『キン肉マン』大好き作家・燃え殻×爪切男の先月の肉トーク!! vol.50【コミックス派はネタバレ要注意!】
イチオシスト

『キン肉マン』大好き作家・燃え殻さんと爪切男さんが9月の連載を激論!
『ボクたちはみんな大人になれなかった』の燃え殻、『死にたい夜にかぎって』の爪切男の意外な共通点、それは『キン肉マン』!!
希代のストーリーテラーのふたりが9月分の『キン肉マン』連載を甘く、そして辛く批評。
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―今回の「先月の肉トーク」テーマ―
第505話 泣き虫グレートの笑顔!!の巻(9月8日更新分)
第506話 すべての歪みのもとへ!!の巻(9月21日更新分)
第507話 巨漢(ジャイアント)ハンターの宿命!!の巻(9月29日更新分)
あらすじ
世界同時五大刻(ごたいこく)決戦、キン肉マン&グレート組(マッスル・ブラザーズⅢ)VSエクサベーター&ガストマン組(インダストリアルレボリューションズ)が決着。あとは、3代目キン肉マングレートの正体が気になるところだが......。そして、次なる闘いはテリーマンVSエンデマンへ。
爪切男(以下、爪) 9月の連載は、第505話「泣き虫グレートの笑顔!!の巻」から。キン肉マン&3代目キン肉マングレートのマッスル・ブラザーズⅢが、マッスル・ドッキング ケミストリーをインダストリアルレボリューションズに食らわせて、決着をつけた。
燃え殻(以下、燃) そして、エクサベーターとミートくんが、グレートが何者なのかを問い詰めるが、キン肉マンは「もうええだろうと言っておるのだ!」と、止める。
爪 このカードが始まった時点で、キン肉マンのマッスル・ブラザーズⅢが負けるわけがない、と思ったから、そういう気持ちで読んでいておもしろいかな、という心配もあったけど、結果、すげえ盛り上がりましたね。
相手のエクサベーターとガストマンのことも、好きになってしまった。『キン肉マン』って結局、出てくる超人全部、好きになるんだよな。
燃 そうなんだよね。前回でも話した、僕のラジオに嶋田先生に出てもらった時、収録後に先生が「エクサベーターとガストマン、すごい人気があるんだよ。あの試合はもうすぐ終わるだけど、どうしようかと思って」と......番組の中で先生、「第3のゆでたまごは読者だ」っておっしゃってたじゃない?
爪 ああ、はいはい。
燃 つまり、闘いを描いている間に、その敵が読者に受け入れられているのがわかると、ストーリーの構想が変わってくるみたいだね。
爪 「負けて物語から退場」ではなくなると。
燃 昔は読者のハガキを待たないといけなかったけど、今は月曜0時に『週プレNEWS』に作品がアップされたら、すぐSNSでリアクションがわかるから、さらにそうだよね。
爪 嶋田先生、かなりチェックしますしね。そこで知る読者の反応によって、ストーリーが変わる。
燃 っていうのが、他の漫画以上に顕著なんじゃないかな。
爪 ああ。グリムリバーが人気になったから、次に「本当の名はサイコマン」と言って出てきて、三度目は見た目がそっくりなキャラクター、ファナティックとして出てきた。あれも、まさにそうでしょうね。

グリムリパー時代。彼とそっくりなキャラクターファナティックの活躍は、ゆでたまご先生の想定通りなのか(JC43巻)
燃 そのことを、読者である僕らが認知していると、やっぱり声を上げたくなるんだよね。
爪 声を上げたら先生が聞いてくれる、自分の希望が叶うかも、と思いますよね。
燃 超人募集に投稿するのと一緒で、物語に自分も参加できるんじゃないか、と。実際、読者の声と嶋田先生のチェックもあってか、試合が終わったあと、エクサベーターとガストマン、ボコボコに壊れているんじゃなくて、ちゃんと会話してるもんね。
爪 これは次回の出番もあるな、と。僕は、ふたりはここで、超回復を使ったんじゃないかと思ったんですけど。
燃 はははは。そうか、描かれてはいないけど、ありえるよね。
爪 勝負がついたあとに、ジワジワ回復して、元どおりになった。マッスル・ドッキングの究極形を食らったんだから、そのまま死んでもおかしくない、でも人気があるから殺せない。
燃 だからこういう話になった。先生、このふたりをまた出す気になったんですね、と。
爪 そう考えると、SNSって、悪いことばかりじゃないんだな、と思いますよね。悪い面ばかりが取り沙汰されがちだけど。
燃 昭和の時代から続いている連載が、令和のSNSの時代になっても、読者との関係が同じまま......。
爪 いや、今のほうがさらに近くなっている。
燃 あ、そうだね、近いね。それは幸福なことだと思います。
爪 その結果、また魅力的な超人を生み出してしまった。しかも敵キャラで。
燃 ここまでの時間超人で、「このキャラはもう出てこないな」っていう人、いなくない?
爪 そうなんですよね。増える一方。物語を前に進めるためには、もっとある意味のリストラしていかなきゃいけないと思うんだけど。
燃 読者のリアクションがいいと、次も出したくなる。で、キャラが増えていく。物語が終わらないね。でも嶋田先生、「永遠に描きたい」ともおっしゃってたしなあ。『キン肉マン』は終わりに向かっていると、この対談で僕らは言い続けてきたけど、間違っていたんじゃないか、と最近思い始めた。
爪 少なくとも1試合は増えちゃったもんな、このふたりをもう一度出すために。あと、やっぱりキン肉マン、いいなあと思ったのが、敵に自分からグータッチを出せるところ。
燃 そうだね。で、エクサベーターとガストマンも、それを受け入れる。
爪 また友情が生まれる瞬間を見た。
燃 こういう、敵が仲間になっていく流れって、『キン肉マン』が作ったものだよね。
爪 ああ、そうか。敵が味方になっていく漫画は多いけど、ここまですべての登場人物が......悪魔も完璧(パーフェクト)超人も、みんな味方になっていくのは、『キン肉マン』が最初かも。
燃 それってプロレスの世界観が、物語のベーシックにあるからじゃないかな。ベビーフェイスとヒールを行ったり来たりするとか、チーム編成が変わっていくとか。そういうプロレスの世界観を、うまく漫画に取り入れていて。『キン肉マン』で、その構図を理解できると、プロレスの観方もわかってくる。

正義超人とたもとを分かつような発言もあったロビンマスク。ヒールとは言わずとも、今後の動向が気になる超人(JC77巻)
爪 ああ、確かに、漫画であると同時に、プロレスでもある。ほかの歴代の人気格闘マンガって、プロレスではないじゃないですか。100%漫画じゃないですか。でも『キン肉マン』はプロレスだから、ロープに振ったら戻ってくるし、ちゃんとリング上で決着をつける。そこもすごいところですよね。
●プロレスファンからの『キン肉マン』ファンとは限らない?燃 不思議なのが、みんな『キン肉マン』に夢中になっていた子供の頃って、全員がプロレスファンではなかったじゃない?
爪 あ、言われてみればそうだ。僕らはプロレスファンだから、気にしたことがなかった。
燃 『キン肉マン』ファンの子供は、あきらかにプロレスファンの子供よりも多かった。その子たちは、純粋なキャラクターバトル漫画として、読んでいたんだろうね。
爪 じゃあ彼らは、僕らが惹きつけられていた、『キン肉マン』のプロレスの世界観は、意識していなかった、っていうことか。
燃 だからこそ、プロレスよりも間口が広いエンタメになったっていうことだよね。昭和のあの時代の段階で、DDTだったというか。
爪 (笑)。ああ、なるほどね。
燃 あの時代の新日本プロレスのような、エッジの効いたプロレスをやっていたら、プロレスファンしか入ってこれない。で、DDTみたいに間口の広いプロレス団体は、当時は存在しなかったけど、いち早くそれを漫画で実現していたのが『キン肉マン』、というね。
爪 プロレスファン以外の子供たちも夢中になった理由は、いくつもあるだろうけど。
燃 各キャラクターのデザインのよさも大きいと思う。プロレスって、アレルギーがある人もいるじゃない? 生身の人間が闘うんじゃなくて、あのデザインのキャラクターたちが闘う、というところで、そこをクリアしたのかもしれない。
爪 あと「プロレスなんか八百長じゃん」って言ってた同級生も、『キン肉マン』は読んでいた。漫画だと許せるんでしょうね。
燃 そう考えると、すごくミラクルなというか、絶妙なポイントを突いた作品なんだね。
爪 一方で当時、純粋なプロレス漫画もありましたけどね。実話だとうたった、梶原一騎原作の『プロレススーパースター列伝』(小学館)とか。
燃 ああ、僕らは夢中で読んだけど、でもあれ、ページが濃いじゃない? 黒いでしょ?
爪 (笑)。そうですね、ポップじゃない。
燃 そう! ポップじゃないんだよ。『キン肉マン』はポップだった。だからプロレスファン以外もみんな、読んだんじゃないかな。
●スピニング・トゥホールド、ネックハンギングツリーという味爪 第507話から、テリーマンとエンデマンの闘いになりましたけど。
燃 あ、今の話につながるけど、これ、いきなりものすごくプロレスの試合だよね。テリーマンが、エンデマンにスピニング・トゥホールドをかける。わかんないでしょ、プロレスを観てない人は。
爪 うん、この画を観て「痛そうだなあ」と思わないだろうな。というか、今のプロレスを観ている人もわかんないかも。今いないでしょ、スピニング・トゥホールドを使う人。で、その次がヘッドバッドなのも、クラシカルなプロレスだし。

アニメの影響で最近は、小野大輔さんの声でテリーマンのセリフをイメージする人も増えた?(JC38巻)
燃 エンデマンのほうもそうだよね。テリーに反撃する技が、ネックハンギングツリー。
爪 そうそう、今やっているレスラー、観たことない。このへんが最高なんですよね。
燃 ほんとだよ。昭和プロレスが始まった。これまでの試合とは全然違う。
爪 身体のデカさが全然違うのもね。
燃 エル・ヒガンテと獣神サンダー・ライガーの試合みたいな。大きさの差を見せる試合。これだけ体格差がないと、ネックハンギングツリー、画にならないもんね。体重をそろえない、まさにプロレス的な世界観。総合格闘技では、決して行なわれない試合。
爪 一番漫画的な構図なのに、いちばんプロレスなんだよなあ。最高ですね。
燃 しっかりしたいい試合が、始まりました!
●燃え殻(MOEGARA)
1973年生まれ、神奈川県出身。働きながら始めたツイッターでの発言に注目が集まり、作家デビュー。『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)、『すべて忘れてしまうから』(扶桑社)、『明けないで夜』(マガジンハウス)など多数の著作がある。最新著は『これはいつかのあなたとわたし』(新潮社)。群像Webでは「湯布院紀行」の漫画連載もスタート。また、『GetNavi web』にてコラム「もの語りをはじめよう」を連載中。ラジオ番組 『BEFORE DAWN』(J-WAVE、毎週火曜26:30~27:00)もチェック
●爪切男(TSUMEKIRIO)
1979年生まれ、香川県出身。2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で小説家デビュー。2020年、同作が賀来賢人主演でドラマ化。『きょうも延長ナリ』(扶桑社)美容と健康にまつわるエッセイ『午前三時の化粧水』も発売中。ドライバーWebで『横顔を眺めながら ~爪 切男の助手席ドライブ漂流~』を連載中。主演:木村昴でのドラマ放送でも話題となった『クラスメイトの女子、全員好きでした』が文庫化。最新著は、『愛がボロボロ』(中央公論社)
取材・文/兵庫慎司 撮影/鈴木大喜 ©ゆでたまご/集英社
記事提供元:週プレNEWS
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