製作会社の倒産、監督・俳優降板など、変わりゆく時代にしぶとく生き残った「死んでもいい」【あの懐かしの映画を語ろう】第5回・後編
イチオシスト

映画を創った人だけが知っている物語がある──
80年から90年代を彩った日本映画の舞台裏に迫る、「キネマ旬報」公式YouTubeチャンネルのオリジナル番組〈あの懐かしの映画を語ろう〉。第5回の後編が10月29日(水)より配信された。元にっかつプロデューサーの山田耕大氏に今回語っていただくのは、石井隆監督・脚本、大竹しのぶ、永瀬正敏、室田日出男出演の「死んでもいい」(1992年)。
前編では、「死んでもいい」公開から遡ること10年、原作『火の蛾』の映画化が進む中、高橋伴明と関根恵子(現在の高橋惠子)の運命的な出会いが、図らずも池田敏春監督の降板を招き、一度目のお蔵入りとなるまでが語られた。さらに、「ルージュ」の不運としか言いようのない顛末も明かされる。
その才能を大いに買う山田氏が、石井隆に脚本の執筆を依頼した「ルージュ」。まさに“名美”の横顔を持つと期待を寄せていた主演女優が、本作の出演を彼女のプライベートに絡めて執拗に質問攻めをするスポーツ紙によって降板するという、予想外の事態に見舞われる。「あぁいう時のスポーツ紙の記者たちは最低だ」と当時の忸怩たる思いを語る山田氏。そしてその翌年、興行の穴を埋めるべく頓挫した「ルージュ」の製作は山田氏の天敵“死神”によって再浮上する。しかし当初想定していた監督ではなく石井隆とは“水と油”の那須博之に決まってしまい、結果…、山田氏いわく「悲惨な映画だった」。本作を最後ににっかつを山田氏が去るところまでが語られた前編。

そして後編は、「死んでもいい」の製作を最終的に担った〈アルゴ・プロジェクト〉の設立から話は始まる。
〈アルゴ・プロジェクト〉は1989年、6人のインディペンデントの映画プロデューサーが集まり、作品の製作から興行までを一貫して行う「産地直送」を謳い設立された組織。サントリーと日本テレビが1作品につき1億円の製作費を出し、各プロデューサーが率いる各社が順次作品を製作するという新たな試みだった。
そのプロジェクトの後期に、『火の蛾』(「死んでもいい」原作)の映画化がディレクターズ・カンパニーによって再度持ち上がる。「死んでもいい」にタイトルを変更して相米慎二がプロデュース、石井隆の監督でクランクインするが、「これ以上ついていけない」と主演女優が数日で降板。製作中止に追い込まれ、二度目のお蔵入りとなってしまう……。
「もう二度と撮れないだろう、シナリオも埋もれてしまうだろうと思った」──。
『キネマ旬報』1993年2月下旬号のインタビューで当時を述懐する石井隆だったが、そこから三度目の復活を果たす。同ンタビューでは「普通なら一度ならず二度、三度と流れた企画はまず浮上することはないのに、しぶとかったですね。生き残っていた。男と女を描いて普遍的だったんだな、って思いますね」と、時代を経ても色褪せない普遍性が「死んでもいい」を完成に至らしめたと石井隆はみていた。

しかし、三度目の復活の際も一筋縄ではいかない。ディレクターズ・カンパニーの倒産という深刻な事態に直面する──。監督・俳優の降板、製作会社の倒産という数々のトラブルに見舞われながらも、当初の企画から10年を経て、石井隆監督・脚本、大竹しのぶ、永瀬正敏、室田日出男による「死んでもいい」は遂に結実するのだ。
『事実は小説より奇なり』を地でいく「死んでもいい」完成までのドラマティックな道程を語り尽くした『【あの懐かしの映画を語ろう】第5回「死んでもいい」後編』をぜひお楽しみください。
文・制作=キネマ旬報社
キネマ旬報公式YouTube 〈あの懐かしの映画を語ろう〉
第1回「家族ゲーム」
前編:https://youtu.be/MQdGi9lI2ZM
後編:https://youtu.be/ZPkQQ0ZCdJo
第2回「私をスキーに連れてって」
前編:https://youtu.be/DTmZNlDRplQ
後編:https://youtu.be/cLEuN8b0nRA
第3回「ベッドタイムアイズ」
前編:https://youtu.be/dIt0TQOmneU
後編:https://youtu.be/n6AHw9X3_jg
第4回「ドレミファ娘の血は騒ぐ」
前編:https://youtu.be/kExjqCayq_A
後編:https://youtu.be/h7D5bTySzks
第5回「死んでもいい」
前編:https://youtu.be/0d_v0EY5C70
〈今後の配信予定〉
11月中旬~「木村家の人々」
12月~「ザ・中学教師」/「ダブルベッド」とロマンポルノ

「死んでもいい」
監督・脚本:石井隆
原作:西村望
企画協力:佐々木志郎、宮坂進
製作:伊地知啓
プロデューサー:榎本靖
撮影:佐々木原保志/美術:細石照美/音楽:安川午朗/録音:本田牧/照明:金沢正夫/編集:菅野善雄/助監督:横山浩幸
出演:大竹しのぶ、永瀬正敏、室田日出男
1992年/日本/117分
製作:アルゴプロジェクト=サントリー提携
配給:アルゴプロジェクト
©サントリー/日活/ムービー・アクト・プロジェクト
記事提供元:キネマ旬報WEB
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