【モーリー・ロバートソンの考察】ニューヨーク新市長マムダニの「左からのぶっ壊せ運動」は全米に広がるか?
イチオシスト
『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、米ニューヨーク市長選挙に勝利した「民主社会主義者」ゾーラン・マムダニ氏が巻き起こした旋風について考察する。
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先の米ニューヨーク市長選で、富裕層への増税、家賃値上げの凍結や路線バスの無料化といった公約を掲げた、ウガンダ生まれのインド系移民、34歳でムスリムのゾーラン・マムダニ氏が当選しました。
これは単なる一都市の選挙結果ではなく、アメリカ政治においては"地殻変動クラス"の異変と言えます。マムダニは反トランプを訴えていますが、ほぼ無名だった彼を市長に押し上げたムーブメントの正体を理解するには、まさにそのトランプ大統領との対比が有効です。
トランプが仕掛けているのが「右からのぶっ壊せ運動」なら、マムダニが巻き起こしたのは新しい世代による「左からのぶっ壊せ運動」。両者の立ち位置は真逆ですが、実は「ぶっ壊せ」の標的は共通しています。
それは、戦後の経済的繁栄と1980年代以降の金融化の波に乗って勝ち逃げしてきた世代が築いた体制です。その象徴は、かつて若者としてベトナム反戦を叫び、その後は家と資産を手に入れて"生活保守"へと変貌したベビーブーマーたちでしょう。
"Make America Great Again"というトランプのスローガンは、勝ち逃げ世代の物語から「こぼれ落ちた」と感じている白人層に強く響きました。取り戻したいものは「古き良きアメリカ」。製造業が国内にあふれ、白人がマジョリティとして揺るぎない地位を保っていた時代です。
しかし、Z世代やミレニアル世代は、そもそもその"元ネタ"=古き良きアメリカを知らない。深刻な経済格差と閉塞感の中で育った多くの若い世代にとっては、「ごく一部の富裕層以外、みんなが苦しい」というのが唯一の現実なのです。
注目すべきは、その戦略がかつての社会主義運動とは決定的に違うということ。
彼ら彼女らにとって東西冷戦はもはや"歴史上の出来事"でしかなく、あいつらは共産主義者だ、社会主義者だ、といったレッテル貼りはなんの効果もありません。超富裕層の富を公共サービスに回せというのも、あくまで"資本主義の住人"としての主張であり、ある種の合理性とリアリズムに根差した現実的な再分配の話なのです。
戦い方にも特筆すべきものがあります。トランプとその取り巻きが「怒り」や「差別」をあおるのに対し、マムダニのチームはウイットに富み、ユーモアのセンスがある。特にSNS戦略では、多くの旧来型の政治家が判で押したように"同じ技"しか繰り返せないのとは対照的に、マムダニのチームはアドリブに優れ、量も質もスピードも圧倒的でした。
経済的リアリズムと新しい感性を武器に、旧来の政治手法をのみ込んだ「左からのぶっ壊せ運動」が、今後アメリカ政界に広がっていくのかどうか。
2016年の大統領選に突如現れたトランプが共和党穏健派を激しく攻撃したように、マムダニが表面化させたこの運動は、伝統的な民主党中道派のエスタブリッシュメントたちをも"敵"と見なす部分があります。また、マムダニはイスラエルのガザ攻撃について「ジェノサイドだ」と明言しており、この点も民主党中道派との大きな路線対立です。
この運動の勢いが今後も衰えず、アメリカ政治が新しいステージに突入していくとすれば、その動きは日本の若い世代の人々の未来とも決して無関係ではないはずです。
記事提供元:週プレNEWS
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