「主演じゃなくてもいい」唐沢寿明が明かす45年の“俳優道”と“縁”の力
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イチオシスト
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【役者魂VOL.4後編】
ドラマ9「コーチ」(毎週金曜夜9時)で、主人公・向井光太郎を演じている唐沢寿明を取材。俳優としての矜持を聞く【後編】。
※前編はこちら
【動画】唐沢寿明が新境地!ドラマ「コーチ」最新回

俳優生活45年、今なお第一線で輝き続ける。名優・西田敏行から受けた教えや、「主演より作品重視」という信念を包み隠さず語ってくれた唐沢。60代に入った今、彼は何を考え、どんな境地を目指すのか。
アクション俳優からトップへ 師と仰ぐ名優の言葉
16歳で芸能界入りした唐沢。俳優としてのキャリアは、スタントや特撮シリーズのスーツアクターから始まる。10~20代の頃を振り返って、今どんな思いがあるのか。
「東映撮影所でスタントマンの駆け出しから始まり、人気特撮シリーズの戦闘員役などもやっていたので、やれ“宙返りだ、殺陣の練習だ”という毎日でした。“俺の背中を見ろ!”じゃないけれど、先輩や先生がやることを目で盗むしかないという時代でね。
そんな中、立ち回りや殺陣が上手い先輩がいたら、“この人はなんでこんなにすごいんだろう?”と考えながら、日々実践していました。でも、それをただ眺めているだけの人もいるじゃないですか。“なぜだろう? どうすればできるようになるのだろう?”と思わないと、成長はできないと思います」
“令和のコーチ像”を描く本作にちなみ、「“人生のコーチ”は誰か?」と問うと、「若い頃、いい俳優さんたちと共演させてもらうことが多かった」と話す。
緒形拳、樹木希林に加え、自身の代表作の一つである「白い巨塔」(2003~2004年、フジテレビ)で共演した西田敏行の名を挙げた。
「西田さんの娘婿役をやらせてもらった時、“自分の中に夢や希望がなくなったら、見ている人に夢や希望を与えられない”と言われて、“なるほどな”と思いました。“夢や希望を持って俳優という仕事をしているのかな、俺は…”と、ちょっと考えさせられましたね」
放送当時、西田は56歳。現在の唐沢よりも6つほど年下だったことになる。
「年を重ねると自分たちの中で夢や希望がなくなってきて、いろいろなことを考えますよね。それが普通だと思うけれど、そういう自分を“見てくれる人がいる”と奮い起こしてやっていく。見ている人たちも、俳優や創り手側のそういう気概を感じ取るものだから、我々は、信じたことを粛々とやっていくしかないんですよね」
「白い巨塔」から遡ること10年ほど前。転機となったのは、1992年、トレンディードラマ全盛期に放送された「愛という名のもとに」(フジテレビ)だった。
「歳をサバ読んでいた頃だね(笑)。俺の本(『ふたり』)でも書いてあるから、別にいいんだけど。当時29歳だったのに、ドラマの資料では27歳になっていると思う」
「とにかく必死だったんですよ。できることは何でもしたかった。ありがたいことに世間に認知されるようになって、“何とかやっていけるかな…”と思えたのが、この作品。当時はアイドル俳優のような扱いでしたね。もちろん、自分なりに精一杯やったつもりだったけれど、そのイメージを覆すまでには時間がかかったし、年齢よりも若く見られがちなんでね。30代前半の頃は、そこにもちょっと抗っていました」

「縁」を大事に、年相応の役でさらなる高みへ
近年は、連続ドラマW「フィクサー」(2023年、WOWOW)や「プライベートバンカー」(2025年、テレビ朝日)で、クセの強い主人公を立て続けに好演。個性的なビジュアルも含めて話題を呼んだ。
「(役作りにおいて)好き勝手やっても、そこそこ大丈夫だなっていう手応えが出てきたんでね…というのは半分冗談で(笑)、いつまでも若い役ばかりやっているわけにはいかないじゃないですか。若作りをしたいとは思わないけど、俳優として、それを望まれることもある。でもそればかりでは、いい俳優にはなれないと思うんですよ。60代の西田さんや緒形さんが、どれほど重厚な芝居をされていたことか」
ヒット作や話題作が多いことから主演俳優というイメージが強い唐沢だが、そこに対してのこだわりはない。
「主演じゃなくていいと思っています。脇役もたくさんやってきましたし、俳優はご縁も大事。福山(雅治)くんがやっていた『ガリレオ』(2007年、フジテレビ)の第1話でゲスト出演させていただいた時は、『白い巨塔』と同じ監督だったんですよ。飲みの席で、『こういう作品をやるんだよ』と監督から聞き、『出ますよ』と。それで、町工場に勤める犯人役をやることになりました。あの時も相当監督と話し合い、畳がだんだんすり減っていく描写を提案しました」
町工場の技術者である犯人(唐沢)が、唯一の趣味であり生きがいを邪魔する若者グループを炭酸ガスレーザーで襲う。照準を合わせるために、毎夜実験を繰り返す犯人…失敗する度に地団駄を踏むことから、やがて畳に穴が開いていく――。孤独な男の執念を分からせる印象的なシーンだ。
「そういうのが好きなんです。ディテールをしっかりと詰めて、作品として絶対に面白くなるという確信が出てきた時、それを監督に提案してとことん話し合うのが好き。演技が好きだから俳優をやっているだけなんでね。なので主演じゃなくてもいいんですよ」
昭和、平成、そして令和――3つの時代で輝きを放ち続け、見る者を物語の中に没入させてくれる稀有な俳優。45年にわたる俳優生活で大事だと思うものは「縁」だと力を込めた。
「俳優というのは、役をいただいてなんぼの仕事で、役と巡り合うのは、人との出会い、ご縁なんですよね。俳優人生を振り返ると、僕はこの出会いに本当に恵まれている。
もちろん、自分で頑張ったこともたくさんあるけれど、皆さんの印象に残る出演作のほとんどが人との出会いによって生まれたもの。その縁がまた次につながるわけです。
僕はラッキーなんですよね、きっと」
「ラッキー」と言うところが、苦労人らしい。今後はどんな姿を見せてくれるのか。
「自分の中で人生設計もありますし、いろいろ考えていますよ。これくらいの年齢でこんなことができたらいいなとか、このへんの感じだったらもうやらなくていいなとか、そんなせめぎ合いも含めて楽しくやっていけたらと思っています。
何事も若い時と同じだとは思わない。若い時とは変わって当然ですし、それを隠さず堂々と認める。年相応の役を年相応にやっていきたいですね」
【唐沢寿明 プロフィール】
1963年6月3日生まれ、東京都出身。1987年、舞台『ボーイズレビュー・ステイゴールド』で本格デビュー。俳優として数々のドラマや映画で主演を務め、特に2003~2004年放送のドラマ『白い巨塔』の財前五郎役は代表作の一つ。
また、アニメ映画『トイ・ストーリー』シリーズでは、主人公ウッディの日本語吹替版を担当。映画『ラヂオの時間』で『日本アカデミー賞』優秀主演男優賞を受賞するなど、舞台から映像まで第一線で活躍している。
【第2話】

東新宿署の所(犬飼貴丈)はその人当たりの良さを活かそうと、取調べ担当官を目指している。しかし、いざ本番になると大学生(田中洸希)にすら振り回される始末。そこへ応援という名目で、向井(唐沢寿明)が現れる。容疑者の弱みにつけ込むような向井のやり方に不満を覚える所だが…。
そんな折、とあるクラブで乱闘騒ぎが発生。被害者の証言によると犯人は俳優の増岡(渡邊圭祐)らしい。所は増岡の取り調べを任されることに-。
(取材・文/橋本達典)
記事提供元:テレ東プラス
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