おぎぬまXのキン肉マンレビュー【第50巻編】~魔界のプリンス、リングイン! 裁きが下されるのはどちらだ!?~
イチオシスト

『週プレ』復活シリーズ、JC『キン肉マン』50巻をおぎぬまXがレビュー!!
前シリーズからの通巻が「50」の大台を迎えた、記念すべき第50巻!
前回のレビューでも触れた通り、第49巻では新シリーズ通算100話、Web連載開始3年突破といったメモリアル的要素がありましたが、続くこの巻も、豪華絢爛(けんらん)といった表紙でファンの心を高鳴らせるものがあります!!
●キン肉マン50巻
レビュー投稿者名 おぎぬまX★★★★★ 星5つ中の5●"魔界のプリンス"VS正義を司(つかさど)る"伝説超人"!
まず、注目すべきは表紙です! 第50巻という特別な巻を飾ったのは、なんと新シリーズの新キャラ・完璧超人始祖(パーフェクト・オリジン)の集合イラスト! どのキャラも個性的で、このシリーズから初登場したとは思えない貫禄がありますね! 作者コメントではカバーイラストの制作秘話に加え、ゆでたまご先生らしい「挑戦者」としての心意気が語られており、尊敬の念を抱かずにいられません。
ところで、『キン肉マン』は新シリーズからWEB連載されていることもあり、昔と違って単行本をそろえるという習慣が薄れてしまった人もいるのではないでしょうか。ですが、描き下ろしの表紙、制作秘話が分かる作者コメントや「ゆで問答」といった名物企画など、単行本だけの楽しみはたくさんあります。WEB連載全盛のこの時代だからこそ、〝単行本が一番のファンアイテム〟だということを忘れないようにしたいですね!
さて本編では、前巻で決着がついた悪魔六騎士ザ・ニンジャと完璧超人始祖カラスマンが、互いの健闘を称え合うシーンから始まります。あれほどの死闘を演じたふたりが、なぜこうもさわやかなやりとりができるのでしょうか。闘いの余韻もほどほどに、「忍びは速やかに消えるのみ」と言い残し、ザ・ニンジャは池の中へと消えていきました。
そして舞台は変わり、悪魔六騎士最後のひとり......"魔界のプリンス"ことアシュラマンがついに参戦します! アシュラマンが完璧超人始祖の待ち受ける「始祖の門(オリジンゲート)」を抜けた先は、なんと彼の故郷である「魔界」につながっていました。

この後の展開を暗示しているのか、空には暗雲が立ち込め、両腕のない銅像とリングだけがあるという、不穏な雰囲気...
到着早々、兵士たちにかしずかれたアシュラマンは「何か空気がおかしい」と異変を察知します。この不気味さ、不穏さこそがこの巻の醍醐味といえるでしょう。ここまで悪魔六騎士側はサンシャイン、ザ・ニンジャと連勝したものの、本来『キン肉マン』は勝敗が非常にシビアな作品です。強大な敵にボロ負けするだけならまだ優しい......ほとんどの場合、命すら奪われてしまうのがこの漫画なのです。その意味では、完璧始祖超人がこれ以上連敗を重ねると、彼らの威厳をいささか落としかねない大事な局面ですが、一方で六騎士側のトリを飾るのは人気・実力共に悪魔超人軍トップのアシュラマン。
これは本当に展開が読めません。まさしく両陣営、絶対に負けられない試合というわけです。僕個人としては、アシュラマンが大好きなので、「なんなら、ちょっと弱そうな始祖きてくれ!」と心の中で願っていました。ですが、アシュラマンが口にしたように、確かに感じるのです。これまでの始祖とは異なる、得体の知れない猛者(もさ)の気配が......。果たして、謎に満ちた対戦相手はどんな超人なのか? 緊張と興奮は、最高潮を迎えます。
その直後、暗雲から声が響き渡り、巨大な手が雲をさくと、天の光の中から見覚えのあるシルエットが現れます。まるでRPGゲームのラスボスが登場するような神々しい演出とともに顕現(けんげん)したシルエットの正体は、なんとあの伝説の超人ジャスティスマンだったのです......!

熱心な読者なら知らない人はいない!? あの「天上兄弟喧嘩」を裁いた
天から舞い降りたジャスティスマンがその名を明かした瞬間、アシュラマンの華麗な勝利を期待していたファンは青ざめたのではないでしょうか。よりによって、このタイミングで、今なお神話として語り継がれる伝説の超人が登場するなんて...!
ジャスティスマンは、アシュラ一族との浅からぬ因縁を語り始めますが、魔界の坊っちゃまは高飛車な態度を崩しません。ジャスティスマンの静かな殺意を感じながら、ゴングが鳴って試合開始。先制はジャスティスマンのハイキックでした。その一撃により、アシュラマンの腕飾りがコーナーポストに置かれた"裁きの天秤(てんびん)"に落下。すると、まるで両者の実力を占うように、独りでに天秤が左右に揺らぎ始めました。ジャスティスマンの予想とは裏腹に、天秤は現時点では均衡を保っておりますが、今後どちらに傾くのでしょうか?
アシュラマンの最大のアドバンテージは、やはり6本ある黄金の腕でしょう。試合序盤から、6本腕を駆使した「阿修羅六道蓮華(あしゅら りくどうれんげ)」などを繰り出して攻め立てます。打撃・関節・投げ、いかなる攻撃も2本腕の超人に比べて、手数も威力も3倍。これほど単純明快かつ、反則的な個性はありません。必然的にアシュラマンと闘う超人は、この6本腕に散々苦しめられることになるのですが、ジャスティスマンは違いました。彼はひとつひとつの技を冷静に見切り、掌底一発でアシュラマンの頭を軽々しく吹っ飛ばします。
恐ろしいのは、ジャスティスマンは一見すると普通の人型超人なことです。アシュラマンと比べて、身体的な特徴や特殊能力も一切ありません。しかし、心技体のどれもがずば抜けており、すべての所作が完璧なのです。言ってしまえば、究極のオールマイティー。弱点もなければ、天敵も存在しない。それが、ジャスティスマンなのです。

無言のまま上体を起こすジャスティスマン。恐ろしいほどの強者感が漂う...!
さらに、ここで『キン肉マン』流のトンチが光ります。ジャスティスマンから言わせれば、腕がたくさんあるということは、強力なアドバンテージである反面、考えようによっては同等以上のリスクを伴っているというのです。論より証拠、さっそくジャスティスマンは、アシュラマンの三本の左腕を同時に絡める「大木腕固め」という豪快な関節技を披露。そして悶絶するアシュラマンに対して、「こうして3本同時に料理すればそのダメージも3倍だ」と囁(ささや)くのです。
〝ストロングスタイル過ぎる一休さん〟とでも言いましょうか......それができたら苦労はしないというか、どんな超人でもアシュラマンの6本腕を前にすれば、恐怖心と警戒心で身体がすくんでしまうものでしょう。それなのに、ジャスティスマンは「関節技のかけ放題」とばかりに、嬉々としてアシュラマンの身体を破壊していくのです。こんな怪物を相手に、アシュラマンは勝機を見出せるのでしょうか。
その後も、ジャスティスマンの一方的な殺戮(さつりく)ショーは続きます。「ジャッジメントクラッシュ」、「ジャッジメントツイスト」、「ジャッジメントアヴァランチャー」といった必殺技のオンパレードで、鳥の羽をむしるようにアシュラマンの腕を一本ずつもいでいくのです。しかも、腕がもげていくたびに、「これでお前の戦力は4/6」と淡々とカウントダウンしていくのが本当に恐ろしいですね。
ついにはアシュラマンの腕は残り2本となってしまい、ジャスティスマンと対等になってしまいます。いや、6対2の状況で手も足も出なかったのに、2対2になってしまったとなれば、もはやこの勝負はついたも当然です。しかし、絶望的な状況の中で、同胞のバッファローマンが魔界のプリンスを激励。それを受けて、ついに逆転の一手を見出しました。

目を覆いたくなるような惨状に、試合を見守る魔界の兵士たちも阿鼻叫喚...!
自暴自棄にでもなってしまったのか、アシュラマンは不適な笑みを浮かべると、自爆ともとれる自暴自棄なファイトで、最後に残った2本の腕すらも切断してしまいました。もちろん、これは計算された行動です。アシュラ一族には、ジャスティスマンの弟子であるミロスマンの遺伝子が流れています。そのため、無意識下でミロスマンのクセを模倣してしまい、ジャスティスマンにことごとく見切られてしまっていたのです。
逆に言えば、すべての腕を失った今、ミロスマンの呪縛から解放され、アシュラマンの攻撃はジャスティスマンに読まれません。まさに、目には目を、ストロングスタイル過ぎるトンチにはストロングスタイル過ぎるトンチを...です! 間髪入れず、アシュラマンは悪魔霊術を発動。ここまでの闘いで死んだ悪魔超人の腕を自身の腕に生やすことで、元通りの6本腕へと戻ります。散っていった同志たちの腕で反撃に転ずる、というアツい展開なのはもちろん...ここまでの劣勢をひっくり返す、超どんでん返し! とてつもなくカタルシスのある名シーンです!

闘いに敗れ去った悪魔超人の想いと腕を宿し、再びジャスティスマンに挑む!
6本腕を取り戻し復活を果たしたアシュラマンは、これまでの鬱憤(うっぷん)を晴らすようにジャスティスマンに攻め立てます。しかも、ミロスマンの呪縛から解放されたことで、一撃一撃がジャスティスマンにクリーンヒットするではありませんか。このチャンスを逃すわけにはいきません。
怒り面となったアシュラマンは、ジャスティスマンの露出している頭部に狙いを絞って、自身の持つ最高最大の必殺技「ブラッドユニット阿修羅バスター」をしかけました。しかし、ここで致命的な大誤算が...アシュラマンが狙った部位は、ジャスティスマンの肉体の中でも最も強固な、ダイヤモンドパワーに匹敵するほどの硬度を誇っていたのです...!

弱点と見込んだ頭部への攻撃を返され、逆に頭部にダメージを負うアシュラマン
なんという悲運...アシュラマンの最後の望みが砕かれ、おそらく大半の読者もアシュラマンの勝利への道は閉ざされた、と絶望したことでしょう。
それでもアシュラマンは、自身のふがいなさを"無限の怒り"に変え、ジャスティスマンに立ち向かいます。その凄まじい気迫に、ジャスティスマンは天界を出奔(しゅっぽん)する前の、ありし日のゴールドマンの姿を思い出しました。
ここで、終始冷静だったジャスティスマンがわずかに取り乱します。まるで旧友、ゴールドマンへの怒りをその弟子にぶつけるように、アシュラマンの全身を徹底的に破壊し尽くします。復活した腕を次々ともぎ取り、三つある顔のうち、怒り面、冷血面を陥没させます。そして最後は「完璧・陸式(パーフェクト・シックス)奥義 ジャッジメント・ペナルティ」で、アシュラマンに残された全ての腕と、最後に残った笑い面も粉砕したところで試合終了...!
この試合で6本の腕を失い、再生した6本の腕をも破壊され、3面の顔もすべて潰されるという...『キン肉マン』史上、最もむごたらしい敗北をアシュラマンは迎えました。まさか記念すべき第50巻で、このような地獄絵図を見ることになるとは。本当に「ここまでやるか...!?」と思わずドン引きしてしまうほどのトラウマ展開ですが、同時にゆでたまご先生の新シリーズに対する本気さが伺えます。
そして、一見惨敗のように思えた一戦ですが、驚くべきことに"裁きの天秤"はイーブンを示しておりました。このことは、ジャスティスマンに少なからず動揺を与えたようです。
これにて長かった悪魔六騎士vs完璧超人始祖の団体戦は終結となります。闘いの後、ジャスティスマンはサイコマン、ガンマンと、互いに思うところがあるような、不穏な会話を交わします。ここで勝ち残った完璧超人始祖が勢ぞろいとなりますが、とんでもなく強い超人たちが残ってしまった印象があります。これから一体誰が、この怪物たちの相手をしなくてはならないのでしょうか? ワクワクとハラハラがせめぎ合う、これぞまさしく、少年漫画の王道的な展開ですね!
さらにさらに、この巻のラストでは、キン肉星のマッスルガム宮殿に鎮座していた銀のマスクにフォーカスされます。当初、銀のマスクは平和を象徴するかのような笑顔を浮かべていましたが、「シャキィン」という効果音と共にマスクを着けた険しい表情となり...?

平和の象徴でもある銀のマスク(左)が...バトルモードに!?(右)
気になる引きで幕を閉じる第50巻でしたが、次巻では始祖が持っていたダンベルの秘密が明かされます! 悪魔超人軍はなぜ謎のダンベルを奪い集めているのでしょうか? そして銀のマスクに起きた異変の原因とは...? 数々の謎が明らかになる第51巻のレビューも楽しみにお待ちください!
●こんな見どころにも注目!
ジャスティスマンとの試合終盤の一コマ。アシュラマンの腕に宿ったステカセキングの腕がジャスティスマンにもがれた時、仇討ちとばかりにスプリングマンの腕が、勝手にジャスティスマンにパンチを浴びせます。この後の散り際の一言も含めて、本当にスプリングマンはステカセキングのことが好きすぎる...!
新シリーズでは、ステカセキングとスプリングマンの熱い友情エピソードがいくつも語られていますが、いつか死と隣り合わせのリングの上ではなく、穏やかに過ごしている彼らの日常を見てみたいものです。
●おぎぬまX(OGINUMA X)
1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家、小説家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン。原作者として参加している『笑うネメシス―貴方だけの復讐―』が『漫画アクション』(双葉社)にて連載中。ミステリ小説シリーズ『キン肉マン 四次元殺法殺人事件』、『キン肉マン 悪魔超人熱海旅行殺人事件』が好評発売中
構成/石綿 寛(樹想社) ©ゆでたまご/集英社
記事提供元:週プレNEWS
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