新鋭・坂本憲翔監督が描く、静かで揺るぎない連帯「イマジナリーライン」
イチオシスト
日本で生まれ育った親友が、入管に収容された──。東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻18期卒業制作作品として発表された坂本憲翔監督の長編デビュー作「イマジナリーライン」が、1月17日(土)よりユーロスペースほか全国で順次公開される。ポスタービジュアルと特報映像が到着した。

映画学校を卒業して間もない山本文子(中島侑香)は、アルバイトをしながら音楽好きの親友・モハメド夢(LEIYA)と一緒に映画制作を続けていた。ある日、共に訪れた旅先で、夢が“在留資格”を持たないことが発覚し、彼女は入管施設へ収容されてしまう。残酷な運命に引き裂かれた二人は、わずかな希望を求めて立ち上がるが……。
作品は第21回大阪アジアン映画祭インディ・フォーラム部門で上映され、第19回田辺・弁慶映画祭と第26回TAMA NEW WAVEの各コンペティション部門への出品も決まっている。共に生きるための、静かで揺るぎない連帯の物語に注目を。
〈コメント〉
坂本憲翔監督
2021年3月、名古屋入管での医療ミスにより、被収容者のウィシュマ・サンダマリさんが亡くなった。それから4年以上の月日が経ち、この事件について語られることも少なくなった。その沈黙の隙間をうめるように、街には排外主義的なことばが飛びかっている。遺族、支援者、被収容者、難民申請者の方々の闘いは、今この瞬間も続いているのに。
この事件と入管制度の問題を決して風化させてはならない、これは命の問題だから。たくさんの人にこの映画を観てほしい。そしてこの国の「今」について一緒に考えてみたい。心からそう願っています。
中島侑香(山本文子役)
私が演じた文子という役は、どこか自分と似ていました。母の死で止まっていた時間が、夢という対照的な存在によって動き出す。そんな文子が作品の中でどう生き抜いていくのかを毎日考え続け、監督と話しながら丁寧に役作りをしていきました。カメラが回る瞬間、それまで準備していた「文子」を一度脱ぎ、現場の空気に身を委ねたとき、本当に文子として生きられたような気がしました。私にとって思い入れ深いこの作品の旅立ちを、心から嬉しく思います。
LEIYA(モハメド夢役)
映画『イマジナリーライン』で夢という役を通して、「居場所とは何か」「支え合うとはどういうことか」を深く考えました。日本とガーナにルーツをもつ私にとって、描かれる現実は決して他人事ではありません。制度や言葉の壁によって、当たり前の日常を得られない人がいる。その声に耳を澄ませ、伝えていくことの尊さを身に沁みて感じることができました。
この作品を通じて、目に見えないさまざまな「線引き」について一緒に考えていただけたら嬉しいです。
安田菜津紀(Dialogue for People 副代表/フォトジャーナリスト)
「日本人ファースト」というスローガンが躍る。けれどもこの映画を観て、思う。「この国はずっとそうだったじゃないか」と。入管のまなざしはどこまでも「管理」「監視」であり、収容のあり方そのものが「外国人は人間扱いしなくていい」を前提としている。内部で働く人間にまで「管理」「監視」の「部品」であることを求める。国の態度は市井の意識にもじわじわと沁み込む。主人公の文子さえ、「不法滞在者」という巨大な主語に惑わされる。今もそうだ。ありもしない「外国人問題」がわざわざ作り出され、ないはずの線が引かれていく。「ここから先は仲間じゃない、仲間じゃない存在には何があっても構わない」と。でも、この映画を観た人たちは、出会ったはずだ。夢という一人の、血の通った人間に。恐怖や不安を燃料にする扇動的な言葉に出くわしたとき、夢のことを思い出してほしい。「彼女たち」はすでに、私たちの隣にいるのだから。

「イマジナリーライン」
監督・脚本:坂本憲翔
出演:中島侑香、LEIYA、丹野武蔵、早織、松山テサ、鈴木晋介、諏訪敦彦、生津徹、Obueza Elizabeth Aruoriwo
脚本:峰岸由依、横尾千智 プロデューサー:小池悠補 撮影・照明:小澤将衡 美術:董瑶 衣装:前川睦巴 ヘアメイク:石原由樹乃 録音:坂元就 サウンドデザイン:堀修生 編集:佐藤善哉 スチール:団塚唯我 助監督:木村愼、湯淺歩夢 音楽:奥村一斗
宣伝:高田理沙 協力:北條誠人、渡辺祐一 宣伝デザイン:後藤司 配給:Lamp.
2024年/日本/カラー/スタンダード/5.1ch/90分
©2024 東京藝術大学大学院映像研究科
公式サイト:https://www.lamp-kk.com/imaginary-line/
記事提供元:キネマ旬報WEB
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