現代アイドル界屈指の作詞家が指南する「ロジカルなアイデアの見つけ方」と「AIとの向き合い方」
自他共に認める「世界一かわいい音楽を作る作詞作曲家」のヤマモトショウ氏
TikTokで30億回再生を記録したFRUITS ZIPPER『わたしの一番かわいいところ』(以下、『わたかわ』)をはじめ、話題作を連発するアイドル楽曲のヒットメイカー・ヤマモトショウ。自他共に認める〝世界一かわいい音楽を作る作詞作曲家〟のヤマモト氏が、SNS&AI全盛の現代におけるモノ作りを語る。
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――まずは「作詞」との出会いを聞かせてください。
ヤマモト 大学時代に組んでいたバンドで、オリジナル曲を作るために担当し始めたのがきっかけです。
その後、そのバンドを母体にした「ふぇのたす」でメジャーデビュー。この頃には今につながる〝かわいい〟が前面に出るスタイルになりました。
ちょうどアイドルもライブハウスで戦い始めた時期......でんぱ組.incやBiSが下北沢の小さなライブハウスにいた時代で。バンドを見に来るお客さんより、彼女たち目当ての人のほうが多かったんですよね。だったら「この人たちに響くもの」を作ったら、ふぇのたすも勝負できるんじゃないか、と。
――ボーカル・みこ氏の歌声もキュートでしたもんね。
ヤマモト そんなボーカルの良さを出すことを考えた時期ですね。そこからアイドルと共演することが増えていき、徐々に楽曲提供の話をいただくようになっていきました。
――2015年から18年まで、アイドルグループ「フィロソフィーのダンス」の全曲で作詞を担当。ここで書いていたテーマは〝哲学〟がメインで、〝かわいい〟ではなかったですよね。
ヤマモト そうですね。でも、書いていること自体は当時からブレていないかなと思っていて。
基本的に、アイドルのライブに来る人は幸せを求めています。それはフィロソフィーのファンであれ、FRUITS ZIPPERのファンであれ同じです。彼らに受け入れられる作品を書く。つまり「多幸感」を書くことは当時から変わらないんです。
――今の〝世界一かわいい音楽を作る作詞作曲家〟という肩書につながる転機は?
ヤマモト 「リルネード」というグループに書いた『もうわたしを好きになってる君へ』ですかね。発注時に言われたのは「20年代のオシャカワを」というひと言で。それだけ聞いても「何それ?」ですけど(笑)、なぜか書く自信はあったんですよね。ふぇのたすやフィロソフィーでの経験を生かせば、と。
実際、FRUITS ZIPPERの『わたかわ』の制作時も、「リルネードのあの曲みたいな曲が欲しい」という発注でした。その後『わたかわ』が話題になったおかげで、「これが新しい時代の〝かわいい〟か」と、自分なりの型ができた感じです。
――今の話だと、「前よりかわいい曲をお願いします」なんてアバウトな依頼も多そうですね。
ヤマモト 実際多いので(笑)、自分の過去と戦う世界だと思って頑張っています。でも、実は僕はアイドル自体が一種の「カウンター文化」だと思っているんです。
――カウンター文化?
ヤマモト 「会いに行けるアイドル」の次に「今、会えるアイドル」がいて。コロナ禍で会うことが難しくなれば、今度はTikTokがベースになっていく。そんなふうに、更新を続けている業界ではあるんですよね。
――そういえば、FRUITS ZIPPER『NEW KAWAII』って、モーニング娘。『ザ☆ピ〜ス!』のカウンター楽曲ですよね。〈好きな人が 優しかった〉の令和版が〈大好きな人が にゅーかわいかった〉なんだろうな、と。
ヤマモト そうですね。実際、『NEW KAWAII』を書く以前も、いろんな方から「『ザ☆ピ〜ス!』みたいな多幸感のある曲」という依頼を受けることが多かったんです。その上で、新しく彼女たちの代表曲になるべき曲を書くタイミングがあって。「これだけ求められてきたんだから、ここで〝令和の『ザ☆ピ〜ス!』〟を作るぞ」という意気込みでした。
――新しい〝かわいい〟はどうやって見つけるんですか?
ヤマモト 正直、なんでも〝かわいい〟になりえるんですよね。例えば虫を飼ってる人がいて、飼い主からしたら「毎日、自分が帰ったらこっちに寄ってくるかも」が〝かわいい〟かもしれないし。あとはフルーツパフェに入ったブドウを見ながら、「ブドウってひと房だと存在感あるけど、ひと粒だと小さくてかわいいかも」とか。そういう小さな気づきを探すことですかね。
――また、本書の「タイトルは最初に決めて変えない」という内容が印象的でした。
ヤマモト 楽曲や歌詞って、基本的には「一度試しては崩す」の繰り返しなんですよ。自由度が高すぎるし、悩んでいると軸もブレていく。だから初めに、いわゆる〝商品名〟になるタイトルを決めて基準にするんです。
――タイトルにふさわしい曲と詞を作るようにする、と。
ヤマモト そういう縛りはモチベーションにもなるんですよね。昨年、僕がプロデュースするアイドル「fishbowl」のアルバムでは、全曲タイトルに漢数字を入れて、頭からその数字順に並べていくという制作をしました。
――『一雨』『二兎』『三島』『四季』。面白い試みでしたね。
ヤマモト 大変でしたけど、そのほうがクリエーティビティも研ぎ澄まされます。自分が曲や詞を書く意義にもなりますしね。
――意義ですか。
ヤマモト 正直、もはや曲も詞も「誰が書いていようがわからない時代」というか。「作詞作曲・ヤマモトショウ」と書かれていたら、AIで作られていてもわからないと思うんですよね。
――確かに......。
ヤマモト クレジット自体が価値を持ってしまう時代なんです。映像にしても絵画にしても、技術的な話でいえば誰でもAIで作れてしまう。
そんな時代でも楽曲制作を続けるのは、結局は自分自身に「作りたい」という欲求があるからですね。とはいえ、今後AIに作れないものは限りなく少なくなっていく。僕はAIを作業の中にうまく取り入れていくのが自然だと思うのですが、その上で「新しいものを〝自分〟で作る」「AIに負けたくない」という気持ちを、絶対に持っておくべきだなと思います。
■ヤマモトショウ
1988年生まれ、静岡県出身。作詞作曲家、音楽プロデューサー。東京大学文学部思想文化学科哲学専修課程を卒業後、ロックバンド「ふぇのたす」のメンバーとしてメジャーデビュー。その後、作詞作曲、サウンドプロデュースを中心に活動しながら、地元・静岡でアイドルグループ「fishbowl」を立ち上げ、楽曲制作のみならず、地元企業との提携など、さまざまな活動をプロデュースする。2024年には音楽ミステリー小説『そしてレコードはまわる』(幻冬舎)を刊行
■『歌う言葉 考える音 世界で一番かわいい哲学的音楽論』
祥伝社 1760円(税込)
バイラルヒットを連発する2020年代注目の作詞作曲家が、現代の歌詞、音楽の作られ方について書き下ろした初エッセー。「良い歌詞とは何か」「ヒット曲のためのタイトル作成法」「言葉の集め方」といったテーマを、東京大学思想文化学科出身の知識などを援用しながらユニークに考察。登場するのは自身の制作エピソードのみならず、日本が誇る数々の名曲が誕生した舞台裏。アイドルファン以外にも彼の思考法は参考になるはず
『歌う言葉 考える音 世界で一番かわいい 哲学的音楽論』祥伝社 1760円(税込)
取材・文/アオキユウ(short cut) 撮影/佐々木里菜
記事提供元:週プレNEWS
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