギリス、シンガポール、韓国、香港、台湾などの各政府も、太子集団に対する制裁措置の発表や強制捜査を続々と行なっている。
では、遠い国の特殊詐欺の話が、日本と何か関係があるのだろうか?
答えは大アリである。
11月4日、カンボジア東部のバベット郊外にある特殊詐欺拠点で働いていた日本人13人が現地当局に拘束された。今年5月にも、西部のポイペトで日本人29人が拘束されている。彼らと太子集団との直接的な関係は不明ながら、同国の特殊詐欺拠点には日本人も多数関与しているのだ。
加えて、実は太子集団は日本国内でも複数の拠点を展開していた。彼らは何者で、日本で何を行なっていたのか。現場取材から追った。
本題に移る前に、特殊詐欺と太子集団について解説をしたい。
コロナ禍の前後から、中国系のマフィア組織がミャンマーやカンボジアなどの中華系の工業団地を拠点に「園区(ユェンチュイ)詐欺パーク」と呼ばれる施設を運営するようになった。
そして全世界を対象に、国際ロマンス詐欺や投資詐欺、オンラインカジノ詐欺などを大々的に展開し始めた。詐欺の対象国は主に中国語圏だが、英語圏や日本、韓国が標的となる場合もある。
実際にカンボジア西部ポイペトの園区で約3年働いた経験がある日本人の坂崎氏(仮名、30代)はこう証言する。
「園区の出口は封鎖され、銃を持つ警備員が出入りを厳重に管理。労働者らは内部の寮に寝泊まりして特殊詐欺に従事し続けます。敷地内には商店や食堂、風俗店まである。大きな園区だと数十の詐欺集団が入居していて、数百人以上が働いています」

カンボジア西部のポイペトにある「園区(詐欺パーク)」。プリンス・グループが運営するものとは別のエリアのもの
調べた限り、東南アジアだけで100以上の拠点があるのは確実だ。園区の経営者は現地の有力者と結びつき、その利益はカンボジアだけでも年間約130億ドル(約2兆30億円)と莫大。同国のGDP(国内総生産)の3割に達するとの推計もある。
坂崎氏が続ける。
「売り上げ(詐欺被害額)が上がらなければ電気棒や殴打で暴行され、ほかの園区に売られることもある。僕自身、目の前で中国人の男が銃で殺されるのを何度も見ました」
太子集団は、こうした園区の運営元のひとつなのだ。
米国財務省の発表によると、同社は少なくとも園区を10施設運営。さらに傘下の金貝(ジンペイ)集団によって、米国人259人が合計で約1800万ドル(約22億6000万円)をダマし取られたとされる。同発表では、太子集団の園区内での強制労働、拷問、殺人なども告発されている。
一方、彼らの表の顔はカンボジア国内で5本の指に入る大財閥だ。事業内容は不動産開発のほか、銀行、スーパー、ビール酒造、商業航空、配車アプリ、プロサッカースタジアム運営など多岐にわたる。ただ、その資金源や背景は長らく謎とされてきた。
「創業はたった10年前。親族の遺産を持って中国からカンボジアに渡った陳志が、28歳で起業したとされます。しかし、当初から異常な資金力を誇り、現地でマンションをどんどん建て始めた。突然出現した、不思議な巨大企業だったのです」
カンボジア日本人会会長の小市琢磨(こいち・たくま)氏はこう証言する。
太子集団の園区運営は、近年のカンボジアでは公然の秘密である。ただ、正体が明らかではない段階から、カタギの企業とは思えない気配があったという。
太子集団は17年9月、首都にある韓国資本の商業ビルを買収。同ビルにはJETROや伊藤忠、みずほ銀行、三菱東京UFJ銀行(現三菱UFJ銀行)など多数の日系企業が入居していたが、これらの事業者が実質的な〝追い出し〟に遭っているのだ。日本とカンボジアの交流団体に関わる沢田氏(仮名、40代)は、当時の様子をこう話す。
「上下黒服で銃を持った中国人警備員が、毎日何十人も建物内を徘徊し始めたのです。とても仕事にならないと、日系の借り手はみんな出ていってしまいました」
怪しげな空気は、筆者が今年6月にカンボジア南部の港湾都市・シアヌークビルにある太子集団傘下のホテルを訪れた際も確認できた。
1階フロアには水族館ばりの巨大水槽と、成り金めいた中国人男性が集う豪華カジノ。さらにホテル内の高級サウナ(中国式ソープランド)の受付では、799ドル(約12万円)で日本人風俗嬢を抱けると説明されたのだ。
特殊詐欺のカネで造られた悪徳の城......。そんな表現がピッタリの施設だった。

カンボジア南部の港湾都市シアヌークビルにある太子集団傘下の豪奢なホテル

同ホテル
そこで気になるのが、太子集団の日本での動きである。 彼らは日本国内にある複数の子会社に出資し、オフィスを借りていた。
米国の制裁発表から約2週間後、登記簿やホームページ上の記載を頼りに実際に行ってみたが、東京の渋谷区神山町にあるプリンスジャパン、千代田区岩本町にある同社系列の不動産会社キャノピーサンズデベロップメントジャパン(以下、キャノピー日本)はいずれも閉鎖されていた。

プリンスジャパン社が入居していたとみられる渋谷区内のビル
関係者のホームページやSNSも、消えたり、関係者限定の公開に変わったりしている。
キャノピー日本の事務所とみられる大阪府岸和田市内のオフィスも閉鎖、4階建てのビル1階の社名の看板も外されていた。
ただ、ガラスドア越しに室内を確認すると、巨大な投資マンションの模型や大型ディスプレー、多数の応接ソファなどが放置されている。ビルのオーナー企業やほかの入居企業が、中国とカンボジアにそれぞれ接点があることも確認できた。

キャノピーサンズデベロップメントジャパン社の拠点があったとみられる大阪府岸和田市内のビル
登記上、キャノピー日本の代表は茨城県南部に在住する女性のY・S氏だ。彼女はいかなる人物か。本人と面識を持つ沢田氏(前出)が話す。
「Y・S氏とカンボジアとの関わりは10年以上で、複数のベンチャーの起業に関与。インスタグラムなどで活発に情報発信し、業界では有名な人物でした。同国関連のビジネスイベントのほか、大阪万博のカンボジア館のイベントにも参加していました」
Y・S氏本人に複数回の取材依頼をしたが回答がなかったため、自宅を訪ねてインターホン越しに事情を聞いた。
* * *
――太子集団との関係は?
「日本法人の立ち上げを手伝っただけ。半年前に社を離れ、現在のことは知らない」
――日本での事業内容は?
「シアヌークビルでの不動産プロジェクトについて、日本の顧客向けのプロモーションをしていただけ」
――それ以外には?
「本社の意向を確認しないと、私は何も話すべきではない。ただ、本社とは長らく連絡を取っていない」
――太子集団の詐欺拠点運営について知っていたか?
「......(長い沈黙)。知りません」
――従来、海外メディアで疑惑が報じられてきたが?
「関連報道の翻訳などの業務は行なった。それ以上のことは何も知らない」
* * *
この一連の回答について、前出の沢田氏は「ありえない」と一蹴する。
「カンボジア首都の元韓国資本のビルで〝黒服ウロウロ事件〟が起きた際、Y・S氏はビル内にある日系メガバンクで、現地採用者の立場で働いていました。当事者として事情を理解しているはず。そもそも、カンボジアに長年関わって太子集団の詐欺を知らないとは、通常なら考えられない返答です」
ここで参考になるのは、日本と同じく太子集団が拠点を展開していた近隣の状況だ。
例えば韓国では11月3日、国税当局が同社の関連企業の自国内拠点を捜査。韓国国税庁によると、彼らはソウル市内でニセの海外不動産コンサルティング会社を設立。日本円にして数億~数十億円を投資家から集め、カンボジアの関連会社に送金していた疑いがあるという。
また、台湾でもマネーロンダリングの容疑で関連企業5社が家宅捜索を受けた。結果、当局により25人が拘束、45億3000万台湾ドル(約249億円)もの資金が押収されている。
こうして問題が明らかになる中、果たして日本国内の法人だけが、Y・S氏が主張するように健全な投資の呼びかけしかしていなかったのか。
ちなみに、太子集団に限らないカンボジアの園区オーナーたちの、日本での動向も紹介しておこう。園区で働いた坂崎氏(前出)はこう話す。
「提携する日本国内のヤクザや半グレを通じて、園区の労働者をスカウト。また、東京湾岸のタワマンなどの不動産投資、マネロンも行なっています。どこのオーナーもやっていることですよ」
近年、中国人富裕層の間では日本の不動産が人気だ。爆買いマネーの一部に、特殊詐欺で稼いだ園区の資金が入っていることは、関係者の間では周知の話という。
【中国の中枢と太いパイプが?】最後に太子集団の〝正体〟についても述べておこう。
「カンボジア政府の大臣から直接、『太子集団は中国人民解放軍系のフロント企業である』と聞いたことがあります」
同国の政府筋に詳しい関係者は、太子集団の背景をこう証言する。同社の主要拠点のひとつであるシアヌークビル付近には、中国資本で拡張工事が進められ中国軍の艦船が寄港する、カンボジア海軍のリアム基地もある。一笑に付せない情報だ。

カンボジア海軍のリアム基地に停泊する人民解放軍の艦船。6月3日撮影
カンボジア在住の中国人記者の張敏(ヂャンミン)氏(仮名、30代)は、同国内での太子集団の専横の理由をこう説明する。
「代表の陳志はカンボジアのフン・セン上院議長やマネット首相の顧問に収まり、国家上層部との関係が密接。国際制裁が発動されるまで、同国内で彼らの問題に言及することはタブーでした。園区運営が摘発されなかったのも、中国パワーと詐欺マネーで現地の政府中枢に食い込んでいた事情ゆえなのです」
陳志は、サメをペットにしたりプライベートジェットを保有したりと、極度に豪奢な暮らしで知られてきた。28歳で起業した青年が、なぜ詐欺集団と不動産コングロマリットのトップに君臨し、そんな生活ができたのか。
背景は諸説ある。例えばカナダ在住の中国系ジャーナリストの盛雪(シェンシュエ)氏はこう話す。
「中国国内の確度の高い情報源から聞いた話では、習近平国家主席の腹心で、広東省のトップを務める黄坤明(ホワンクンミン)の妻の姉の息子が陳志です。習近平の姉の齊橋橋(サイチャオチャオ)や、出身地である福建系の習派幹部の財産管理とマネロンを海外で請け負っていたのが彼とされます」
一方、前出の張敏氏はこう言う。
「陳志はただのチンピラで、彼のバックは習近平ファミリーほど高いレベルではない。ただ、中国の紅二代(ホンアルダイ/革命幹部子弟)の海外マネロンを担っていたのは間違いない」
いずれにせよ、中国の軍部や特権層とのパイプがあった可能性は高いだろう。
ちなみに、太子集団と日本の関係ではほかにも剣呑な情報がある。張敏氏が言う。
「国際圧力を受けたカンボジア当局が太子集団傘下のカジノ4ヵ所を捜査した翌日(11月3日)、同国上層部の意向を受ける形で、同社の幹部らが日本に多数脱出したとされます」
国際的な包囲網が敷かれる中で、主要関係国では唯一、同社を捜査していない日本。逃亡先には最適だろう。
世界を揺るがす特殊詐欺スキャンダル。日本だけが蚊帳の外では決していられない。
取材・文・撮影/安田峰俊
記事提供元:週プレNEWS
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